第2話 美月さんの家庭

2 美月さんの家庭


「お母さん,はい,お薬だよ,置いて置くね」


「ありがとう,今日,学校は行ったよね」


「大丈夫,心配しないで,ちゃんと,行ってるから」


 美月は母子家庭状態で,さらにお母さんはうつ病になってしまった。お母さんの二人目の結婚相手との間に,5歳の「太陽」と,3歳の「星奈」がいる。しかし,先月,血の繋がっていなかった父は,他に好きな女の人が出来て,家を出ていってしまった。戸籍や近所からの見ためは両親がいることになっている。お母さんは,ショックで寝こみ,働いていた会社も辞め,そのままうつ病となり,薬を飲んでいる。弟と妹の世話も含め,家事全般を高校3年生の美月がしていたのだ。

 家族は私が守るしかない,私がしなければいけないんだ,美月は優しく頑張り屋だ,だから,体操部では将来を期待されている存在で体育大学へ進学し,体操を続け,オリンピックに出たい夢を持っていた。つい先日までの,美月の夢だ。


「太陽と星奈,保育園の連絡帳を見せて・・・・・・・・・・」


「お姉ちゃん,今,ゲームしてるから後にして,それより,夕食は,お腹すいた・・」


「わかったから,連絡帳出して」


 

 ビニール手袋をして,大根を切る。


 トントントントン~~~~~~~~~~~~


 「痛い!」


 ビニール手袋の指の先が伸びていて,自分の手を少し切ってしまったのだ。血は出ていないが,自分が情けなくなってしまう。こんなことも私にはできないんだ・・・


「お姉ちゃん,腹,減ったよ~~~~~~」


 寝ていたお母さんが,

「太陽,美月は魔法使いじゃないから,すぐにはできないよ,待っててね」

 太陽と星奈は,ゲームやテレビを見ている。


 美月は,気を取り直して,料理を慎重に作り始めた。


「お姉ちゃん,まだ,もう・・・・・・・・」


「ねえ,太陽,星奈,お願い連絡帳を見せて」

 美月は,料理を作りながら,その合間に連絡帳を見る気なのだ。


 保育園での造形活動は家庭から持っていくことが多い,また,集金もあるのだ。保育園で必要なものはすべて美月が用意して持たせる。お金は美月が直接,園に持って行き,お母さんのことを聞かれても本当のことは話せず,言葉をにごしている。貯金をくずし,児童手当を計算しても,お金が足りない。そこで,今日,美月は学校を休み保育園に持っていくお金を働いてはらったのだ。働いて,その日にお金をもらえる仕事を選んだのだ。やはり,明日も,学校を休んで働かなければ・・・・・・・・。

 お母さんは,体が重く,動くと頭痛がする。それでも子ども達のことを心配するので,お母さんには学校を休んで働いたことは言わず,安心させている。


 翔の持ってきてくれたプリントは,洗濯も含め,家事すべてが終わった真夜中過ぎにやった。でも,プリントを学校に持っていけず,明日もお母さんに秘密で働くのだ。


 自分の夢,学校,その前に,私が家庭のことをやらなければいけない!長女の私が家族の面倒を見なければ・・・・・,美月はだれにも相談せず,深く思い詰めていた。

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