私と彼方の魔法

先に行動したのはアレスだった。


「ここを俺のフィールドに変えろ!」

「魔法『逢魔時タナトス—』」

アレスが放った魔法により、何もなかった白い部屋は黒い魔力に覆われる。

「なかなか規格外の魔法だね…心が躍るようだよ!」

フリューゲルは興奮した様子で魔法を詠唱する。

「我の前では皆等しく、こうべを垂れる。」

「魔法『神の庭サンクチュアリ—』」


フリューゲルの放った魔法はアレスの黒い魔力で覆っていた部屋を力尽くで上書きする。


「なんて出力をしていやがるんだ!この化け物が!」

「化け物に化け物とは呼ばれたくないね」

フリューゲルは心外だと言わんばかりだ。


アレスは自分の周りだけに魔力を集める。

「魔法『常闇に沈めダークネビュラ』ッッ!」

アレスの体はフリューゲルの前から消えた。

「剣技『騎士の一閃エクエス』ッッ!」

「後ろからかですか。」

「—っ!」


アレスは魔法で自分の体を消し、フリューゲルの後ろを完全にとらえていた。

筈だったのだか、フリューゲルにアレスの行動は完全に読まれていた。


「なんでわかったって顔をしてるね!『神の庭サンクチュアリ—』の効果で、このフィールドは全部私の庭になったのだ。自分の庭を把握するのなんて簡単すぎる。」


アレスはフリューゲルへの攻撃をやめた。

(分が悪すぎる…俺の攻撃があいつに通用しないのなら勝ち目がない…)


「攻撃をしないのなら、私からするよ?」

フリューゲルの体から金色の魔力が迸る。


「私の光は大地をも焦がす。今、神の審判が下される。」

詠唱をしているその様子は、まさしく神そのものだった。


「魔法『神々の黄昏ラグナロク—』」


―刹那。世界が祝福する。



世界が揺れるその様子はまさしく世界の終わりラグナロクのようだった。

(なんだっこの化け物みたいな魔力はッ!)

フリューゲルから数多あまたの光線が放たれる。


腕、腹、腰、足

アレスの体を貫き続ける。


「—グハァ……」

アレスは満身創痍の状態で自分の足で立つ。

「ほぉ…この魔法を受けても、自分の足で立つか…しかし、これで君も終わりだ。これで世界は本当の意味で救われる!」

「ふ、ふざけるな…俺はアイリスを救うと決めたんだ…こんなところで死ねない…」

「うるさいですね、少し黙っててほしいわ」

無慈悲にもフリューゲルの指先から圧縮された光線が出る。

それをアレスは無抵抗に体で受けた。


「—っ!」


アレスはうつ伏せになり、地面に倒れる。

(ごめんアイリス…約束を守れそうにないや…)


アレスは己の弱さを恥じ、世界に怒りを表す。

きっと今のアレスではフリューゲルに勝てない。それほどまでの実力差がアレスとフリューゲルの間にはあった。


絶滅打ちひしがれるアレスの心に懐かしの声が木霊した。

会いたくて会いたく堪らない人の声がした。


(—アレス立つのです。私の騎士でしょう?私が死んでいいと言うまで死ぬことは許しません―私の力を使いなさい―)


「「—っ!」」

突如、アレスの体から銀色の魔力が唸りを上げた。

「その魔力—アイリス・グレイスッ!なぜその魔力が!!」


アレスは立ち上がりフリューゲルに両手を突き出す。

アレスの手に温かいものが重なった。

(—さぁ詠唱するのです―私と彼方あなたの想いを―)


「俺は彼方あなたを必ず救い出すッ!たとえ地獄にいようとも!」


俺はアイリスを必ず救う。その道のりが決して楽なものでなかったとしても。



「それが世界おまえの意志にさからうことになったとしても!」


俺の行動がたとえ世界をも敵に回したとしても。



「俺は彼方あなたの騎士であり彼方あなたの唯一のつるぎだッッ!」


俺はアイリスの唯一の騎士で唯一のつるぎだ。



アレスの体から銀色の魔力が開放される。

それはまるで世界に反抗するかのように。


「魔法『銀の花の使命アイリス』ッッ!!」



―世界の悲鳴が木霊する。

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