第19話 「…助けてあげてね」

今日は土曜日である。今日の夜は、季節組のお食事がある。


その間。つまり、朝から夕方までは暇である。


家にいると、いつも詩織がくっついてくる。

本当に男嫌いなのかってくらいだ。


でも。これは俺の責任だ。詩織を男嫌いにさせたのも、詩織が俺にデレデレなのも、俺のせいと言っても何も差し支えない。


「なぁ」

「んー?なに?」

「もう少しこっちに来てくれ。」

「ん」


近づいてきた詩織をハグする。

…だいぶ久しぶりに抱き合った気がする。


なんで急に抱きついたのか。それにはしっかりと理由はある。


「…なんか辛いことでもあった?」

「いや。悩み事っていうのかな。良弥って人いたじゃん。凛の元カレ。」

「あぁ、いたねぇ。この前豹変した。」

「その人、色眼病で。」

「色眼病って、あの色眼病?この前言ってたやつ。」


抱きつく力が強くなる。


「そう。あれ。あれの兆候に似たものを持っているクラスメイトがいるんだよね。」

「クラスメイト…あぁ、陽菜さん?」

「そう。よくわかったね。」

「だって、はるくん、学校でそこら辺としか喋らないじゃん。」

「まぁ、そうですけども…。」


少し心が傷ついた。


「それで?その子が病気で倒れそうで不安だから悩んでるって?」

「そうじゃなくて。まぁ、それもあるけどさ。」


そうして俺は少しの覚悟を出し、


かなでみたいにならないか心配で。」


その時、静寂がその場を支配した。

抱きついているから、心臓が激しく動いているのがわかる。


俺だけでない。詩織もまた、奏の“それ”を見てきたのだ。


俺らはまたそれを見てしまうのだろうか。


「…助けてあげてね」


そう呟く詩織の声が聞こえた。


…そうしていくらか抱き合っていると。


「ちょっと〜!無視しないでくれます〜!?」


そんな中学校以来の聞き覚えのある声でハグは終わった。


そしてそこにいたのは。


冬稀凛と柊夏芽と冬稀鈴だった。


「いちゃつくのはいいですけどね?もうちょっと色々弁えてもらえると。」

「はい…。すいませんでした。善処しますから、ぜひお慈悲を…。」


そう、下手に出る。俺は夏芽に強気には出れない。


「ふふ。もう時間なの?」

「あぁ。そろそろ食事の時間だから、凛の妹を春希の家に預けておこうってなってな。」


そう、夏芽は言って、鈴は詩織に飛びついた。


「へへ〜、しおりお姉ちゃんだ!」

「ふふ。今日は二人っきりだね。」


そんな天使二人のやりとりを横目に玄関に向かう。


「行ってくるね。」

そう、詩織と鈴に伝えると、

「はーい。行ってらっしゃい。」

と、返ってきた。

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