平安時代時代にタイムスリップして歌い手さんへの想いを書き殴ってみた
ナガレカワ
第1話
「はぁ、今日も疲れたー」
私は古田茜。高校から帰ってきて私はまずソファーに深く腰掛けた。学校は疲れる。友達と会えること以上に勉強は眠いし、部活はえらいしで毎日へとへとだ。のんびり生きれる世界に行きたいものですなぁ。平安時代とか笑笑、のんびりしてそう。古典も好きやし。
のんびりテレビを見て、漫画を読んで…としてから風呂から上がるともう10時だった。少しは古典の予習をしようと教科書とノートを開けた。私が一番好きなのはこの瞬間だ。昔独特の言葉づかいや今とは違う助詞、助動詞の使い方を学ぶことで少しでも前の時代と繋がることができるような気持ちになる。今回は平安時代と繋がるのか。更級日記、作者は菅原孝表女(ふじわらのたかのすえのむすめ)ね。ふむふむ、なんかこの人源氏物語が好きやったって先生言ってたなぁ…。ふわあぁ、今日は眠すぎるなぁ…。
「ざわざわ」
ん?なんだかうるさい。朝うちはそんなにうるさい方じゃなかったと思うけど…。
少しずつ目を開けると自分の部屋とは似ても似つかぬ光景が広がっていることに気づいた。私の部屋は洋風だったのにまず和風。襖、畳、あと御簾っていうんやっけこれ?といったものが私を囲んでおり、布団もなんか硬く畳のようになっている。もちろんというかどういうこと?夢?と思い何度も頬を叩きまくったが特にその光景が変わることはなくむしろ目が醒めていくうちに自身が青ざめる結果となった。
周りの喧騒が徐々に近づき私の部屋に着物の人が1人入ってきた。なにを言っているかは聞き取れない。なにやら古文のように聞こえる。古文、謎の和風の部屋。もしかしてタイムスリップしているのか?という仮説がたった。いやいやいや、と同時に私は思った。いや、タイムスリップやとして何で自分言葉わからんのよというか、古文にリスニング無いねん!
私はタイムスリップ系の作品を読んでいていつも思っていた。なぜタイムスリップしても言葉が通じているのか。昭和ならまだしも江戸時代に行って言葉が通じるのか、と私は友人と話したことがある。まあ、話の進行上仕方のないことなのかもしれないが…。
今、自分がタイムスリップ?した立場になって思う。言葉がわからんとかどうすんねん、と。言葉がわかることってこんなに大切だったのか、と私はこれ以上ないほど実感していた。着物の女性はこちらを見ながらすこし戸惑ったように私に話しかけている。ふむ、どちらにせよ意思疎通は大事だな。私は身振り手振りでゆっくり話してほしいことを伝えつつ、わかる単語を聞き取っていった。出川イングリッシュ精神である。古文単語知識を使っていくと、どうやら私は菅原孝表女という名前?で、この人は私を起こしにきてくれたらしい。ふむ、どこかで聞いたことがある名前…あ!更級日記書いた人やん、今日習ったとこ!と一時興奮したのも束の間、着物の人の次の言葉で私は凍りついた。
「日記の続きを読みたいと言っている人がたくさんいるんですよ。続きは書かれないんですか?」
というようなことを言っている気がする。いや、無理無理無理。首を振って見せるものの相手はなぜ?と言ったようなことを言うし、とても切なそうな顔をしている。いや、あなたファンなんかい!
そしてもう一つ。昔と繋がれる気がするのが良いとは言ったが実際に繋がる必要はないんよ。
着物の人が部屋を出て行ってからも何人かの着物の人がやってきた。口々に更級日記を楽しみにしているようで、なぜ書かないのか、書いてくれと言ったようなことを言っていた…と思う。口々にしつこく言われ、私が渋々書くことを了承するとこの機を逃さないぞというように机と習字セットを用意した。いやいや、どんだけ読みたいねん。タイムスリップしたであろう事実も認められてないのにしかも自分が歴史に残っているような人になっているなんて全く信じられないし。しかもその歴史に残る書物を書くことを促されているなんて…。
私は全ての襖をしめ誰も部屋に入ってこれないようにした。なぜ平安時代に来ているのか、どうしたら帰ることができるのか。そして私は一つの可能性に気がついた。更級日記の続きを書いたらわんちゃん戻れるのでは?と。というかもはやそれしか希望はない!
