第10話 顕現

私と、ダモニア様の目の前に顕現するは魔剣〝絶死の剣ティエルファエス

これで絶死の剣ティエルファエスが顕現するのも二回目だ。

今回は、〝切裂〟の力を吸うように設定するのではなく、人々の憎しみの力を吸うように設定した。

そのため、この剣で何らかの憎しみを抱いている人を軽くたたけば、それだけでその人の憎しみはどこかへと消えてしまうだろう。

しかし、ただの思い付きで憎しみの力を吸うように設定しておいたのだが、これはかなりいい考えなのではないか。

〝絶死〟の権能は、目標物を設定することが出来るため、その目標物を変えることで、何か有効活用することだってできるかもしれない。

まあ、今のところの方向性とはまた違った考えにはなるし、自分ではやりたくないことだが、有効活用したいのなら、死刑執行人などになれば、どうにかなるかもしれない。

〝絶死〟の権能は殺すための権能なのだから。


まあ、戦闘には役立つこと間違いなしだろう。

それこそ、近頃ではないと言われているが、大陸を分割するような大戦争でも起きれば、大活躍できるだろう。

私が望まないだろうから、参加することはしないし、参加を強制されそうになったとしてもお父様がどうにかしてくれそうだから、戦争に参加することはないだろうが。

戦争には参加する気ないが、自分が何らかの襲撃を受けたときには自分の身を守れるようにしておかないといけないだろう。

そのためにも、人を殺さないようにしながら戦闘を自分の有利な方向へと動かすようなことが出来るようになっておいた方がいい。



「これは……! まさにあの時の魔剣そのものだ!」

ダモニア様が、とんでもなく瞳を輝かせ、感動していた。

私としては、魔力を使うだけで、疲労を感じるということもないのだが。

その魔力だって、普通ならば多いとされる量だが、私からすれば少なめの量だ。


「この魔剣は、名前こそ物騒ですけど、安全ですわ。それこそ、怒っている人をこの剣で叩くだけで、その怒りを抑えることさえできます。兄弟喧嘩などで活用してくださいませ。」

私は、軽くこの魔剣について説明しておく。

ダモニア様は、この剣にそんな効果もあるのか!? と驚いておられた。

まあ、仕方のないことだろう。名前が物騒すぎて、そんな平和的な効果があるとは思えない。


ダモニア様は一分経った今でも、見飽きないようで、様々な角度から魔剣を見ていた。

これでは、ここに来た目的が何だったか忘れてしまいそうになる。

ダモニア様はまだまだ見ていたい様子だが、それは後回しにしていただこう。


「ダモニア様、その魔剣はいいとして、これからのお話を致しましょう。」

私が、そう声をかけると、ダモニア様は今更気づいたかのようにして魔剣を一旦置いて、こちらに向きなおってくださった。

これでやっと本題に入れそうだ。


「これからのことですが、私としては魔属性の権能覚醒者を探したいと考えています。私たちだけでは、二つの種類しかわかっていません。他の権能のことも詳しく知りながら、研究を続けたいのです。手始めに、わかっている〝城塞〟の権能覚醒者から。」

私が、大体言いたいことを言いきると、ダモニア様は少し思案する様子を見せた。

何か、不都合なことでも言っただろうか。

私の意見をどうしても通したいというわけでもないので、無理なら無理で仕方がないとあきらめるのだが。


「何か、問題がありましたか?」

ダモニア様は、私の問いに対していや、と首を横に振った。


「私としてはチトリスの考えに賛成だ。私たちでは限界だってあるからな。残念ながら、王家が把握している魔属性の権能覚醒者は一人としていないから、〝城塞〟探しは手さぐりになってしまうが。」

ダモニア様の賛成を得られれば、かなり心強い。

って、あれ?何か聞き逃してはいけない言葉があったような気がする。


「王家が把握している魔属性の権能覚醒者は一人としていないのですか?ダモニア様については?」

私は、少し混乱してしまったようで、各部分を省略してしまったが、意味は伝わるだろう。

私の権能についてはお父様の手によって情報が外に漏れないようにされているが、ダモニア様はまた違うだろう。

ダモニア様は、魔属性の権能覚醒者なのに、そのことを王家は把握していないのだろうか。


「ああ、私の権能については、私とチトリス含めたごく少数の人間しか知らない。それこそ、私以外であればクラディエル公爵家くらいのものだろうな。本当なら私だけの秘密のはずだった。」

そうだったのか。ダモニア様は王子なのだから、その情報は王家に筒抜けなのだと思っていた。

魔属性の権能についての情報は重要なことだから、王家であろうともその情報を共有することはしなかったのだろう。

しかも、ダモニア様は王家――特に兄や弟――を憎んでいたはずだから、そのことも関係しているのかもしれない。


「そうだったのですか。まあ、私はよほどのことがない限り口外しませんし、お父様も同じだと思うので、安心してください。」

まあ、私としてはダモニア様の権能についてほかの人に語ることはしないし、そもそもそうする利点を見つけられない。

だから、ダモニア様は不安かもしれないが、安心してほしい。


「まあ、何にせよ。これからは〝城塞〟の権能覚醒者及び、その他魔属性の権能覚醒者を探し出す、ということでよろしいでしょうか?」

私は、最終的なまとめをしておく。

そろそろダモニア様だって仕事があったりするだろうし、そこまで多く時間をとるわけにはいかない。


「ああ、大丈夫だ。………覚醒者が男でなければいいが……」

ダモニア様が、最後に何を言ったのかは小声過ぎて聞こえなかった。

言い直してこないところからして、そこまで大事なことでもないのかもしれない。

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