第3話 契約
「いっしゅうかぁん────!?」
後ろの方で部屋に入ってきたメイドさんが、私たちの声に驚いて紅茶のカップを落としかけた。
「はい! おいら抜けます!」
「落ち着け、まだ一週間ある、つまりえっと、二十四時間かける七して……えーっと、つまり七日もあるってことだ。余裕余裕」
「僕たち一週間後に死ぬんだぁ……」
そしてまた男子陣がうるさい。
それにしても一週間──私たちの祖先が、これまで誰にも盗られないよう封印された、存在するかも怪しいと言われている石を探し出すのに、たったの一週間。
とてもじゃないけれど、私たちには不可能だ。
確かに私たちはこの国を導く後継者ではあるが、言ってしまえばただの仲の良い高校生五人組に過ぎない。
それに私たちは何かと自我が強く、それでいて中々な頑固さだと、これまでボランティアの時に地方をまわった際に耳が痛くなるほど言われてきた。
つまり何が言いたいかって、一般的に私たちは協調性というものが欠如しているらしい。
普段過ごす中では、私は気が付かないことが多いが、言われてみれば他の四人は傍から見てだいぶ癖が強い。
例えばカナエ。カナエは一見、クラスの中でも決して目立つことを好まない、後ろ向きで大人しい生徒──俗に言う陰キャというのだろうか──と思われがちなのだが、ちょっとしたでも困ったことや不安を感じた瞬間、周りの目が見えなくなるほどに教室内で発狂したり、あるまじきことかドアを強く蹴りつけたりすることがある。
最初の頃は「あいつやっぱ変わってる」「話しかけるにはちょっと危ない子だよね〜」とクラスの中で陰口を叩かれていて、私もそれを度々耳にしていた。
ホノカの方は、一見誰が見ても優等生だが、見た目からは想像できないほど頑固で、私たちがまだ小さかった頃はしょっちゅう意見がぶつかり合っていたほど。
今は少しは落ち着いたものの、それでもやはりホノカの考えを笑い交じりに話そうものなら、ツタを生やして物理的に口を塞がれる(これによって以前、ラオネに告白したことがクラスの噂好きな男子にバレた際、廊下で逆さ吊りにされていたのを見たことがある)。
冷静沈着で、五人のまとめ役のようにみえるニーズヘッグはというと、冷たい口調に反して物凄くマイペースなのだ。
いや、マイペースなんて可愛らしいものではない。あれはピントのずれたカメラのように、本当に一切周りが見えていないような時が数多く存在する。以前なんて学校に、飼っていたらしいネズミを何故か頭に乗せて登校してきたり、休日は女に変装してはフラフラ遊んでいるなんていう恐ろしい噂も耳にしたことがある。
そしてラオネは言わずもがな。
本当に、私たちなんかにこの国を託して大丈夫なのだろうか。
「紅茶をお持ちいたしました」
メイドさんが、私たちの座るソファの前方に置いてある小さな机にティーセットを準備する。
一周回って冷静さを取り戻した私とホノカは、荒れ狂う男子を差し置いて女王と再び向き合った。
「その四地方それぞれの何処か特定の場所があるの? それに、もしその石が簡単に見つけ出せるようなものならとっくに誰かが盗むにきまってる」
私が首を傾げて腕を組むと、女王は「その通りです」と苦悶の表情を見せた。
「フラムさんの仰る通り、この五千年間一度も石を手にしたものはいません。その道中で亡くなった方が数え切れないほど存在すると言われています」
そこまで言うと、女王は意を決したように顔を上げ、私たちを懇願するように見つめた。
「ですが安心して下さい。貴方たちに手伝ってもらうのにあたって、『
女王は私たちを安心させようと優しく微笑んだ。
きっと女王だって私たちと同じ気持ちに違いない。まだ新米の女王だ。私たちと歳も近いのにも関わらずこんな国の危機から国民を守らなければならない。私たちには計り知れないほどの責任を背負ってるのだ。
ようやく少しは冷静さを取り戻したカナエがおずおずと手を挙げた。
「あの……い、命を保証するって、そんな、どうやって……?」
すると、女王はポケットから数枚ほどのトランプのようなカードを取り出した。
「これは『魔道武器』が封印されている特別なカードよ。元々これは『
女王は「どうぞ」と私たちに四枚のカードを差し出した。
四枚のカードには、四季の神『ホーラ』が、どれも同じように描かれていた。
五人で顔を見合わせて「先フラム引けば?」「僕は誰かの次に……」「こ、これ取っていいの?」と小声で言葉を交わす。
話し合った結果、トップバッターにカードを抜ぬこととなったのはホノカだった。
恐る恐る右手を伸ばし、一番左のカードを引いた。
「武器って、でもこれただの」
と言いかけた途端。
ホノカの手の中のカードは、まるで飴細工のように、どろりと溶けるようにして空中に弧を描いていく。
「ひゃぁっ!」
ホノカが驚いて思わず手を離しそうになるが、「まだ離しては駄目よ」と女王が引き止めた。
元々カードだったものは、目まぐるしく姿を変えていき、徐々にその形がはっきりとしていく。
「これ……弓かしら?」
まるで飴細工の過程だったものは、青白い光を放ちながら美しいツルが絡みついていき、三日月のようなカーブを描いていった。
蜘蛛の巣のような細く艶やかな糸が張り、弓の中心には赤いアネモネの花が一つ、独特な存在感を示している。
それを見て女王が満足気に頷いた。
「ホノカさんには『弓』が選ばれたのね。アネモネの花……貴方にぴったりですわ」
「えっ、これって人によって変わるんですか?」
ホノカが右手に収まる大きな弓を眺めながら尋ねた。
「えぇ。魔道武器というものは、このカードをこのカードを手にした持ち主の『
女王自体も、魔道武器を見たのはやはり初めてなのか、目を輝かせてホノカの持つ弓をまじまじと眺めた。
確かに、ホノカは学校では弓道部に属していることもあり、弓の扱いには長けているに違いない。女王の言うこともあながち間違いでは無いのだろう。
「さぁ、次は誰がカードを選びますか?」
再び女王が、残るカード三枚を差し出した。
カナエとニーズヘッグが同時に私を見る。どうやらレディーファーストという名の押し付けらしい。まぁ仕方がない。ホノカが最初に引いてくれて助かった。
私は迷った挙句、三枚のうちの真ん中のカードを引き抜いた。
すると先程のホノカと同じようにどろりとカードが溶けていき、ペカペカと光を放ちながらその形を変える。
「凄い、ゲームに出てくる剣みたい」
カナエが口を大きく開けて一歩だけ後ずさった。
私の選んだカードはついに、はちみつ色に輝く一つの諸刃の剣となっていった。
それはまるで、私がずっと憧れていた英雄の持つ、ただ一つの美しい剣のようで思わず心臓がとくとくと高なった。
しかし、感嘆の声が漏れそうになった時、
「え……?」
私はその剣に違和感を覚えた。
剣の持ち手に現れた『私を象徴する何か』。
それは炎使いの私とはかけ離れた、ホタテ貝のような形の鮮やかな紫色の貝殻が一つ、心臓のようにカチリと収まっている。
「あぁ。これはヒオウギ貝の貝殻だわ。こういうカラフルな色が特徴的なので」
女王が「人魚姫のようね」と言って私の顔と剣を交互に見た。
「これ、絶対私のじゃないよ。どう考えても、紫色の貝殻なんてママのことじゃん。私は海に関する力も持ってないし、泳げないから水も苦手」
なんだか急に心がひんやりと冷たくなっていくのを感じた。
これは私の象徴なんかではない。本来ならきっと、私の母が手にするべきだったものを、何かの間違いで私が手にしてしまっただけ。
ふと我に返って剣から目を離すと、周りの皆が不安げにじっと私を見つめているのが伝わってきた。
げっ、まずい。場の空気を悪くしてしまったかもしれない。
「あ、あーあ! せっかく炎っぽいかっこいいドラゴンみたいなマークかな〜って思ったのに! こんな綺麗な貝殻なんて、私にゃ勿体ないね!!」
わざと大声を出してわっはっはと笑い、死にかけた空気をなんとか奮い立たせる。
その姿に安心したのか、皆もくすりと笑ってくれたため、心の中でそっと胸を撫で下ろした。
そんな安堵も束の間、最初に女王がカードを取り出した時から気になっていたことをラオネがついに言い出したのだ。
「これ、おいらが触るとどうなるのかな」
悪戯を仕掛けた子供のような目で女王を見た。
そう、カードは初めから四枚しかない。
これについては私も引っかかっていた。
カードは私やホノカのような、四季の『
そして女王のように力を持たない人間は、カードはあくまでただのカードであり、イラストの描かれたトランプとなんら変わらない。
だが、ラオネは四季の『
女王が「えっと……」と言葉を詰まらせた。
少しの間の後、ぽつりぽつりと言葉を繋いでいった。
「実は私も、このことは承知の上で貴女たち『五人』をここへお呼びしました。正直、ラオネさんのような特殊な例外を見たのは私も初めてで……」
ラオネは至って冷静な面持ちで女王を見つめていた。
これに関しては私たちがとやなく言えるようなことでは無いように感じた。
そしてラオネはいつだって表情が読めない。
自分のカードが無いことに少しの不満を抱いているのか。はたまた私たちが次々と武器を手にしていくのを見ていく中、突然舌打ちの一つをしては次の瞬間、こちらをあの神秘的な瞳を鋭く細めて睨みつけてくるのではないか。
そんな淡い期待と恐怖心がグツグツと煮えたぎるのを感じた。
しかしそれは単なる私の妄想であって、やはり現実のラオネは鼻歌でも歌い出すかのような軽いノリで話し出す。
「ふーん。でもきちんとおいらのことを知ってここへ呼び出してくれたんでしょう。はは、そろそろおいらだって、こいつらと同じ『
ラオネが腰に手を当ててニヤリと笑う。
その姿はいつも通りのラオネだ。やはり怒ってもいなければ、特に気にして悲しいわけでもなさそうだ。
「でも、カードは最初から四枚しか存在していません。触れてみる分には構わないけれど、きっと上手くいかないわ」
女王が心配そうに眉を寄せてラオネにカードを一枚差し出した。
それを見てラオネは満足気に鼻を鳴らし、カードを受け取った。
私たちの間に緊張が走る。
五秒ほどが経過した。
何も、起こらない。
ラオネがもう諦めようとした時だった。
なんとカードがドクンと脈打つようにして一瞬だけ七色に光り、またもとの古びた絵に戻ってしまった。
これで変化は終わったように思われた時。
──そして、カードから雷にもよく似た何かの光が、ラオネの額を直撃した。
「ぎゃああああ!」
バチンという、まるで導線がショートを起こしたかのような音が響いた。
とても、人間からしていい音ではない。
「ラオネくん!」
勢いで思わず尻もちをついたラオネに、慌ててホノカが駆け寄る。
「いったたた……」
ラオネが両手で額をキュッと抑えた。何が起こったのか分からないが、だいぶ見ていても痛々しい。
「ねぇラオネくん! 大丈夫? 怪我は?」
ホノカが頭を押えるラオネの手に触れると、ラオネはそっと顔を上げた。
二人が、パチッと音がするように目が合う。
「ルイーズ……?」
「へ?」
額を直撃したせいでおかしくなったのだろうか、ホノカのことを知らない誰かと間違えたらしい。
違和感を覚えたらしいラオネがぱちぱちと何度か瞬きを繰り返すと、ようやく意識がはっきりしてきたのか、「あっえっ、いいい今の忘れて!」と言って慌てて立ち上がった。
足元には、何事も無かったかのように最初と同じ形のままのカードが落ちていた。
「やはりあなたは『
女王が「一体どうなっているのかしら」と独り言を言いながらカードを拾い上げる。
ラオネは自分の癖毛の髪を撫で付けると、
「全く、おいらはこのカードに嫌われてるみたい。でもいいや。おいらはこんなカードなんて無くたってめちゃめちゃ強いからね。自分の身は自分で守るさ」
ホノカが私の方をちらりと見る。「何とか言ってよ」と口パクで伝えているは分かるが、肩をすくめる以外、私にはどうすることも出来ない。
その後、意を決したカナエとニーズヘッグがカードに触れると、やはり私やホノカと同じように魔道武器へと変化していった。
カナエの選ばれた武器は、持ち手に紅葉の柄が刻み込まれた鋭い日本刀。ニーズヘッグの武器は、雫型のダイヤのような宝石が埋め込まれた、黒い氷で作られた巨大な斧だった。
皆それぞれが自分の武器をまじまじと見たり触ったりしていると、女王が椅子の位置よりも大股一歩ほど下がって、咳払いを一つした。
五人の視線が女王へと集まる。
「とりあえずそれぞれが身を守るための武器を手にしました。まずは実践です」
パンと手を叩く。そして両腕を大きく横に開いた。
「ホノカさん。──試しに一度、私に向けて矢を放ってください」
ん? 今女王はなんて?
