記憶の深淵—最後の聖戦—

アイリスから紡がれた言葉は、アレスから平静を奪うのには十分すぎるものだった。

「おい、嘘だろ?まだ大丈夫だって—」

「帝国から宣戦布告を受けました。」

「—っ!」


帝国とはアレスたちの国、聖コメリスシデュア国との同盟国であり、

俺たち人間の仲間だった—はずだった...


「どうして宣戦布告なんて?」

アレスは咄嗟にアイリスに聞いた。

だってそうだろう・一緒に聖戦を終わらせようとしている仲間に裏切られるのだから。

アイリスは重い口を開く。


「私とあなた、アイリス・グレイスとアレス・リアムのせいだわ。」

「どうして俺とアイリスのせいなんだ!そもそも帝国は俺らに勝てない筈だ!」

「帝国は単騎で宣戦布告をしたわけではないの、帝国、魔族、神の三種族の連合軍よ」

「—っ!」


開いた口が塞がらないとはこのことだった。

帝国だけならアイリスの魔法とアレスがいればどうにかなったが、

魔族と神が加わるならこちらに勝機はないだろう。

それを一番わかっているのは、人類最強の騎士アレス本人だった。


「―逃げよう。」

「え?」

気づけば俺はそう口にしていた。

「俺たちじゃ連合軍には勝てない。それにこの国も保身のために俺たちを売るだろう。どこにも逃げ場なんてないけど、逃げなきゃ何されるか分からない…」


苦渋の決断だった。アレスはこの国にたいして思い入れはないが、アイリスはこの国のために尽くしてきたのだ。


「ごめんなさい…」

分かり切っていた答えだった。最初からそう決めていたのだろう。

アイリスにはこの国を置いて逃げることなんてできなかっのだ。


「アレスだけでも逃げて…きっと私は殺されはしないわ」

アイリスは今にも消え入りそうな儚げな笑顔で笑う。


「何言ってるんだ?俺はアイリスの、アイリスだけの騎士だ。

アイリスが残るなら俺も残る。」

「そんな…アレス—」


—ガチャ。


残酷に扉は開け放たれた。


「随分早いご到着ですねー三騎士トリニティガーディアンさんたち?」


そこにはこのの最強、三騎士トリニティガーディアンがいた。


「アイリス様、アレス・リアム。二人には平和の礎になってもらう。」

「そんな勝手なこと聞くと思ってんのかよ!!」

アレスは全力で魔力を開放した。家具や窓が大きく揺れ、突風が巻き起こる。


「やはりこれほどとは…人類最強、いや、世界最強の騎士よ。」

「全く嬉しくない誉め言葉だよ!」


—刹那。アレスの腕から斬撃が飛んだ。

「—っ!」


不意を突いたアレスはアイリスを抱え窓から飛び出した。

「アイリス、身体強化を頼む。」

「わかりました。魔法『身体強化エンチャント最大ッ!!」』


アレスの体に銀色の魔力が纏われる。

「懐かしいな…昔にも窓から飛び出て魔法かけてくれたよな。」

「えぇ…今回とは勝手が全然違いますけどね。」

高さ30Mはあるだろう。しかしアレスは軽々と着陸して見せた。


アレスは空を見上げる。

そこにあったのは普段は相容れない存在である魔族と神たちだった。


「はは…どんだけ本気なんだよ。あいつら。」

「そんなにが必要なのでしょうね…」


アレスが空を翔けようとした瞬間。


—世界が悲鳴を上げた。


空が割れる。

そこ現れたのは魔族の王アスタロッサと最高神フリューゲル。

禍々しいほどの魔力を持つ二人に、アレスは心で悪態をつく。

(どうしてアスタロッサとフリューゲルが?くそ…勝てるわけがない…)


「人間の子たちよ、降伏せよ。何、命までは奪わん。二人は二人で一つなのだからな」

アスタロッサが圧を掛けるが、アイリスとアレスの心は折れなかった。


「アイリスに危害を加える奴は誰だろうと許さない…

相手になってやるよ!!!お前ら!!!」


こうしてアレスとアイリスの最後の聖戦が始まった。








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