4回(実質2回目) 娯楽としての鑑賞と創作のための観察の差。

 過去3回中2回が欠番になるという自分でも驚愕の展開になっているこのエッセイ連載。


 だって暇があるとSNS見ちゃうじゃないですか。

 インスタやtiktokはいいとして、ツイッター見てると色々考えますよ。

 特にtweetdeck使って時系列通りにツイートが流れてくるようにしてると、中立な素振りでポジショントークバッキバキなリツイートとかバンバン流れてくるんですよ。

 可愛い絵だけが流れてくるリストを作ったはずが、気がつけば幾原改名問題とか月曜のたわわ騒動とか「知らんがな」って言い切りたいような話題が強烈な主観や扇動を伴ってゴリゴリ流れてくる地獄が形成されてるわけですよ。


 そんな中そういうの一切関係ない癒やしの領域として燦然と輝くのが女子プロレス界隈と動物園界隈。

 時折流れてくるサイン入りポートレートの販売告知は目の保養ですし、大事な試合の前後の選手の感想はどれも胸にぐっとくるものがあります。

 東京女子プロレスであれば、3月26日の天満のどか引退、4月17日の日曜は小橋マリカ卒業で泣きそうなほどエモい事になってるし(団体代表の甲田さんだけは痛い目にあってる)、

 チョコプロは青空の下、デスワーム(UMA軍団)の手を引いて市ヶ谷の坂の下の横断歩道を渡るクリス・ブルックスという「本当にノーDQ(反則裁定ナシ)戦の試合の最中の絵面か」と思うような牧歌的な景色が展開してるんですよ。

 あと動物園の動物はひたすら可愛い。ただただ健やかに生きて欲しい。

 レスラーは怪我のないように闘って欲しい。


 まあそんな状況だったら、そりゃあプロレスに心が吸い寄せられるってもんです。

 そういうわけで私にとって現在最も平和な話題として、プロレスの話をします。


 ただし今回は、プロレスを「鑑賞する視点」ではなく、

「女子プロレス小説を書く」ための「映像資料を読み解く」という視点でのはなし。

 ……結局小説の話です。(現在のキャッチコピー『小説以外の話をしてもいいですか?』はそのうち変えます。)


 このモード切り替えにおいて自分でも驚いたのはまず分析解像度の差。

 なんとなく漫然と見ていた技がすべて所作の連続であり、連携であり、大局的な展開へと通じる意味ある挙動に見えてきます。


 たとえばひたすら腕に痛みが溜まる関節技を繰り返し仕掛けることで、腕の筋力を活かした技を使いにくくするとか、それが時間経過とともに回復し、更に最終的に試合の決定打となる得意技を発動するまでの展開。


 またよく言われる話で「プロレスは台本がある」と聞きます。

 ですが個人的には「クリシェのようなお約束展開(序盤のロックアップという組み合い、腹を蹴られたら蹴りを受け止める形で頭を差し出す所作、リストロックと呼ばれる手首の関節技の取り合い、特定選手の『名物』とされる定番の挙動など)」と「試合の結末」はあるけれど「台本(アクション映画のワンカット長尺の殺陣のような全ての動きが計算ずくで確定したもの)」は無いのではないか、という感触を受けています。

 かわりに「その日の技のセットリスト」のようなものが各選手にはあり、場の流れに応じて、また相手のセットリストの展開に応じて臨機応変なセッションをしつつも、基本的にはセットリストを繰り出し合い、受け止め合い、フィニッシャー(とどめの一撃)を浴びたらきちんと負ける、もしくは受けきった上でフィニッシャーを決めて倒す。

 あるいはこのどこかの過程で、怪我しないうちにきちんとタップアウト(ギブアップ)する。

 といった感じです。


 この観察を初めて最初に気になったのが、各所作が言語化されたもの、つまり、技の名前とその技の作用です。


 そしてプロレスにおけるもう一つの台本、いわゆる『ギミック』と呼ばれる選手間のリング外でのやりとりによるストーリー展開です。

 例えば仲良く食事している様をSNSに上げたり、試合中に突然に裏切ってみたり、SNSでリプバトルをふっかけたり、会見で挑発的な態度を見せたり、SNSに挑発的な動画を送りつけたり、といったものです。


 その他に気になる点といえば、リングの上やSNS上以外の可視化されていない領域です。


 例えば選手によってはジムトレーニングを毎日インスタのストーリーに上げている人もいれば、そういった地道な努力を一切表に出さない選手というのが居ます。

 他にも、怪我の治療、保険加入の有無(プロレスラーにも加入可能な保険は一応存在しますし、プロレスラー向けの保険の手配をする方というのも居るそうです)

 タブー視されているために秘匿傾向にある経済面の実情(例えばコロナ禍でポートレートのオンラインサイン会やグッズのオンライン通販が盛んになっている点などから推察)、

 また、選手による個性的なトレーニングとしてポールダンスを習っている選手がいたりします。(締め上げる技に必要な手足の内側の筋肉や、観客を魅了する所作の習得、或いは単純にギミックとしての集客性など、複合したメリットはあるのだろうと思います)


 そういった事を調べていると、気がつけば「現場に行って鑑賞するタイプの娯楽」であり「チェキやサイン会、グッズ収益」という点で共通性のある『地下アイドルの経済的側面』を調べたり、プロレスの基礎トレーニング、受け身の取り方、ポールダンスの技などについて調べていたりします。


 また、コロナ禍で消失した文化として「観客の声出し」や、

 2020年度のまだコロナ下での興行の形態が定まる前の自粛や無観客試合のオンライン配信といった活路を模索していた時期の状況。

 コロナ以前から廃棄物が増えるからという理由で一部団体では禁止されたり、引退興行など限られた機会に限定されていた「紙テープ投げ」というものがあったり、

 年代によって微妙に異なる衣装の素材とデザインの変化傾向といったものがあったりします。

 

 そういった具合で、現在の私にとって女子プロレスは「ただ試合を見て楽しむもの」から「(執筆において必要最低限の情報を獲得するまで)掘り下げて探るもの」に変わりつつあります。

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