隣でホノカがきゅっと息を飲む音が聞こえた。
「魔道武器に実際の矢を持ってくる必要はありません。弓の中心に手をかざして引けば、自然と矢が形成されます。試しに私に向けて──」
「出来ません」
ぴしゃりとホノカが断った。
いくらなんでも、自分から矢の的にはなりにいかない。それが普通だ。
だが女王はにやりと笑い、さらに大きく、細く伸びた両腕を開く。
「安心して下さい。絶対に死にませんので」
女王は堂々とした笑みをたたえている。
ホノカを横目に見ると、彼女の白い頬を一筋の冷や汗が流れて落ちているのが見えた。
「さぁ。撃つのです」
ホノカがギュッと堅く目を閉じる。
震える手でホノカが弓の中心を撫でると、金粉を放つ矢が現れた。
ギィィィと狙いを定め、弓を引いていく音。
恐ろしいのに、何故か目が離せなかった。
そして──ホノカは矢を放った。
次の瞬間、パァンッと矢が突き刺さる音。
私はただただ目を見開くことしか出来なかった。
「どういうこと!?」
そう、ホノカが放った矢──それが今、女王をとっくに通り越した壁に垂直に突き刺さっていた。
ようやく目を開けたホノカが、自分の持つ弓と壁に刺さる矢を見比べた。
「矢が、人に刺さらない……?」
「その通り」
女王が人差し指をそっと口元に添えた。
「最初に言った通り、魔道武器というものは本来、『
すると女王は再び私たちの元へ歩いてきた。
やはり魔道武器は、戦争や破壊を好まない四季の女神『ホーラ』らしい、他とは異なる特別な武器だ。
「本日はこの後、夕方ほどまで、明日からの計画を練る時間とします。そして明日──さっそく石を探し出しにここを出なければなりません」
「いきなり明日!?」
カナエが刀をギュッと抱きしめる。
「もう、残された時間は僅かです。申し訳ありませんが貴方たちが最後の救世主。本当は私も、貴方たちを少しでも危険から遠ざけたい」
「あの、女王陛下は俺たちが石を探す間、どうされるおつもりなのですか?」
ニーズヘッグが尋ねる。女王はその言葉に小さく顎を引いて頷いた。
「実は、最初の二日間、予定では二つの石を獲得する間、私も貴方たちと一緒に石を探すのを手伝います」
「えぇ!? 女王が!?」
この国を支える女王が自ら!? おそらく王族としては、怪我ひとつでもすることが許されないような立場なのに、まさか私たちを手伝うだなんて。
この大胆不敵さは、これまでの王族では考えられないだろう。
「心配は必要ありません。私には魔道武器とは別の、特別な武器があるので」
そして女王は嬉しそうにギルバードの肖像画の前に立つと、壁をそっと軽く押した。
そこは隠し扉のようになっていて、キィと音を立てて奥へと開いた。
女王は頭を下げ、屈んで中に入ると、何やら中から大きめの、黒く、美しい箱を取り出した。
「これは……?」
私が箱を指を指すと、女王はいかにも楽しそうに、その箱の黒い蓋を取った。
中にはすっぽりと、軽く女王の身長はあるであろうほどの大きさの、漆黒な鎌が収められていた。
その鎌はまるで、何千年もの時を眠り過ごしてきた、棺に横たわる吸血鬼のように思えた。
「こ、これ……」
後ろでひどく怯えた声がした。
誰かと思い振り返る。それは、意外なことにラオネだった。
その姿はまるで、狼に睨まれた兎のようで。
──彼のこんなに怯えた姿、一度だって見たことがない。
そのことに何故か、心の奥から黒い何かが這い上がっていくような、不気味で気持ち悪い不安を覚えた。
「ねぇ、ラオネくん、どうかしたの?」
ホノカが優しく声をかけると、ラオネは「い、いや、思ったより厳つい鎌だなって思って、びっくりしちゃった」とへにゃりと笑った。
女王はその光景を、首を傾げて不思議そうに見て咳払いを一つ。話を戻した。
「これは、ギルバードが最期に災害から国民を守ったとされる鎌よ。特別な金属から作られていて、五千年の時を経ても頑丈で、軽くて鋭い」
