第15話 「お姫様抱っこで。」

どうする?とりあえず、運んだ方がいい。


おんぶ…は無理か。

じゃ、これしか無理か。


「軽っ…」


年頃の女の子はこんなに軽いのか?と思いながら、陽菜をお姫様抱っこして保健室にまで奔走した。


保健室に陽菜を連れて行き、ベットに寝かせる。保険の先生に色々聞かれて答える。


今日の授業は終わりなので、もう帰ってもいいよと言われた。


が、(多分)俺のせいなので。と言って、動く気がなかった。


数分後。

保健室にきたのは…西園寺さいおんじ結衣ゆいさんだった。


「なんで春希さんがいるんですか。」

「俺が運んだからだ。」

「あぁ。そうだったんですね。」


結衣さんとは、全く関わりがない。故にこんなに会話が続かない。


でも、この前、カフェで会った、佐野さのはるさんと同一人物なのは知る由はない。


「あぁ、そうだ。」

「…?」

「春希さんって、姉妹がいらっしゃいましたっけ?」

「姉妹?」

「はい。二ヶ月くらい前でしたっけ。佐野春さんって人が、私のアルバイトしてるカフェにきまして。苗字が一緒なのでてっきり姉妹が来たと思ってたんですけど…。」


これは…。すごく悩ましい。


姉妹と言ってもいいが、その時俺とその姉妹が一緒にいることは絶対にないし、別人って言っても…。


きっと顔が似てたって言うだろう。


なんでこの西園寺さんはこんなに鋭いんだ。


そして結局出した答えは。


「いや。俺に姉妹はいないよ。」

「そうですか…。顔は似てたんですよねぇ。」


やっぱり。言いやがった。


「あ、でも、詩織さんと一緒にいて、転校前の学校の人って言ってた気がしますし…。」


お、いいことを思い出したな。よしよし。そのまま勘違いしててくれ…。


「…よし。決めました。今度詩織さんに言って、会おうと思います。」


え。


「まぁ、とりあえず、春希くんは着替えてきたらどうでしょう。ここは私が見ておくので。」

「…おう。それじゃ着替えてくるから。見といてくれ。」

「はい。…あ、マスク。してくださいね?」

「あ、忘れてた。ありがとな。」


そして俺は着替えるために保健室を後にした。


◆◇◆◇


「…あの顔はどういった顔なのでしょう。嘘…を言っているような感じはしませんし。」


私は保健室の時計の針が刻む音だけ聞いていた。


「佐野春さん、可愛い顔してたなぁ…あれが妹だったらよかったのに。」


なんて、誰も聞いていないと思うので愚痴を溢す。


数分後、陽菜さんはあっさり目を覚ました。


◆◇◆◇


「本当になんで倒れたかわからない…と?」

「…はい。」


私は気づいたら保健室にいたのだ。


春希に運動で突っ張ったと思うふくらはぎを触られるという、半分セクハラ(しょうがないけど)をされて、その後、あの症状がきて。


耐えられなかった。今も喉が少し痛い。違和感もある。やっぱり、なんか変な病気とか?


その時、一ヶ月前のウイルス騒動を思いだした。


「どうしたんですか?そんな不安そうな顔して。」

「いや。なんでもないよ。ありがとね。…というか、ここまで運んでくれたのは誰?」

「春希くんだよ。」


保健室の先生が言う。


「なんかだいぶ焦ってたらしく、走ってきたよ?お姫様抱っこで。」

「え?」


ここまで走ってきた?

お姫様抱っこで?


恥ずかしすぎて、顔を隠した。

あいつマジで…。


次会った時、殴ろう。

そう心に誓った。

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