第11話

 五十嵐はベッドのナースコールを押した。


 怪我をした五人の刑事は無事だった。


「それで、何があったんだ?」

 五十嵐が岡崎に聞いた。

「俺たちは、それぞれの場所で警備に当たっていた。九条の部屋の中に二人、外に二人、フロアを巡回する者が一人」

 岡崎はその時の状況を思い出しながら語った。



 まず先に襲われたのは、フロアの巡回をしていた者だった。気配に気付いた時には背後から噛みつかれた。声を出せなかったが、物音で部屋の外にいた二人が気付いて駆け付けた。その隙に、奴は部屋へ侵入し、俺たち二人を襲った。まず一人に噛みつき、俺が銃を構えた瞬間、背後に回られ、噛みつかれた。そこへ三人が駆け付けた。一人は噛まれて動けなかったが、二人が銃を構えた。奴には俺たち人間の動きは遅いのだろう。二人とも次々と噛まれた。噛まれると、力が抜けて、立つことも出来ない。俺たちは為す術もなく倒れた。

 そこへ、運よくなのか? 五十嵐さんたちが駆け付けてくれた。



「すまない。もっと早く駆け付けるべきだったな」

 五十嵐が言うと、

「いえ、来てもらって助かりましたよ。しかし、奴は、我々を殺すつもりではなかったのでしょうか?」

 岡崎がそう言って首を傾げた。

「奴は不死身じゃない。五人の刑事相手に、これが精いっぱいだったのかもしれないな」

「そうでしょうか?」

「しかしなぜ、そうまでして、奴は九条を連れ去ったのだ?」

 五十嵐はぽつりと言った。確かに、人前に姿を見せて、危険な思いをしながら、九条を連れ去ったのには、何か理由がありそうだ。


「あら、理由は簡単よ。彼女にとって、九条は特別な存在。大切な人を連れ戻しに来た。それだけよ」

 蓮宮は言うまでもないといった感じでそう言った。

「どうして、そう思うんだ?」

五十嵐が質問すると、

「女の感よ。それじゃだめなのかしら?」

 と返した。



 それから一夜明け、五十嵐たちは集まり、これからの作戦を練っていた。

「奴はどこに隠れたんだ? あんたの感で分かるのか?」

 五十嵐は皮肉を込めて言った。

「あら、珍しく挑発的ね。私の感で分かったら、少しは見直してくれるのかしらね」

 蓮宮は口元を緩ませて、不敵な笑みを浮かべた。

「分かるのか?」

 五十嵐はその反応に食いついた。

「九条のマンションよ。あそこは少女が九条と暮らしていた大切な場所なのよ。戻るならあそこしかないわ。でも、あなたたち刑事が踏み荒らしていい場所じゃないわ」

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