第4話 襲撃
私は、いつも通りの日々を過ごしていた。
今日だって、〝絶死〟の権能を使いこなせるようになるため、お父様から厳しい訓練を受けている。
そして、私も少しはこの権能について知るべく、お父様から様々な知識ももらい受けている。
この権能は、今のところ物質の殺傷、消滅しかできない。
しかし、どうにかほかの用途を見つけ出したいのだ。
物を消滅させ、魔力に還元するだけでなく、その魔力を用いて他の何かを生み出すとか、魔力が枯渇している第三者に分け与えるとか、何らかの使い道があるはずだ。
それを、私はどうにか考えだそうとしていた。
お父様にも相談し、お母さまにも相談し、考え続けているのだが、結局詠唱をしているのは私なので、お父様やお母さまにもどうしようもないらしい。
自分でどうにかするしかないのだ。
そんなことを考えながら、数日が経った。
何気ない日々を過ごしている私は、この後何が起こるかなんて考えていない。
ガラガラ
突如として、邸宅の壁が崩れ落ちた。
私は、何が起こったのかわからず、ただ茫然としていた。
「チトリス! 無事か!?」
お父様が、急に扉を開けて入ってくる。
いつもならしっかりと扉をノックするのに、今日だけは明らかに様子が違った。
私は、一瞬にしてこれが緊急事態なのだと理解した。
クラディエル家は高位な貴族であるために、敬意を示されることがほとんどだが、少なからず恨みを買ってもいる。
年に一度くらいは襲撃があってもおかしくないのだ。
まあ、それらのほとんどが我が家で雇っている騎士たちによって制圧されているのだが。
襲撃者が来たのだと、お父様は早口で私に説明する。
しかも、今回の襲撃者は圧倒的に格が違う。
先ほど、邸宅の壁が破壊されたが、常人の魔法ならばそんなことは出来ないはずだ。
我が家には薄めの防御結界が張り巡らされており、ある程度の魔法は弾き返す。
その防御結界を破るほどの高威力魔法が使用されたのだろう。
私の中で警戒度が一気に上がるのを感じた。
「一旦、お前はエミアールと一緒に屋根裏部屋にいなさい。」
お父様はそう言って外に出て行く。
襲撃者の制圧に向かったのだろう。
私は、お母さまのいるらしい屋根裏部屋へと向かう。
「チトリス、無事だったのね。」
屋根裏部屋に行くと、無事そうなお母さまに迎えられた。
そのまま、身を潜めるようにと言われる。
と言っても、お父様が制圧のために動いているのだ。
襲撃してきた人たちが制圧されるのも時間の問題だろう。
「空気は冷え、大気の輝きは失われる。」
嫌でも、耳に入ってきてしまった。
聞き流すことのできない一言。
「陰影錬金~魔~!」
私は、確信した。
外にいる襲撃者は、魔属性の権能保持者だ。
そして、我がクラディエル家を襲撃しているということは、国には知られないようにしている、悪人たちだろう。
私の隣で、お母さまも表情を硬くしている。
明らかに、今のお父様は危険だ。
お父様は、圧倒的な高威力魔法だって使いこなすことが出来る。
しかし、その魔法だって魔属性の権能によって無効化されるかもしれない。
実際、私の場合がそうだった。
私は、思わず一つだけある窓の方へと走った。
お母さまから制止の声が聞こえるが、今だけは止まれない。
窓の外をのぞくと、お父様と襲撃者、黒い衣を全身にまとった男たちが戦っているところだった。
周りには騎士団もいるのだが、相手の高威力魔法に対し、うまく対抗できていない。
お父様だけが、攻防を成立させていた。
しかし、お父様が対応しているのは五人ほどの男たちのみ。
その男たちの後ろには、陰影錬金によって顕現させた魔方陣の中央に佇む男がいた。
その男が魔属性の権能を持っているのだろう。
ついに、その男が一歩前に踏み出した。
「鋭く、細く、薄く在れ。万物を両断するためだけにここに在れ。」
男が詠唱を開始する。
私の持つ、〝絶死〟の権能とはまた違った詠唱だ。
実際、魔属性の権能がいくつあるのかについては私はわかっていないのだが、複数あることは確かだろう。
では、この男の権能は何なのか。
「〝切裂〟の権能をわが手に。
お父様がその場で新たな詠唱を紡ぐ。
「我が身に宿り、更に燃え上がれ。炎は木のように太く育つ。」
「炎の権能をわが手に。〝
お父様は早口で起動言語を送り込み、自分に治癒魔法をかけた。
魔属性の権能に対して他の攻撃魔法や防御魔法による相殺は通用しないとわかっているからだろう。
黒い主犯格の男の魔力が、剣の形となり、お父様の方へと向かって行く。
その剣は、お父様の腹を切り裂いた。
私は、咄嗟に目を手で覆った。
ほとんどの場合お父様が助かることはわかっているけれど、そうだとしてもお父様の腹が斬られるところは見たくない。
私は、少ししてから恐る恐る目を開けた。
すると、そこには全くの無傷で戦い続けるお父様がいた。
しかし、お父様とてかなり苦戦を強いられているようだ。
主犯格以外の襲撃者はほとんどをお父様が無力化した。
それでも、主犯格の男は魔属性の権能を持っているために圧倒的な強さを誇る。
「鋭く、細く、薄く在れ。万物から防御するためだけにここに在れ。」
男が、詠唱を開始した。
先ほどの詠唱にも似ているけれど、少し改変されている。
「〝切裂〟の権能をわが手に。
男の魔力が、男の周りに剣を象る。
その剣は、敵を殲滅するためではなく男を守るために顕現する。
その剣は、お父様の高威力魔法を完全に無力化する。
これのせいで、お父様の攻撃が一切入っていないのだ。
――〝絶死〟の権能は、物質を魔力に還元する
――物質を魔力に還元して、その魔力から何かを生み出せたら
私の記憶の中の、二つの事柄がつながり線となる。
そして、先ほど見た、男の魔属性権能の詠唱改変。
魔属性の権能だとしても、詠唱は改変できるのだ。
〝切裂〟の権能に出来るのなら、私の〝絶死〟の権能だって、出来るはず。
「空気は冷え、大気の輝きは失われる。陰影錬金~魔~」
お母さまがぎょっとする。
私は、そんなことも放っておいて、詠唱を続ける。
「止めろ、震わせ、撃ち落とし、押しつぶせ。切裂の力を吸い尽くし、魔剣と成れ。」
私は、普通の詠唱から要らないところを削り取り、新しいところを追加する。
力を吸い取って、押し殺してしまう必要はないのだ。
その力を他の何かに変えてしまえばいい。
「〝絶死〟の権能をわが手に。〝
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