第1章 アルデバラン

第13話 『神無月』

俺、佐野春樹は現在、あの先輩のことに考えていた。

そう。あの神無月李乃先輩である。


あの先輩は自分で放火の犯人だと言った。それはなぜか?


考えたってきっとわからない。彼女の思考回路は今までも分からなかった。


でも、謎に適当な場所で改行してる手紙。

残していった媚薬という名の謎の薬。

そこに書いてあるSTAR connectという謎の企業名。


そんな点で繋いでもねじれの位置にあるとしか思えない状況。俺の思考回路はそこで錆びて止まってしまっていた。


が。とある一言で一変する。


「…あれ。それまだ持ってたんだね。」


と、同居人の沖田詩織に言われる。

ちなみにもう住んで一ヶ月が経っているため、この家に女の子がいることは不自然でもなんでもない。


詩織は“それ”を掴んで、中身を出して読み始めた。


「ん…?あぁ。先輩がいなくなったから。しかもどっかに行ったのか渡し損ねてるし。」

「その先輩てあれでしょ?化学部で何でもかんでも錬成してた…。」

「そう。そいつ。」

「神無月先輩だっけ。数奇だよねぇ。私も糞親父がいた頃は苗字が神無月だっけ。」

「…へぇ。」


刹那。


「…え?」


一瞬にして思考回路が回り出した。


「詩織のお父さんって確か…何かの研究してなかったか?」

「あぁ…そういえばなんか…ウイルスの研究をしてた気がする。」


ということは。突飛な話になるけど。


李乃先輩の親父は昔の詩織のお父さんで。そいつは今でもウイルスの実験をしていて。それをやめさせるために。


放火を…?


いや。決めつけで話をするのは良くない。


「…その李乃先輩て、この前のさ、上本町の実験施設に放火したっていう…人だよね?」

「あぁ。しかも神無月。詩織の元父親なのだとしたら…」

「ウイルスの研究をしてて、娘に研究所ごと放火されたってこと?…流石になくない?」

「まぁかなり突飛な話になるし。ないだろうなぁ。」


あんなに変なことばかりしている先輩が親父に恨みを持っていて、研究所まで放火しにいくのは考えにくい。


「てか。この前電話したんでしょ。手紙見る限り。電話してみればいいじゃん。」


…本当じゃん。なんで本人に聞くってことができなかったのだろう。


そして、媚薬の裏にあるSTAR connectの電話番号にかける。


どういうことだよ、媚薬の裏にある電話番号って。とか思いながら、ぴぴぴぴぴという機械的な音を聞いていた。


そして数コールした後。


『はいこちら、医療先端技術研究所、ウイルス研究所です。』


と無機質な機械的音声が響いた。


『本日のご用件はなんでしょうか。』


と引き続く機械音声。


咄嗟に俺は。

「STAR connectについて聞きたくて…」


といった。


『STAR connectは神無月かんなづきいつき先生考案のウイルス対策のための応用ワクチンです。今までのウイルスに対抗するだけでなく、これから出てくる新しいウイルスにも対抗するための応用抗体を作り出し、人間の免疫力を高めます。』


ということはこの『媚薬』というのはその中の一種なのかな。


だとしても媚薬…って。


「…媚薬」

そう小声でいうと。


『そちらは機密情報ですのでお伝えすることはできません。』


と言われた。


そして切られた。どういうことなのか。


きっと機密情報を知っている李乃先輩は怪しい。でも。なぜ機密情報なのか。


STAR connectとはなぜ作られてそして娘に放火されるまで至ったのだろう。


それをまだ俺らは何も知らない。


そしてそれがこれから大きな事件に発展するのも…。


◆◇◆◇


「はぁはぁ…、んっ、ぁはぁはぁ。」


苦しくて声が出ない。何か体がおかしい感じがあった。


事あるごとに頭が痛いし。胃の辺りに何かある感じが不快だ。


でもそれを吐き出したくはない。何か変なものを食べたか思い返しても、そんな変なもの食べた記憶はない。


そしてついに吐き気が限界を超え、吐きたくなり、トイレに向かってそれを吐き出す。


吐瀉物を見たくはないので目を閉じていたのに。匂いでわかって…わかって?

…わからない?


吐瀉物の特徴的な匂いはしない。


何かおかしい。そして私は目を開け、その光景に驚きと「え」という声を残す。


だってそこに浮いていたのは無数の…


『花』だったのだから。

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