結ぶ消しゴム

結ぶ消しゴム

授業中、私は先生の声を右から左へと聞き流しながら、筆箱の中の小さなピンク色の消しゴムを見ていた。この、ちびっこい消しゴムは姉から貰ったもので、なんでも、縁結びのご利益があるらしい。そんなお守りみたいなものにすがるなんて、と私は思ったが姉の推しに負けてしまった。それでとりあえず、筆箱の中に収まっているわけだけど、消しゴムとしては使っていない。縁結び、といったら、使い切ったら叶う、みたいな感じなのだろうけど、この小ささでは消しにくい。それに、落としたら探すことは無理だろう。なくした、なんて言ったら、姉はきっと泣くだろうし…。私は溜息をついた。

 うーん。縁結びかぁ。

私はそっと隣を見た。この時間は眼鏡をかけている。黒縁のメガネで、片ひじをついてノートをとっている姿に心臓がどきどきし始める。

 やっぱり、かっこいいな。

頭も良くて、運動もそこそこできて、かっこいいとか、反則だと思う。私はピンク色の塊に目を戻した。

 縁結びって言っても。まだ一度も話したことがないのに、どうやって縁を結ぶのだろう。

彼は、入学したときからかっこいいな、とずっと思ってた人で。その彼が今、隣の席にいる。それだけで、もう幸せで仕方ないのに。席替えをしてから、もう二週間が経って、残り二週間しか、彼の隣にいることができない。その間に、せめて一回だけでも、話してみたい、とは思うけど、話題がない。それに、いつも誰かと一緒にいるから、タイミングもない。私は小さく息を吐いた。毎日、近くで見られるだけで十分だ。

 だけど、まあ。

 やっぱり一回くらい話したい。

私は小さな消しゴムを手に取った。近い存在になれなくてもいいから、せめて、せめて一回くらい話す機会をください。柄にもないな、なんて思いながらも、心の内で願った。そして、消しゴムを筆箱に戻した。授業が終わって、筆箱を見ると、ちび消しゴムはなくなっていた。泣いている姉の顔が浮かび、すぐさま筆箱の中をあさった。だけど、入っていない。机の中、その周辺を探してみたけど、やっぱり見つからない。

 「…どうしよう。」

思わず声が出た。

 もう、いいかな。姉が泣くだけだし。私も本気で信じてたわけじゃないし。

そう思って椅子に座った。

「あのさ」

「…なに?」

隣から声をかけられて、自分の肩がびくり、と動くのが分かった。

「これ、鈴木さんの?かな?」

そう言って見せられたのは、彼の大きな手の中に収まる、小さいピンクの塊。私は小さくうなずいた。

「そっか、探してるように見えたからさ。良かった。」

おそるおそる、私が手を出すと、彼が消しゴムをつまんで乗せてくれた。

「ありがとう。」

「いえいえ、どういたしまして。」

彼はにこり、と笑うと席を立った。私は呆然としつつも、手の中に収まっている消しゴムを見た。ピンクの消しゴムは、私の手の中で、輝いていた。

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結ぶ消しゴム @Rin-maron

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