第4話

 一方、住民たちは、首から血を流している九条を運んでいた。

「九条さんがやられた! 死んでしまったのだろうか?」

 小柄で禿げた老人が言う。

「いや、生きているよ。早く安全なところへ運ぼう」

「安全なところなんてあるのか?」

 そんな会話をしながら、ある民家へと運び込んだ。そこは以前、九条家が住んでいたが、今は空き家となっていた。


 九条を寝室のベッドへ寝かせると、

「医者を呼んだ方がいいだろうか?」

 負傷している九条を、最初に見つけた男が言った。

「どれだけ、血を採られたんだろう? 輸血が必要かもしれない」

 九条の顔色は、血の気が無く蒼白だった。


 住民たちが狼狽えているところへ、彼らが突入してきた。

「動くな」

 刑事たちが七人、銃を構えて住民たちを包囲していた。警戒心の薄い素人には、刑事たちに後をつけられていたことに、気付くことも出来なかったようだ。

「ひっ!」

 白髪長髪の老婆は、この事態に驚き、白目をむいて失神した。


 他の住民たちは、観念したように両手を上げ、大人しく連行された。

「ドクターヘリを頼む」

 刑事の一人が、スマホで要請した。表に出ると、護送車とパトカーが到着していた。



 五十嵐たちは、監禁されていた古民家から出て、山を下っていた。そこへちょうど、先発チームの刑事三人が登って来た。

「五十嵐さん! 良かった。無事だったんですね」

「心配には及ばねぇよ。他の連中は?」

 三人の刑事の内、一人は五十嵐の部下の榊原だった。

「今、民家で住民九人と、九条を確保したそうです。九条は負傷し、意識がないので、ドクターヘリを要請したとのことです」

「そうか」

 榊原の報告を聞いて、蓮宮は急に身体の力が抜けたように、その場に倒れそうになったが、五十嵐がそれを支えた。

「大丈夫か?」

 五十嵐が声をかけると、

「足が震えて立てない……」

 蓮宮が涙を流しながら、笑みを湛えている。その心情を、五十嵐は理解したように、

「安心しろ」

 そう言って、肩をさすった。

「うん。でも……。歩けないから、おんぶして」

 蓮宮はどさくさに紛れて、五十嵐に甘えるような目を向けて言うと、

「仕方ない」

 五十嵐は蓮宮を背負い、山を下った。

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