6回(実質4回) ルルペンシルを越えられる気がしない。
近況として、日常生活というメインクエストと並列するサブクエストとして「女子プロレスの小説を書く」というのを抱えている。達成制限はないがクエ発生は1ヶ月近く前になる。
基本的に「小説を書く」は私にとって3ヶ月サイクルくらいのクエストで、そこから2ヶ月くらい「投稿先を探しながら推敲する」という関連クエストが発生する。
で。
一応主要人物の設定はすでにある程度練り上がっていて、あとはそれを滑走路にどんな物語を飛ばすか、という感じなのだけど、現在「運行遅延」の掲示とアナウンスが流れるほどの暗雲の存在を感じている。
今回はその暗雲の話をしようと思う。
その名をルル・ペンシル(英字表記lulu pencil)という。
ルル・ペンシルは我闘雲舞という女子プロレス団体に登録名を維持し、そしてここのページでも過去にがっつり触れたチョコプロにも参戦していた選手だ。
だが、この半年ほど、選手としては活動停止状態にある。
名勝負としてクリス・ブルックスとのシングルマッチがある。(この試合動画はyoutube上に公式なものがある)
レスラーとしては女子選手としても非常に線が細い選手で、その闘いも「市ヶ谷」のマットプロレスはともかく「リングだったらロープワーク耐えられるのか?」と思うほど弱そう。そして実際弱い。弱いがガッツはあるし、少なくとも「市ヶ谷」では見るに耐える勝負をしてくれる。
(プロレスにおいて「見るに耐える」というのは「選手としての攻撃力の高さ」以上に重要な要素だと思う。プロレスは本質的に、選手の身体能力と技能に強く依存した格闘技型のエンターテイメントである。毎回初見のサーカスのようなものとも言えるかもしれない)
彼女の現在の職はゲームのネット情報サイトのライターである。
レスラーとしてのコールも『フリーライター』なので、ゲームで言えば『メインジョブ:ライター、サブジョブ:プロレスラー』という方が正しい人なのかもしれない。
現在の筆名は避けるが、最近見た範囲では同サイトの動画企画で顔出しで番組回しなどもしている。
そして選手名で検索すると、はてなブログとnoteにルルペンシルとしてプロレスに関する記述を残している。この記述は実に体感的であり、至近距離でプロレスを内側から描出するということにおいて非常に優れている。
正直、彼女のnoteを読んで私は打ちのめされた。
彼女は、私には踏み込めない「プロレス当事者」としての目線と「書き手」という目線の二つの目で文章を構築している。
「こういうものを書く人がいるのなら、私みたいな外野の新入りが軽々にフィクションでプロレス書く必要ないじゃん」と思った。
(けど、それでもやっぱり、私は書きたい。
私の創作に関する衝動の一つに「啓発と理解の普及」というのがある。「認知と理解と共感を深めるという形で社会に貢献する存在としてのフィクション」に信仰心のようなものを持っているせいかもしれない。
実際、私がアメリカのドラマばかり見るのも、現代のアメリカドラマがそういう存在として非常に力のある表現をしている媒体だから、というのがある)
ルルペンシルが書いていない視点、書いていない視野、書いていない軸で、私は小説というフィクションに落とし込む必要がある。……これがひどく厄介なのだ。
何しろ「現実」や「実在」という説得力にまさるものはない。
ましてやプロレスは「夢を売る商売」のようなところがあり、徹底した秘密主義めいた側面がある。そこをしっかり見て、肌で味わってから書かれた文章が相手である。
ましてや往年の選手や関係者が昔のプロレスを語るのとはわけがちがう、現状の現場に近いところの声だ。
そして私が女子プロレスの小説を書きたいと思ったのも、その「現代の女子プロレス」という実存の片鱗に触れて、少なからず救われたからこそだったりする。
かつてのブル中野や北斗晶やアジャコングがバチバチに流血し、客席を荒らしながら試合してた時代とはかなり違う。(最近そういう動画を見て「昔の女子プロって、迫力あるけど迫力と同じくらい恐いな」と心から思った)
基本的には現代の女子プロを象徴するのは「キラキラ」だろうか。
これは揶揄的な意味ではなく「ライトを浴びて、四方から応援と称賛を浴び、肯定感を高められながら相手選手と技と力を物理でぶつけ合う」という、非常にポジティブなマインドが強いのだ。
もちろん喧嘩腰の遺恨試合とかを積極的にやってる団体もあるけども(業界最大手のスターダムとかはそれでシリアスな展開と空気を作ってる感じがある)
だが一方で、積極的にキラキラ感やアイドルみを打ち出している団体というのもある。東京女子なんかはまさにそう。(もっとも、東京女子の場合は元芸人や元アイドル、声優養成所出身などキラキラを渇望する背景を抱えている選手が多い。それが結果としてプロレスのリングでそれを得た、という人も少なくないので事情が変わるかもしれない。
そういう「ショービジネスからの転向者」というのは東京女子に限らず多い。例えばスターダムの初期のトップ選手、愛川ゆず希はグラビアアイドルでは生計が立てられなくて経済的に成り立つことを条件にプロレスに参入した。またアメリカのAEWで活躍する志田光は元々女優で、プロレス入りのきっかけは本人主演のプロレス映画である。)
コロナ以前の我闘雲舞もそういう団体だったらしい。
また、「プロレスでハッピー」をキャッチコピーに掲げるアイスリボンなどを見ると、キクというレスラーがいたりする。2児の母で子供がプロレスクラブに通うのを見て自分も興味を持ってアイスリボンの門戸を叩いた40代半ばの母親である。(彼女の試合もアイスリボンの公式youtubeチャンネルに存在する)
そういう思わず応援したくなるセカンドキャリア達が挑む過酷できらびやかなステージ、今の女子プロにはそういう側面がある。
(更に掘り下げると、志田光もアイスリボンも我闘雲舞もチョコプロも、「さくらえみ」という現在AEW参戦中の40代の女子プロレスラーに集約するのだけど、この話についてはルルペンシルがその関係者に直接取材した話をnoteに上げてたりするのでウィキペディアと併せてそちらを見るほうが詳しいかと)
とにかく、今の女子プロレスは肯定感が強いのである。
そういうものの中に直接飛び込んで、しかも確かな筆力で言語化されてしまうと、それに勝ることが「外野からのフィクション」でできるのだろうか、と思ってしまうのである。
もはやただの悪天候でフライト見合わせではない。相手は渦を巻いている。
どう離陸したものか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます