第3話 「一緒に寝れば解決じゃない?」

「…え…まさか…はるくんなの…?」

「あぁ。本当だよ。」


そう言った。


すると詩織は、

「はるくん…!」


と、声が上擦り、俯いた。少しした後、近くに来て、俺の体に顔を押し込めてきた。


俺もそっとしておいた方がいいと思い、頭に手を置き、時が刻まれる音を聴いていた。


少しした後。詩織は顔を離した。目元は少し赤かった。


「もう、大丈夫なの?」

「…うん。いいよ。」


さて。どうしたもんか。これから、詩織と二人で過ごさなきゃいけない。


「…どうしたもんかねぇ…」


そう、ぼやいた時だった。


「大丈夫だよ、わたし…。はるくんなら嫌いじゃないから…だから…!」

「うん、わかってるよ。」


そんなこと言わせちゃいけない。


「しおちゃん。大丈夫。俺はそんなことしないし、嫌いじゃないから。だから、安心して?」

「うん…!」

「…とりあえず…お風呂入ってきて?」


詩織の表情はいろんな感情で混ざりあった表情だった。


「…うん…でも…着替え…は?」

「着替えは…何か荷物持ってきてないの?」


そういうと、詩織は隅にあった見覚えのない鞄を指差す。


「それをお母さんが置いていったの。中身はわからないけど…」

「じゃ、先にそっちの荷物整理するか。」


そんなこんなで。忙しない初日は始まった。


さっき、顔を埋めていた詩織だが、涙は出てないらしい。目元は赤かったのに。


そして夕食の用意に入る。買い物をしていないので、ちょっとシンプルだが。これしかないのだ。あのくそ親父め。何が大事な話があるだ。ふざけんな。


そして、かわいい寝巻き姿の詩織が出てきて、俺もお風呂に入り、夕食を食べる。パスタ。


「ごちそうさまでした。」

「お粗末様でした。」


そして。


星が光り輝く時間はまだ続くが、人間の活動時間としてはもう終わろうとしていた。

時刻は時計の針が真上に揃うちょっと前。


「で…どこで寝るかだ。」

「布団はあるんでしょ?」

「あるにはあるんだが…正直、一つしかないといっても過言じゃない。」

「…なんで?」

「親父が使っていたやつは煙草の煙をたっぷり吸ってるんだ。正直使うわけにはいかないので…。」


そう。親父は、部屋の中でもお構いなしに煙草を吸う。最近やめたと言っても、いなくなる今日の三日前の話である。


いつか、洗うか…。


「しおちゃん。俺の部屋で寝るか?」

「えっ?はるくんは?」

「床で寝る。」


流石にあの煙草布団で寝たくはない。


「…一緒に寝れば解決じゃない?」

「え?」


何度かやめようとは言ったのだが、梃子てこでも動かない気がしたので、渋々了承し、一緒に寝ることに。


俺だって年頃の男の子である。気にするものも気にするのだ。


そして、一緒の布団に体を寄せ合って、寝る。暑さと匂いと血が速く流れる感覚で寝れる気がしない。


その時だった。


「起きてる?」


と。


「起きてるよ。」


と返事をする。


「あのさ。私ね、今日学校でああいうこと言ったの後悔してるの。」

「…なんで?」

「…わたしさ、本当は女子高に入る予定だったんだ、でも、お母さんが、過去の嫌なことから目を背けるなって言って。こっちに転校になったんだよね。」

「うん。」


こちらも、付き合っていることも、新婚旅行に行くことも聞かされていないようだ。


つくづくやべー親たちだ。


「それで…わたし…男の人あんまり…。」


そこで力なく吐き出す声が押し止められた。


「うん。大丈夫だよ。しおちゃんの進みたい速度でいいから。ゆっくりでもなくたっていい。少しずつでもいいよ。一緒に慣れていこ?」


彼女の返答は小さな頷きだった。

…俺も慣れなきゃいけないな。

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