第9話 収集
私は、今日も王宮に来ている。
毎日のように来ているので、王宮の使用人とは顔見知りになった。
それこそ、使用人たちが私の話題を出している時だってある。
なんだか、私の名前が聞こえるな、と思ったら使用人たちが会話しているのだ。
まあ、ニコニコ笑顔で話しているから、陰口ではないはずだ。
流石に、人を貶めるような陰口を笑いながら話すような恐ろしい人間はそういないだろう。
「おお、チトリス、来たか。今日も王宮書庫で情報集めか?」
ダモニア様が私を見つけてそう声をかけてきた。
丁度探していたから、自分から来てもらえるなら嬉しい。
「ダモニア様、ごきげんよう。今日は王宮書庫に行きたいのではありませんわ。少し、これからのことを考えておこうと思いまして。ダモニア様はこれから時間が空くときはございますか?」
私は、彼とこれからの作戦会議をしに来たのだ。
情報集めも大事だが、重要な情報が出てきた時にはしっかりと情報を整理することも大事だ。
「チトリス様が……これからの作戦会議と………!」
何やら使用人たちの方で小さくつぶやきが聞こえてくるが、私の耳は特段良いというわけではないので聞き取れなかった。
しかし、ダモニア様は聞き取れたようだ。
何やら、ダモニア様の様子がおかしくなっている。
顔は赤くなって、緊張しておられるみたいだ。
急にどうされたというのだろうか。
「ああ、今でも空いている。た、立ち話もなんだから、早めに行こう。」
ダモニア様が、そう早口で捲し立て、そのまま早歩きで去って行かれる。
私は、すぐにダモニア様を追った。
公爵令嬢として人前で走るなんてことをするわけにはいかず、私も早歩きで追いかけることにする。
「これで大丈夫か。適当に寛いでくれたらいい。今紅茶を準備させよう。」
ダモニア王子は、部屋に入るとはっきりと安堵の表情を見せ、そのまま部屋の中心にあるソファにかけた。
私も、ダモニア王子の向かいにあるソファに座らせてもらう。
ちなみに、ここはダモニア王子の執務室である。
すぐに使える客間が開いていなかったため、急遽ここを使うことになったのだ。
初めて見る王族の執務室だったが、ダモニア王子の執務室ということで、これが普通なのかがあまりわからない。
壁には戦いの渦中である戦場を描いた絵画がかけられ、いたるところに弓や、剣などが置かれている。
野性的な見た目に反さず、武闘派のようだ。
「この剣はダモニア様のコレクションなのですか?かなりいっぱいある気がしますが。」
私は、本題に入る前に世間話でもしようと、気になったことを純粋に聞いてみた。
すると、ダモニア様はとんでもなく目を輝かせた。
「ああ! ここに在るのは私が今までに見た中でも特に気に入っている剣ばかりだ。そして、これはな西の方に行ったときに見たもので――」
何となく、長くなりそうな予感がする。
「あ、ダモニア様。やはりいいです。長くなりそうですので。また今度聞かせていただきますわ。」
私は、早めにダモニア様の話を止めておいた。
ダモニア様は不貞腐れた表情をしているが、今は長話を聞いている時間はない。
私はあるかもしれないが、ダモニア様は忙しいはずだ。
折角とれた作戦会議の時間を無駄にはしたくない。
「そうか。まあ、いい。ところでな、私が気に入った剣で、ここにはないものが一つだけあるのだ。」
ダモニア様は、どうにか剣の話を続けたいようだ。
しかし、ダモニア様ならば王族の権力でどんなものでも手に入りそうだが、そうでもないのだろうか。
どんなに希少な剣なのか、と私の興味は引かれた。
「それは、どんな剣なのですか?ダモニア様でも手に入らないのですから、さぞ希少な剣なのでしょうね。」
私は、気になったことはどんどん質問していく性格ではないが、いつの間にか質問していた。
ダモニア様は、私が質問したことで、小さくガッツポーズをしていた。
「先日、チトリスが顕現させていた魔剣があるだろう。その魔剣を一目見たときから気に入ったのだが、手に入れることなんてできるわけなかったからな。」
ダモニア様は、そういうと、少し悲しそうな表情を作る。
何となく、その願いをかなえてあげたいと思った私は、思いついた。
「ダモニア様、ここで〝絶死〟の権能を行使してもよろしいですか?ここでも魔剣を顕現させることが出来ると思います。」
私は、ダモニア様に一応のために確認をとる。
確認だけ取っておかないと、あとでいろいろと困りそうだからだ。
すると、ダモニア様は少し思案するような様子だったけれど、すぐに許可してくれた。
「空気は冷え、大気の輝きは失われる。陰影錬金~魔~」
私は、小声で詠唱を開始する。
私の足元に、黒にも光る紫の魔方陣が展開される。
それと同時に、殺気を纏った結界もまた、私を中心として展開された。
感覚が鋭い人には殺気に気づかれるかもしれないが、大丈夫のはずだろう。
「止めろ、震わせ、撃ち落とし、押しつぶせ。憎しみの力を吸い尽くし、魔剣と成れ。」
「〝絶死〟の権能をわが手に。〝
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