第2話 発覚

お父様の多重垂直詠唱。

普通ならば成す術もない状況で、私は覚醒めざめさせた。


私が、絶死の権能を発動させた瞬間、お父様の行使した魔術によって顕現していた星々が動きを止めた。

その場で動かなくなった星々に、お父様が表情をゆがめた。

お父様だって予想できていなかったのだろう。

というか、私だってこうなることなど一切予想できていなかった。



お父様が顕現させた星々が、空中で爆裂。霧散した。

元々魔力を形にしたものがその星々だったのだ。

星々は、その場で魔力に還元され、空気の中に溶けて消えていった。





「チトリス、お前は――いや、そうなのか?」

お父様はかなり困惑していた。

私は、お父様の困惑の要因をよく知っている。

そして、私だってお父様に負けず劣らず困惑していた。

それこそ、その場で失神してしまうほどには。





………………………………


………………………………………………………………


私が目を覚ました時、そこは私の部屋のベッドの上だった。

私のそばには厳しい表情を浮かべたお父様、話を聞いているであろう、悲痛な面持ちのお母さまがいた。

既に人払いを済ませてあるようで、使用人たちはこの部屋にいない。


「お父様、私は――」

私が、言おうとすると、お父様が私を制した。


「わかっている。お前が二日間寝ている間に調べられる限りのことは調べつくしておいた。お前が覚醒させたのは〝絶死〟の権能だ。」

お父様は、私の予想通りのことを話した。

私も、予想は出来ていた。

自分が行った魔術詠唱、それは普通の詠唱とは違い、明らかに殺傷を目的としたものだった。

その殺意が、詠唱のことばにもにじみ出ている。


しかし、生物の殺傷、人間の殺傷、敵対生物の殺傷。

〝絶死〟の権能はそれらに留まらなかった。

全てのものの動きを止め、どんなものであっても、〝殺す〟のがこの権能の特徴だ。

実際に、先日のお父様との模擬戦では、生命を持たないはずの星々を私はいわば殺した。


この権能は、殺傷能力が高すぎるがために、その権能保持者は国の監視下のもとで過ごすこととなる。

その人物がやろうと思えば、世界の終末さえも導くことが出来るのだ。

そんな危険な人物を野放しにするわけにはいかない。


そして、この権能は、国家機密として隠されている〝魔属性〟の魔術に分類される。

魔属性の魔術はほとんどの人が使うことが出来ず、一部の選ばれし人間たちだけが使うことが出来るという、伝説の魔術だ。

それこそ、おとぎ話などで〝悪役が〟用いていることが多い、架空の魔術という認識のものだ。

しかし、公爵家であるクラディエル家はその魔術の存在についても、ある程度の情報を有していた。

だからこそ、お父様は私が覚醒させた〝絶死〟の権能について調べることが出来たのだろう。




「お前は、お前の意のままに人を生かすことも、殺すこともできるようになった。この場で私たちを、それこそこの国の人間全員を殺すことだって、容易だろう。」

お父様が話を再開した。

お父様の口調は、いつものものとは違い、重く、低いものだった。

それもそのはずだろう。自分の娘が、自分を殺そうと思えばいつでも殺せるような立場にいるのだ。

私にその気がなかったとしても、権能が暴走してしまったら、誰もがその場で命を落とすこととなる。


「だが、お前の様子を見る限り、お前はその権能を完全に自分の管理下に置いている。今のところは権能が暴走するようなことはない。安心しなさい。」

お父様の言葉は、何となく、安心感を与えるものだった。

お父様は膨大な魔力量を持っているだけでなく、魔力についての知識も多く持っているため、人の状況を把握することもできるのだ。

お母さまも、お父様の言葉を聞いて少しは冷静さを取り戻してきたようだ。



「これからは、お前がさらにその権能を使いこなせるように訓練を開始する。これからも権能が暴走することのないように、しっかりと訓練するんだ。」

お父様の言葉に、私はしっかりと頷いた。

私のせいで人が死んでしまうなんてとんでもない。

権能の暴走をできるだけ防ぐためにも、どれだけ厳しい訓練であってもやり遂げるつもりだ。





「空気は冷え、大気の輝きは失われる。陰影錬金~魔~」

私は、起動言語を送り込み、魔方陣を展開する。

魔属性の魔術を行使する場合には、この錬金法を用いる必要がある。

先日の模擬戦の時には、あまり何も感じないままにいつの間にかこの詠唱をしていたが、実際にはかなり魔力が吸い取られる。

消費する魔力量としては、〝開〟よりも上だと文献には書いてあった。

やはり、私が五段錬金~開~を使えないのは魔力量のせいではなく、魔術の才能がなかったからのようだ。


陰影錬金については、魔属性の権能に覚醒したものは魔力量があれば必ず使うことが出来るので、私でも簡単に使えたのだった。



「止めろ、震わせ、撃ち落とし、押しつぶせ。殺到するべき的へと向かい、押し殺せ。」

私は、詠唱を紡いでゆく。

昨日、覚えているはずもないのにすらすらと出てきた詠唱は、今日も流暢に口から出てきた。


「〝絶死〟の権能をわが手に。〝絶死を与えしギヴィングブレス聖母グレートマザー〟!」

私の目の前にあった的が、一瞬にして砕け散る。

その破片は、欠片としてその場に残ることもなく、消滅した。

どんなものでも、〝絶死〟の権能は、殺してしまう。

それが、生きていようが、生きていまいが。

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