記憶の深淵—安寧の日々の終わり―

俺は王宮に呼ばれていた。

呼ばれた部屋に入ると、騎士たちがカーペットの横に一列に並び

頭が痛くなるような豪華な装飾の施された中央に佇む人がいた。

この国、聖コメリスシデュア国の国王がいた。


「アレス・リアムよ、此度の活躍見事であった。」

「は!ありがたきお言葉!」


アレスは左膝を床に右膝を立て、頭を下げた。


「この度の聖戦、お主がいなければ我が国は滅んでいたろう。

誠に感謝する。」

「滅相もございません。陛下」


聖戦とは、人間、魔族、神との三種族の戦いであり、

人間側では主にこの国、聖コメリスシデュア国とエンパイア帝国との同盟軍で戦っている。聖戦は100年続いており、正直何のために戦っているのかさえ分からないのが大半だ。

今回の戦いでは主に人間と魔族の戦いであり、その戦いは熾烈を極めた。


俺が頭を下げていると凛とした声が部屋に響く。


「私からも感謝します。人類最強の騎士アレスよ。」

「お褒めに預かり光栄です。アイリス様。」


今俺に言葉をかけたのが、この国の王女アイリス・グレイスだ。

その容姿は人間離れしているほどの美しさで、長い銀の髪に碧眼がよく似合う。

まだ15歳と、俺と同い年とは思えないほどのオーラを纏っている。

また、彼女の使う魔法の腕は世界をも驚かすと言われるほどだ。



そうして何度目か分からない話が終わると俺は、

この国の王女アイリス・グレイスの部屋に案内された。



「失礼します。アイリス様」

「入りなさい」


彼女に許可をもらい部屋に入ると、そこには流石は一国の王女に相応しい白を基調とした豪華な景色が広がっていた。


「あなた達、アレスと話があるので下がりなさい。」

彼女がそう指示をすると、お付きの騎士やメイドたちは部屋を出た。


「いつもごめんなさいね、呼びだしてしまって」

彼女は先程までとは考えられないほどの柔らかな雰囲気を醸し出しながら言った。

「いえいえ、全然大丈夫です」

「そんなにかしこまらなくてもいいのよ?私たちの仲じゃない」

「そうだね、他に人が近くにいないか魔法でも確認したし楽にするよ」


そう言うとアレスはソファーに腰を下ろした。

すると当り前かのようにアイリスも隣に座ってくる。


「相変わらずだな、アイリスは」

「ふふふ、いいじゃない?アレスの近くにいたいもの」


アイリスは無邪気に笑う。

ほんとにアイリスは世界屈指の魔法使いなのだろうか。

この態度からは全く想像がつかない。


「よかったわ、今回もアレスが無事に帰って来ることができて。」


アイリスの手が俺の手に絡んでくるのが分かったが平静を装う。

「当たり前だろ?俺はアイリスの騎士だ。アイリスが死ねと言うまで死なないよ」

「そんな物騒なこと言わないでよ!冗談でも言わないで!」

「分かってるって。さっきのはちょっとした冗談さ」


そうしてアレスたちが話していると、意を決した様子でアイリスが真剣な顔になった。


「ねぇ、アレス」

「どうしたアイリス?」

ただならぬ気配を察したアレスだがさっきと同じような感じで尋ねる。

まるで、今から話す内容を意識的に逸らすかのように。


「―あの魔法を使うことになりました。」

「—っ!」


こうして俺たちの安寧の日々の終わりが告げられた。





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