3分くらい

久芝

3分くらい

「3分」をひとつの区切りにするモノは案が多いのではないかと最近考える。

ウルトラマン。

地球に3分しかいられない。

地球でのエネルギー消費量が半端なく、すぐ疲れてしまう。

そのせいで必ず苦労する、地球には向かないウルトラマン。

そして、何よりも目が怖かったのは子供の頃から今でもたまに思う。

3分クッキング。

本当にそのくらいの時間で作れてしまうのか、今でも疑問に思う。

からくりとしては、何十分も熱を加えなければならないモノは事前に準備している。

だから、あの番組では材料費が2倍も3倍もかかって収録してることを思うと、ほんとうにそれをスタッフがおいしくいただきましたとは思えないし、料理番組の在り方がこれで良いのか?と考えてしまう。

しかも、肉とか魚とか野菜とか見ると高そうなの使っている。

庶民とは程遠いような。

三段跳び。

ホップ・ステップ・ジャンプ。

よく人生の飛躍を例えるときに使う表現で、だいたいホップ・ステップ辺りで挫折してしまう。

自分がそうだ。

三種盛り合わせ。

四種でもなく五種でもなく、三種なのだ。

挙げたらキリがない。

なので最後に真打として、3分の王様といっても過言でないのではないか。

カップラーメン。

最近は5分の商品もあるが、だいたい3分。

蓋を開け、かやくを入れ、粉末タイプのスープを入れ、お湯をラインまで入れ、3分待つ。

蓋が開かないように重しになるようなモノが意外と近くになかったりする。

ティッシュ箱、リモコンなどでもいいが、自分的には丁度良いのは文芸サイズの書籍ではないかと。

自分にはお気に入りの蓋置用の本があった。

硬さ厚さ大きさ、丁度よい。

カップラーメンにピッタリの本。

ただ、この本は可哀想かもしれない。

普通なら3分で解放されるのに、私は3分ではなく10分以上蓋をしておく。

下手をすると、20分くらい経ってから麺を啜る。

ほぼスープが麺に吸い上げられブヨブヨした麺になっている、あの感じが好きでたまらない。

メーカーの開発担当者には決して良い顔はされないのは分かっている。

ただ、カップ焼きそばは3分待てなくて1分半くらいで湯切りしてしまう。

かやくも少し硬めで、麺も芯が残ったりしている。

そんなかた焼きそばが好きだ。

焼きそばにおいては、本は早く解放されるから幾分ましだ。

ただ、本にとって一番の悲劇とも言えることがある。

中身をちゃんと読んでいない。

まだ。

これからもその本をパラパタと捲るかもしれないが、しっかり読もうとは思わないだろう。

なぜと言われても、自分のとってそれは捲るくらいが丁度よい。

本当は捨てようと思って押入れ奥の古本段ボールにしまってあったけど、なぜか急に押入れから出てきた。

「わが人生。北尾万五郎」

紛れもなくこれは、母方の祖父の書籍だ。

成功者・実業家ではないのに自分の人生をまとめてみたいと言いだし、近くの書店に行って自費出版で50部刷った。

身内や知り合いに配っても10冊以上余らせて、去年の冬に亡くなった。

肝臓がかなりのダメージを受けていたらしく悲鳴を上げた。

毎晩3リットルくらいの焼酎・ビール・日本酒を飲酒していたのだから、肝臓も降参せざるを得ない。

でも、私の心の奥の隅では20歳を超えたら盃を交わしたかったなと、それが祖父孝行なのかもしれなかった。

「あの人の人生は壮絶だった」と祖母がいつだか漏らしていた。

詳細は話してくれなかったけど、後妻との確執が原因で17歳で家を飛び出し東京や山梨をウロウロしている時に祖母と出会ったとか。

そいうわけで、20分経った。

蓋の上に置いてある本を取る。

中央部分だけは温かく、周辺は程よく冷たい。

蓋を開けると、大好きなブヨブヨの麺が私を待っている。

久々に本を開いてみる。

パラパラ捲る。

「あっ!」

こんなことあるんだ。

「わしは、意外とカップ麺が好きで。しかも、15分以上寝かせてから食べるのがワシ流。誰からの賛同も得られないがな。ただ、わしと同じような食べ方をする者を一人だけ知っている」と、対談形式で誰かに向けて話しかけている。

そして明日からも私はカップ麺の上に本を載せていることだろう。

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3分くらい 久芝 @hide5812

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