第3話   翔は2回目の訪問で料理作り

3 翔は2回目の訪問で料理作り


 高校3年生の4月の授業開始から2日目,今日も翔は,美月の家に連絡プリントや宿題などを届けにきた。翔は陸上部,片思いの美月のために連続で陸上部の練習を休んでまで美月のことが心配だった。

 美月は,部活の友達や,他の友達と連絡をとりあっているが,家に届けてくれる友達はいえも,なかった。高校3年生のこの時期,しかも放課後は,みんな部活や図書館で勉強している子が多いのだ。

 庭で洗濯物を取り込んでいる大きめのベルトを着けたズボン姿の美月をみた。その時,遠くからでも美月の手の甲がカサカサで赤くなっているのが見えた。そして,美月の回りには小さな男の子や女の子がまとわりついている。でも,二人とも楽しそうで,美月が小さなお母さんに翔は見えて微笑ましかった。

「こんにちは,美月さん,忙しいところごめん,今日の連絡とプリント持ってきたんだ」


「えっ,ああ,ありがとう,翔君,でも,今,手が放せないから,ごめん,郵便ポストに入れといて・・・・・・・・・・・・」


 美月は言い終わらないうちにふらふらと倒れ込んでしまったので,側ではしゃいでいた二人は心配そうにお姉ちゃんを見ている。


「美月さん,大丈夫?」


 翔は庭先から中に入って側まで行った。


「あのね,おねえちゃん,昨日は夜遅くまで起きてて,今日もいっぱい仕事したから,さっき疲れたって言っていたから・・・・・,お姉ちゃん,歩ける」


 美月は意識はあるけど全身の力がぬけて動けないのだ。貧血を起こし,息も上がっていた。翔は,勇気を出して,

「美月さん,僕の背中に手をかけて,とにかく家の中に入って休もう」


「ありがとう,でも,私が男の人に触れるはずないでしょ!」


「でも,美月さん,苦しそうだよ・・・・」


 翔は大好きな美月だけでなく,女の子に話しかけるのは苦手だ。まして,体に触れることを伝えるのは思ってもいないことだ,心臓が翔は,爆発しそうだった。美月は,強がっていても,この時,やはり頼れる相手の心に触れて安心感を求めていたので,頼ることにした。心身ともに元気だったら,絶対にありえないことだった。


「ごめん,翔君,じゃあ,ちょっと肩を貸して,家の中に連れて行って,やっぱり歩けないみたいだから・・・・・・」


 翔は,美月の左手を持って自分の肩に回すと,ゆっくりと声をかけながら美月を家の中に運んだ。

「こんにちは,同級生の・・・・・・・・」


「待って!今,病気のお母さんが寝てるの,それに私を助けてくれているんだから,挨拶はいいの!苦しいから台所のソファーに,このまま連れて行って」


 翔は,靴を脱ぎ,そろえるかどうか迷いながらも,こんな時だから脱ぎ捨てでソファーに美月を寝せた。移動してきたので美月はつらそだ。


「はぁ~はぁ~はぁ~はぁ~・・・貧血みたいだね・・・・・ちょっとだけでいいから寝させて・・・・・・・」


 3歳の妹が美月のマグカップに水を汲んできた。翔はこぼしそうなので早く受け取ってて美月に渡そうとしたら,

「はぁ~はぁ~今,手に力が・・・・,動くのがひんどいの・・・・・・・・・,ベルト緩くしとけばよかったな・・・はぁはぁはぁ・・・・・・・・」


「苦しいの?」


「うん,深く息を吸っているからベルトがきつくて,落ち着いたら自分でゆるめたいけど・・・・・・・・まだ・・・・・・・・・・・・・・」


「美月さん! 男の僕が緩めたらダメだよね」


「えっ,バカ~~ん,ダメに決まってるでしょ!」


「・・・・はぁはぁはぁ・・・・ぅう・・・・・ぅう・・・・・・・・・,翔君,あのさ,やっぱり悪いんだけど・・・・・・,ベルトを緩めて,ついでに一番上のボタンもはずして・・・・・・・・それから・・・・・・・はぁはぁ・・・・それから・・・・・チャックを3cmぐらい降ろしてもらうことは,頼めないよね!やっぱり,いいや!ごめん!」


「いいよ,触って不快感を与えたら,ごめんね」

「不快感だよ~,でも本当に苦しいの・・・・」


 翔は,美月のベルトをはずした。


 ドキドキドキ~~~ドキドキドキ~~~~~


「だまってゆっくりやらないで!恥ずかしいから~お願いしといて悪いけど,・・」


 翔は,ズボンの一番上のボタンをはずした。


 ドキドキ,ドキ~ン


 翔は,美月のチャックを3cm降ろした。

 美月は,チャックが降ろされていくとともに,ちょっとずつ腰を浮かしていった。


「ありがとう,翔君,こんなこと頼んでごめん!恥ずかしくて~翔君の顔を見られないよ・・・・」


 5歳の男の子がお姉ちゃんを心配しながらも,

「おねえちゃん,夕食は・・・・,予定のカレーでなくて,僕,パンでもいいけど・・」


「太陽,おねえちゃんが良くなったら,作れるから,ちょっとだけ待っててね,翔君,もう大丈夫だから,帰っても大丈夫だよ,本当にありがとう」


「太陽君,お兄ちゃんのカレーでもいいかな,おいしいかどうか心配だけど」


「うん,いいよ,お兄ちゃん,お腹すいた~~~」


 美月はあわてて,

「太陽ダメ!,翔君に迷惑をかけられないわ,お姉ちゃんが元気になったら・・はぁはぁはぁ・・・・・」


「美月さん,休んでいて台所借りて悪いんだけど,太陽君達のカレーライス,作るよ」


「えっ,だって,いくらなんでもそれは・・・・・・・・・・・・・」


 3歳の星奈ちゃんも,「お姉ちゃん,お腹すいた~,お兄ちゃんにカレーライシュ,作ってもらいたい,もらいたいよ~~~・・・・・・・」


「作らせて,美月さん,辛くないカレーライス作るのは初めてだけど,作ってみたいんだ,こんな小さな子たちが楽しみにしてくれているんだから」


「え・・・・え゛~~・・・,じゃあ,翔君,無理しないでね・・・ごめんね・・・・・・」


 翔は美月の役に立てるのがうれしかったから言ってしまったが,今までにカレーライスを作ったことがなかった。そこで,スマホで料理の仕方を検索して作り始めた。


 美月は,心の中で,

「翔君,ありがとうね・・・・・・・・・・・・・」

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ヤングケアラー美月 花恋 @28810896

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