そう考えてからの私は早かった。墨を擦り紙を広げ、書き始めようとした。しかし私はそこで重要なことに気がついた。私、更級日記のこと作者と平安時代にできたことぐらいしか知らん…。
日記というぐらいだからおそらく自分の人生っぽいものを描いているんだろう、たぶんと私は更級日記について誰よりも真剣に考え始めた。私は日記を書いたことがない。それに現代の私が思う日記の内容と平安時代とでは違う気がする。今まで私が読んできた古典によると大体、恋愛か風景のことについて語っている気がする。それをなんか人生と絡めて書くのか?わからん。あ、でも続きが読みたいってことはすでに初めのプロローグ的なのは完成しているのでは?私は天才だ。とりあえず本物の方が書いたやつ読んでみてその続きっぽく書いてみるかと考え、私は本人の作品を探した。
それはすぐに見つかり、これで問題は解決したと思った。いや、解決したはずだった。ふむ、読めん!古典を少し勉強してると言っても辞典を使うことが多いしそもそも字が達筆すぎて読めん。たしかに言葉を聞き取れないといった設定で飛ばされているのに文を読むことができると考えていた自分がおかしい。そこは自分が悪いな。ふん、それでもなんとか読もうと、読める部分を読んでいると、どうやらまだ更級日記は始まったばかりのところのようだ。年齢もおんなじぐらいの体験かな?これはまだチャンスがある。自分の趣ある感じの出来事を書けば良いのではないか?
まず自分の体験を思い浮かべながら趣ある体験を選ぶ作業だ。恋愛か風景やとやっぱり恋愛かな?なんとか体験していることではあるし。でも平安と令和じゃ恋愛のシステムが違う気がする。あんまり顔を見せない方がいいみたいな?それだと今とは違うから自分じゃ上手く書けやんかな…。そう思った時、私は思い出した。自分が令和でなにに夢中になっているかを!そうだよ、私は歌い手さんに夢中になっているではないか。あの美しい声、しかし見た目はあまりわからない。そして自分も相手とは知り合っていない。まさに平安時代LOVEではないか!
道標が定まってからの私は早かった。自分と歌い手さんとの関係を平安時代にも通用するように置き換える。えっと、彼らの声を聞くだけで元気が出て、繰り返し聞いてしまう、聞いてしまうは無理かCDとかないし。思い出す、やな現代でもやる。あとは、どんな顔だろうって想像するしライブで遠くからしか見えてない顔を想像で補って素敵だなぁって。でもそもそも顔とかそんなに重要ではなくて、彼らだから好きだから。ふふっファンレター書いてるみたい。えっと、御簾の向こうにいる顔を想像して、でもどんなあなたでもいいみたいな感じかな。あと実際に会えた時の喜びとあなたなの?あ、でも声が一緒!やっぱあなたなのね、という感じも入れたいけど会えやんなやったら無理か?でもそう思うかもっていう気持ちも入れちゃお!書き進めて行くとやはり平安時代と通じるものが多々ある。私、天才やん。
あと、やっぱ平安時代といえば夢でしょ。夢は古典でもあるある中のあるあるだし。夢は何でもできるからね、一緒にカラオケ行ったりとかやばいーー!これは一緒に和歌読むとかの訳でいいかな。あと、やっぱTwitterとかかな。彼らが実際に生きているということをより実感するあの瞬間が大好き。これは手紙とかかな。返信が来るかもしれないだけ平安時代の方が羨ましいわ。まさか平安時代を羨む日が来るとは。
髪は長すぎるしお風呂に入りたいし、ご飯は少なくあまり美味しくないしで辛すぎる。それに習字で書くというのになれず、紙を破りそうになったり、手に墨がついて汚してしまったりした。だが、令和の世に戻れる唯一の手がかり、というか平安時代、私、令和の共通点はこの更級日記しかない!と思うしかなかった。その思いと歌い手さんへの想いを胸に私は書き殴った。もはや更級日記というか内田日記で出したい。三日三晩私は書きまくった。書き終われば令和に帰れるというかすかな思いを抱いて。
そして四日目の朝、私は筆をぱちっと置いた。
よし!終わったー!書けたよぉー!菅原孝表女もこれならいいでしょうというほどの出来よ。特にここの言葉の部分がいいね。平安時代にも通じる愛が伝わる。芥川賞取れるわ。あ、今はそんなんないか、ふふ。と私は自分の完成作品に酔いしれながら着物のきた人に作品を渡しにいった。
「書けましたー!」
と意気揚々に言い作品を見せると伝わったのか読み始めた。しかし、何やら様子がおかしい。初めは喜んでいた着物の人達も次々と首を傾げているのだ。なんで?と思った瞬間に私は衝撃の事実にたどり着いた。
ああー!自分現代語で書いてるから読めやんやん!
平安時代時代にタイムスリップして歌い手さんへの想いを書き殴ってみた ナガレカワ @naga_rekawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます