令和四年の三月三十日。――千佳の場合。

大創 淳

第十一回 お題は「日記」


 ――それは午前十時の穏やかな風が流れる中、僕のお部屋の中で起きたことだ。



 令和四年の三月三十日……


 緩やかに、温かな気温……勉強机の引き出しの中から、それは出て来たの。これまでの慌ただしかった毎日が嘘のように静かだったこの日、僕はそれによって、……そう、それによって重大なことを思い出したの。この日の、つまりは今日の十一時五十九分が〆切だということを。この度のKAC、第十一回目のお題は、日記ということを……


 出て来たものは、そうなの、


 ……お題である「日記」なの。但し、僕のではなくて……誰のだろう? 学園でもないのに七不思議は健在。お部屋の中でも、ミステリーは存在するものらしい……


 ペラペラ……


 捲りめくページ、文字を追いかける。丸い文字なら瑞希みずき先生を連想させるけれど、瑞希先生は小学生の頃から日記を書き続けているという、持続のお人。僕には真似できないということで、まずは僕の日記は存在していないから、じゃあ、誰? 誰のものなの?



 そこからの執筆に講じる……


 〆切まで間近だから。まるで師走のように慌ただしくも、心躍る感覚も湧き出し、出て来た持ち主不明な日記。その持ち主を捜す展開となってくるの。


 手掛かりは、達筆な文字。その日付は、……ええっと、六年前となる。その書かれてある内容とは……マジカルエンジェル。この子は毎週欠かさず観ているほど大好きな番組のようで、僕もまた同じなの。マジカルエンジェルの初代が『みずき』と呼ばれる子。


 そこから年月は流れに流れ……


 いつしか戦隊ものみたいに、五人組や三人組が主流となってきて……ちょうどその頃が日記ブームの再来となったの。すると、そこに現れたの。――この騒ぎの張本人が。


「バレちゃったようだね。……でも、何でわかったの?」


「その前に、一つ訊きたいの。何で今は書いてないの?」


「――ン、何となく。もう大丈夫になったから。マジカルエンジェルの日記帳が大好きだった女の子に、もう会えたから。……実はね、一度会ってるのよ。同じ日記帳を取り合いした子。お店で。限定版だったから。僕が泣いちゃうとね、譲ってくれたの。でも言えなかった。ありがとうって。だからね、その女の子のことを、書いていたんだよ」


 ――千佳ちか、ありがと。


 そう梨花りかは言ったの。僕らを繋いだのは、そっと仕舞われていた日記……ということ。



 そして僕が何故……


 その日記が、梨花のものだと解ったのか? 喩えるなら、それは癖。梨花特有の癖というものが溢れているの。達筆ではあるものの、その文字の大きさはビッグサイズ。マスからはみ出している。僕とは大違い。それでも僕も大きな字が書けるようになった。


 それでも、梨花の癖と僕の癖は異なる……


 日記で書かれてある文章の癖も。やはり違っていた。


 そして日記から、エッセイへの展開を遂げて、梨花は執筆をするようになったのかも。


 なら、僕も同じだね。


 梨花のエッセイに励まされて、僕もエッセイを書くようになったから。


 同じ、とある小説サイトの庭、


 二人で飾ったKAC……その一部始終。これからもまた、心新たに出発なの。桜舞うバルコニーから流れる温い春の風、高等部となる心構えとその整理に励む。


 日記はまた……

 新たな自分を告げる出会いの場。新たな自分との出会いの場となるの。


 鏡のように……

 自分の裸の心を映している。それは、自分の素の心が濁らないように。



 とある小説サイト『書くと読む』


 これからもまたエンジョイしていこうと、僕らは心に決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

令和四年の三月三十日。――千佳の場合。 大創 淳 @jun-0824

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