第6話 王城
私は、今日王城へと訪れる。
あの襲撃事件から約一週間がたった。
今のところは襲撃事件がきっかけとなって起きた問題はほとんどない。
あるとすれば家の修繕が必要になったことくらいだ。
それ以外には何も起こっていない。
私が王城を訪れるのは、ダモニア王子の監視のためだ。
大体年が同じということで、交流の場を持つことはすぐに許可された。
というか、お父様の話によるとダモニア王子の方から強く希望されたそうだ。
もしかしたら、ダモニア王子も私がどれほど情報を持っているのかについて探りたいのかもしれない。
なら、私だって自分のカードを見せないようにしながら相手のカードを探るように会話を繰り広げるのみ。
そのようなことに関しても、お父様からの教えは受けている。
ダモニア王子相手であってもうまく会話して見せよう。
「お久しぶりでございます、ダモニア・マルティアル第二王子殿下。」
「ああ、久しぶりだな。チトリス・クラディエル公爵令嬢。」
私たちは、それぞれの自己紹介を済ませる。
私たちは一応、前に顔を合わせたことがある。
そのため、実際初対面というわけではないのだ。
と言っても、最後にあったのは今から数年前ほど。
お互い忘れてても仕方がないほどだった。
「お前たちは下がっていろ。非常事態の時だけ、中に入ることを許可する。大丈夫だ。我々は魔術に長けているからな。」
ダモニア王子がそう言って使用人たち、騎士たちを下がらせる。
ここからが本番だろう。
先ほどまでは少しばかり世間話をしていたが、ここからは使用人たちに聞かれてはいけないような話をするのだ。
「ダモニア王子殿下、先日の件は覚えておられますか?」
私から、聞いてみる。
どう反応するかによって私だって反応の仕方は変わってくる。
冷静なままの返事が返ってくるのなら、こちらも慎重に会話を返すが、動揺でもしようもんなら、その隙に付け込んでうまく情報を聞き出す。
「ああ、覚えている。こちらの不手際だ。申し訳ない。」
おやおや、意外と素直に謝ってきた。
根は優しいのかもしれない。なら、今回のことも何か理由があったのだろうか。
「完全にクラディエル公爵家を潰すはずだったのだが、上手くいかなかった。本当に申し訳ない。」
いや、一切謝る気もなければ反省もしていないな、この王子。
それどころか挑発するような口調で言い返してきたぞ。
これは、どう対応したもんか。
挑発にのってしまってはいけないのはわかるけれど、どう対応するのが良いのだろう。
「おや、かなり余裕そうですわね。やろうと思えば、私たちクラディエル公爵家は、王子殿下を王族から追放することだってできますのよ?」
私は、鼻で笑いそうになってしまうのを我慢して、そう言い返した。
鼻で笑えば挑発としてはよくなるかもしれないが、公爵令嬢としての気品に欠ける。
しかし、こちらが圧倒的に優位であることを突き付ければ、王子も少しは大人しくなるかもしれない。
「俺が、追放されたところでどうなる?」
ポツンとこぼされた言葉は、やけに悲しくて、儚くて。
私は自分の耳を疑いたくなった。
先ほどの挑発するような態度はどこに行ってしまったのだろうか。
「王族としての権力をなくしてしまうのですよ?それでも良いとおっしゃるのですか。」
私は、王子の思わぬ発言に驚いたからか、純粋に気になったことを聞いていた。
実際、王子というものは王族の権力に守られて生活している。
その権力という後ろ盾をなくしたら、どうしようもなくなってしまうだろう。
「王族の権力か。ハッ、俺には無縁の話だな。王族の中ではただの石ころ扱いをされている俺には。」
王子の口調が明らかに変わっていた。
これが素なのだろう。似合わなくはなかった。
それどころか、少し野性的な見た目のダモニア王子にはにあった口調だと思う。
「兄さんである、第一王子は王位継承者。弟の第三王子は俺より優秀。なら、俺はどうなる?王位を継承することもできない、弟と比べ無能。ただの役立たずにしかなりえない。」
王子は少しずつ話し出した。
その口調は、言葉遣いこそ野性的な印象を与えるが、その喋り方は哀しかった。
何も感じていないかのような、空白感。
私は味わったことがなく、他人がそれを感じている様子を見たこともなかった。
「俺は、ただの無能で、魔属性の権能を覚醒させた問題児だ。俺なんか、俺みたいな王族の恥さらしなんか、いつ追放されたっておかしくはない。」
王子は、そう言って天井を見る。
何もかも諦めたような瞳は、光を反射することを拒絶するかのように昏く沈んでいた。
「なぜ、魔属性の権能を覚醒させたら問題児になるのですか。」
私は、気づいたら反論していた。
普通ならここまで直感的に行動することはない。
しかし、今だけは直感に任せて行動してみようと思えた。
それに、王子の言い方が気に入らない。
私だって魔属性の権能を覚醒させているのだ。そして、それを有効活用しようとしている。
なのに、魔属性の権能を覚醒させた時点でその人物の存在が問題であるなど、私の存在を否定するようなものだ。
「それは、魔属性の権能は人間の持つ力の中で、最も終焉に近いとされ、この世界に真っ向から歯向かう権能だからだ。その力はうまく使えば国力となりえるが、ほとんどは終焉への片道切符にしかなりえない。」
私は、その答えに納得することは出来なかった。
魔属性の権能だから、終焉をもたらすことになる、というのは根本的に間違っている。
「ダモニア王子殿下、私も魔属性の権能の覚醒者ですが?」
私は、さっそく手札を切った。
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