女王が鎌の持ち手を掴み、ひょいと軽々持ち上げた。
鎌の刃の部分には、黒い錆なのか、または何かを斬った時に付いた血の跡のようなものがうっすらと付着している。
「この鎌を持っていきます。なので、私のことは心配なさらず。私も、役に立ちたいのです」
女王の目は必死だった。
その目に偽りはなさそうだ。
「しかし、残念ながら三つ目の石以降──予定では明明後日より後は、私は他国との安全に関する会議で遠出をしなければなりません。そこからは、本当に貴方たち五人に、この国の全てを託します」
私たちは真っ直ぐと女王を見つめた。
「貴方たちを信じています。絶対に大丈夫です。貴方たち五人はこの国と繋がっています。きっと、『ホーラ』も貴方たちを見守って下さる」
私は小さく頷いた。
そうだ。私たちは『
それは、命をかけてでも、この国を未来へ繋いでいくこと。
それが出来なければ、私たちにこの力は釣り合わない。
──今こそ私たちが、新たな歴史を刻む『英雄』になるのだ。
「やろう」
私はカナエの方を見た。
慌てたカナエが丸眼鏡を掛け直す。
「こ、怖いけど、フラムがやるなら、僕も手伝う」
そう言って、ふにゃりと柔らかい笑顔を向けてくれた。
ただ、嬉しかった。カナエはいつだって私たちをサポートしてくれる重要な役割だ。彼なしに冒険に出かけることは出来ない。
「皆で、一緒にやるのよ。絶対、離れないでね」
ホノカが私の手を握る。
「なんとかなるさ。頑張ろう」
ニーズヘッグも私の肩をぽんと叩いた。
最後にラオネを見ると、少し先程よりも落ち着いた表情で、私を見て優しく微笑んだ。
「おいらも手伝うけど、おまえらおいらより先に絶対死ぬなよ」
「なに。死なないよ、私たちは。五人がこうして居る限り、石なんてちょちょっと簡単に見つけ出すから!」
肩を組むようにしてラオネにがしっと腕をかけると、「うわーそういうフラグって言うんだぞ」と笑っていた。
その光景はやはりいつも通りの私たちで、これからの出来事に胸を膨らませていた。
こうして笑いあっていると、この世界の裏側まで行けるような、そんな気がしていた。
女王は微笑ましそうに私たちを見ると、私の前に右手を差し出した。
「では、これにて契約成立ということで。改めてどうぞ、よろしくお願い致します」
「よ、よろしくお願いします、女王陛下」
おずおずと私も手を差し伸べると、女王は照れくさそうに懐っこい笑顔を向けた。
「これから私たちは、共に助け合う『仲間』よ。どうか、私のことは女王としてでは無く、クレルと呼んで貰えると嬉しいです」
クレル──なんとも、この女王にぴったりな上品で可愛らしい名前だ。
お互いの手のひらがきゅっと結ばれた。
「分かった、じゃあ──クレルちゃん、で」
そう言うと、クレルは顔を赤くして、興奮のあまり私の手を握りブンブンと上下に振り回した。
「じ、実は誰かにずっと、クレルと名前で呼んでもらえる時を待っていました! 王室ではその、家庭教師に学問を教えてもらうために、学校に行ったことは一度もなく、ずっと友達というものが居なかったもので」
どうやらクレルは、長年宮殿の中で暮らしていた故に、同級生と遊ぶことや話すことが極端に少なかったらしい。
「そうと決まれば、さっそく明日からの作戦を立てなくちゃね!」
私たちは六人で掌を合わせた。
「ねぇねぇ! 今日を記念してさ、円陣組もうよ!」
「えーなにそれ! 分かった分かった」
「こういうのもまぁ、わ、悪くないよね」
「絶対、この王国を守り抜いて見せるぞー!」
「「「お─────!!!」」」
こうして、私たちの初めての冒険は華やかに幕を開けた。
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