第11話 利用

私は、今日普通にクラディエル公爵家の本邸にいる。

これが普通であり、日常であるはずなのだが、近頃は王宮書庫に行くことが多く、ここにいる時間が少なくなっていた。

しかし、今日はお父様と近頃の状況について情報を交わす必要があるのだ。

お父様からもともと言われていたことでもあった。

王子とのかかわりを深くすることによって、得られた利益については報告するように、と。

お父様の言い方は他のこともあるような感じだったが、王子と関わることによって他の何があるのだろう。

まあ、利益については、と報告内容は限定されているから、この前の魔剣を顕現させたことについては一旦言わないでおこう。

ダモニア様のためとはいえ、権能の無駄遣いな気もするからだ。



「どうだった、チトリス。何らかの利益は得られたか?王子と関われば、少しは利益を得られるとは思うんだが。」

お父様は、さっそく話を始めた。

既にお父様の表情は真剣だったので、私も意図的に真剣な表情を作る。


「そうですね、ダモニア様の協力で、王宮書庫の書物を見ることが出来ました。」

私は、手始めに最も最初の利益を報告する。

お父様も、この報告には顔をほころばせていた。王宮書庫を利用できるようになったというのはかなり大きい。

何せ、あの場所は私がよく通っているために勘違いしそうになるが、本当なら王族や、その他一握りの人間しか入ることもできない場所なのだ。

お父様でさえも、いちいち王族に許可を得ないと入ることが出来ない。

まあ、私だって同じようなものなのだが、ダモニア様とのかかわりが深くなれば、その分簡単に王宮書庫の書物を見ることが出来るようになるだろう。

そのような点では、ダモニア様との友好関係は優先的に築いていった方がいい。


「ふむ、では、王宮書庫では何かいい情報を得られたか?」

お父様が問いを重ねてくる。

私としては、この質問を待っていたようなものだった。

王宮書庫の書物を見ることによって得られた情報が最も多いからである。


「はい。魔属性の権能の種類については新たに一種、そして覚醒宣言について。ほかにも王家が把握している魔属性の権能の覚醒者の数についても知ることが出来ました。」

お父様は、一つ目と二つ目は知っていたのか、そこまで大きな反応を示さなかった。

しかし、最後のことについてはかなり大きい反応が返ってきた。

やはり、王家の状況を知っておけるのは大きいのだろう。


「王家が現時点で把握している魔属性の権能の覚醒者の数は、一人としていません。」

私は、そう言い切った。

お父様の表情が驚きに染まる。

まあ、そうなるのが普通だろうか。


「しかし、王家は魔属性の権能覚醒者を保護観察下に置いて管理する、と公言しているではないか。一人としていないはずがない。そもそも、ダモニア王子は王家の一人でありながら魔属性の権能覚醒者だろう。」

お父様は、少しばかり困惑しているようだった。

私も、ダモニア様から同じことを聞いた時には同じような反応をした。

ダモニア様が魔属性の権能覚醒者だというのに、王家がそのことを知らないはずはないだろう、と。


「ダモニア様は自身の権能について他の人には知らせたことがない、とおっしゃっていました。私のことも秘匿されていますので、今のところ王家は誰一人として魔属性の権能覚醒者を抱えていないことになります。」

私は、ダモニア様から受けた説明をそのままお父様にする。

お父様は未だ困惑状態のようだったが、少しずつ落ち着いて行った。


「つまり、国力として利用できる魔属性の権能覚醒者はいないわけだ。しかも、これまで現れた魔属性の権能も、三つしかないのか。うん、この数はクラディエル公爵家として記録されている者とも一致するな。」

お父様は、誰かに説明するためというよりは、自分で状況を把握するためにそう呟く。

私は、お父様の視界には入っていないだろうとわかっていながらも何度か頷いた。

というか、今お父様はクラディエル公爵家の記録と同じと言っていたが、つまりは王家が知りえている情報とクラディエル公爵家が知りえている情報が同等のものということだ。

自分の家ではあるけれど、改めてそのすごさに驚く。

まあ、ダモニア様がクラディエル公爵家の権力を小さくしたいと考えたのもわからなくない。

これほど権力が大きければ、それは厄介な存在になるだろう。



「ところで、チトリス。ダモニア王子のこと、どう思う?」

お父様は、自分の中で情報を整理し終えたらしく、質問を続けてきたのだが、先ほどとは少し意図が違うような気がした。

この質問は、お父様の純粋な疑問なのだろう、と私は思う。

しかし、どのように答えるべきなのだろうか。

お父様の質問の意図もあまりわかっていない今、安易に答えてはいけないとも感じた。


「それは、どういう意味でしょうか。」

まずは、慎重に質問の意図について聞いておく。

お父様は、主に私には優しく接してくれるけれど、時には探るような質問をしてくることもある。

お父様にとって私だって大事な情報源の一つなのだ。


「ダモニア王子の〝切裂〟の権能について考えないで、彼自身のことについて、何か思うことはあるか?」

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