ナターシャが語る子供が出来なかった理由②
さて。
じゃあ何で子供が三年間できなかったか、よ。
……いや、私も不思議には思ったのよ。
だって多少傷ついたとは言っても、もともと健康な身体だったから、その後もちゃんと月のものも来たし。
だから私、自分のせいでは絶対無い、という確信を持っていたのね。
で、気になることがあって、少し調べを入れてみたの。
そう、夫の方ね。
夫はまあ、嫌になるほど元気でね。
彼のことが好きから嫌いか、というのはあまり関係無いわ。
そもそも、結婚した後が女の自由になるチャンスだ、と学校の先生も言っていたでしょう?
一応結婚しておくと、それなりに社会に出られる訳よ、私達の階級はね。
それが良いとかどうかは別よ。
ともかくクリーキン子爵夫人の称号を持った私は、社交界をあちこち動くことができる様になった訳。
で。
そこで夫の愛人達に接触してみたのよ。
ええ、結婚前も、後も。
夫は私より七歳上だから、もう何人も渡り歩いているのね。
現在の愛人にはちゃんとご挨拶を。
さすがに知識が抱負で、たしなみもあって良い方だったわ。
彼女から、過去の愛人が誰だったか聞き出したの。
それと、彼が愛人と致す時に、子種を捨てる様なことをするか、ということも。
彼女は素晴らしい身体ですこと、とか色々言ったし、まあ実際に子供ができてしまったならば、それなりの待遇が与えられるのがああいう方々の慣習。
それはそれで構わないし。
だけどまるでその気配が無いっていうのね。
で、彼女から聞き出した元愛人のことを、こちらは私の家の手の者に調べさせたの。
そうしたら予想通り。
今までの愛人誰一人として、彼との間では妊娠していないのよ。
中には、彼ときっぱり別れた後に廃業して商家に嫁いだり、子供ができて何処かの正式な囲い者になったひとも居たわ。
でも彼との間では全くその気配はなかったの。
そう。
原因は彼の方にあったのよ。
どれだけ彼が出しても、出したものは子種ではなかった、ということなのよね。
そういう体質の人も居る、とその昔私を診てくれたお医者様も言っていたわ。
だから、ね。
私、もしかしたら、と思ったの。
それからは社交界で色々と文通を始めたのよ。
その中には、彼も居たわ。
そう、エフゲニーよ。
再会した時、私はやっぱり彼を愛しているって自覚できたのね。
向こうもよ。
だから契約の三年を待って、と私達約束したの。
で、彼はほら、詩人でもあるから。
子爵領に戻ってからも、私達夫婦に似合う詩を贈って欲しい、という名目で手紙のやりとりをすることにしたのよ。
彼はその中に薄い別のレターペーパーで、私への本心の私信を入れてきたのね。
通常の紙は、夫に見せてもいい手紙として。
私はお礼の手紙を返すわけ。
そこは夫人としてね。
平易な文章の中に、二人で取り決めた言葉を入れて、私達はこっそりラヴレターのやりとりをしていた、って訳。
で、とうとう三年よ。
夫とは「残念だった」と言って、さっくり別れたわ。
家同士だし、そういう契約ですもの。
さあそこから問題だったのが、家に戻ってからね。
せっかくの良い相手に出したはずが出戻りになってしまった、この先どうしたものか、ということよ。
さあこの状態に、後はエフゲニーがどのタイミングで私に求婚してくるか、よね。
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