第5話
「俺たちは、ホテルに宿を取った。あんたはどうする?」
五十嵐たちは、隣の市の警察署に到着した。
「私もホテルに泊まります。まだ、終わっていないもの。吸血鬼を見つけないと」
「もう一部屋、取ってくれ」
五十嵐は部下の刑事に言った。
須藤は、苦い顔をした。蓮宮は綺麗な顔をしているが、態度が少々、横柄で、五十嵐に甘えるところが気に食わなかった。
「部屋を取りました」
部下が五十嵐にメモを渡した。
「俺たちは、まだ仕事がある。疲れているようだから、部屋で休むといい」
そう言って、蓮宮にメモを渡した。
「私もまだ仕事が終わっていないから、休まないわ」
蓮宮はメモを受け取り、バッグへしまった。
「一般人にはこれ以上、警察の情報を与えるわけにはいかない」
「あら、私を追い出す気? 一人になった私が吸血鬼に襲われたらどうするのよ。あなた、私を守ると言ったじゃない」
蓮宮はあくまでも強気であった。それを見ていた須藤は、なんて面倒な女を拾ってしまったのだろうと、頭を抱えた。
刑事たちは、これまでの情報をまとめたり、連行した住民たちの事情聴取などで、忙しくしていた。蓮宮が立ち入れないことも多かった為、時間を持て余すように、刑事たちに声をかけたり、お茶を飲んで過ごした。
五十嵐たちがホテルに着いたのは、八時を回った頃だった。夕食は近くのラーメン屋で済ませていた。
フロントで鍵をもらって部屋へ入ると、五十嵐はシャワーを浴びて汗を流した。五十嵐が出ると、須藤もシャワーを浴びた。
「暑いですねぇ」
二人とも風呂上がりで上半身裸のまま、冷房の風に当たっていた。
「まだ痛みますか?」
五十嵐の背中には痣が出来ていた。
「岡崎さんからシップを貰ったんで、貼りましょうか?」
そう言って、須藤が五十嵐の背中にシップを貼った。
その時、ドアを叩く音がした。五十嵐と須藤は無言で顔を見合せた。
「私です。蓮宮です」
ドアの向こうで、蓮宮が言うと、五十嵐はドアを開けた。
「下の自動販売機でお酒売っていたので、買ってきました。おつまみも自動販売機で売っていましたよ」
そう言いながら、蓮宮は強引に入って来て、上半身裸の五十嵐と須藤を訝し気に見た。須藤は変な勘繰りをされたんじゃないかと思ったが、何も言わない蓮宮に否定するのも違うだろうと黙っていた。
「悪いが、酒は飲まない」
五十嵐が言った。
「あら、そうなの?」
「どんな状況にも対応できるように、僕たちはお酒を飲まないんですよ」
須藤が言うと、
「まあ! プロ意識が高いのね。感心だわ」
蓮宮の発言は、やはり高飛車だった。
「用がないなら、部屋へ戻ってくださいよ」
いつもなら、心にしまっていた言葉が、須藤の口からつい出てしまった。
「あら、冷たいわね。私を一人にして何かあったらどうするのよ」
蓮宮が須藤に食って掛かった。須藤は自分が余計なことを言ったと気付き後悔した。
その時、蓮宮がある一点を見つめて凝固した。
「ま……窓」
蓮宮の表情は引きつり、手に持っていた酎ハイの缶を落とした。
「窓って、ここは五階ですよ」
須藤は笑ったが、五十嵐は違った。窓に背を向けたまま、
「離れろ」
と須藤に向かって言った。
「へ?」
須藤から、間の抜けた声が出た。
「窓から離れろ」
須藤が窓に近付いていたのが見えていたかのように五十嵐が言った。須藤は五十嵐の背中から殺気を感じて、ゆっくりと窓から離れた。
五十嵐がゆっくり窓を振り返ったが、そこには何もなかった。
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