第2話 「私は男が大嫌いです」

「皆さんはじめまして。沖田おきた詩織しおりです。よろしくお願いします。」


と、早口で言った。昔からの恥ずかしがりは変わっていないらしい。


「それと…」


と、詩織は続ける。


「私は男が大嫌いです。なので、話しかけないでもらいたいです。」


そう言ったとき、ここの教室が凍りついていくのがわかった。


前言撤回だ。俺が知ってる幼馴染じゃない。


そして、詩織は何事もないかのように、空いた端の席に座った。


俺はこれを聞いた時、正直、詩織はいじめを受けてしまうんじゃないかと危惧した。だって、喧嘩をふっかけたのと同じじゃないか。あんなの。


でも、それは昼の時間にいじめなんか起きないとわかった。なぜかって?それは…。


「今日きた転校生って誰だっけ?」

「詩織だっけか。かなりの美人だったよな〜。」

「正直、本気まじで彼女候補だわ。」

「いやいや。やめた方がいいって。」

「そうだよ。あんな理想すぎるのと付き合ったら、次に付き合う奴探すのに一生使うって。」

「そうかぁ〜?」

「そうだよ。今日、話しかけに行ったやつなんか『やめて。話したくなんてないから』って言われていたし。」

「ああいう女の子を自分しか見えないようにさせるのが楽しんじゃないの?」

「それは気持ち悪いわ。」

「え、ひくわー」

「え、きしょ」

「全否定かよ!?」


と、男ども特有の誰と付き合いたいか、そして何をしたいかという馬鹿話をしていたからだ。

女子たちにはかなり気軽に関わっているらしい。甲高い女の子特有の笑い声が聞こえる。


まぁ、特に悪印象を与えていないなら大丈夫だろうと思った。


え?俺は何をしていたのかだって?


俺は、とある先生に用があるから、さっさと昼飯を食べたんだよ。その時、男子たちがたむろっている部屋から聞こえたことだ。女子の方は飯食って廊下を歩いている時だ。


ちなみにこの学校、男子より、女子の方が圧倒的に数が多く、男子は肩身は狭い。


まぁ、そんなものは俺は全然気にしないのだが。


そんなこんなで放課後である。多くの生徒が帰る中、俺はまだ、帰れずにいた。


まぁ、帰りたくないが本音だ。


親父は今、付き合っている人がいるらしい。俺がそのことを知っているのをを親父は知らない。

だから、気を使おうとこうやって学校で勉強をしている。


正直、応援したい気持ちもある。でも、昔のあのことがずっと脳にこびりついて離れない。家族を裏切った母親あいつの顔が。だから、そんな裏切りをされるなら、恋愛なんてしてほしくない。そう思っている。もちろん親父の恋路にも俺自身の恋路にも。


っと。そろそろ六時を回りそうなので帰る準備をする。


この学校は、校内での携帯電話の使用は禁止されている。ほんと無駄でめんどくさい校則だ。


そして、親父に電話する。


「もしもし?親父、これから、買い物に行くんだけどなんかほしいものとか…」

「春希。話したいことがあるんだ。真っ直ぐ返ってきてくれないか?」


こんなに礼儀正しい親父は初めてかもしれない。


そして、なるべく速く帰ってきた。


「ただいま…親父。それで話…って…。」


それを見て、俺は疑った。目の前の情景に。

扉を開け、一度外に戻る。そして、深呼吸して、もう一度入る。


が、情景は全く変わっていなかった。


椅子に座っている、沖田詩織。「何してんの?」なんて聞こえたが、そんなことはどうでもいい。その横に一通の手紙が置いてあったので読んでみる。


そして。読んだ後。なんて余計なことをしてくれたと怒りが湧いた。


内容はこうだ。


俺の親父と、詩織の母親は遠距離で恋愛をしていた。そして、結婚をしようとなったが、どっちも子供がいるから、同じところに住ませ、二人で新婚旅行に向かうと。だから、詩織を俺と同じ高校に編入させ、同じ家に住まわすと。


なんて勝手なことを…。と思った。


「本当に勝手ですよね…。はぁ…信じらんない。連れ子の年と性別くらい確認しとけっての…」

「そ…そうだな。」


ここで、違和感に気づいた。きっと俺のことを覚えてないと。


「今日の朝聞いたと思うけど。わたしは男なんか信じる気なんてないから。」

「…なぁ、しおちゃん。俺のこと覚えてないのか…?」


そう言って、眼鏡を外し、髪をかき上げる。昔は髪は結構短かったし、眼鏡なんかつけてなかったので、昔の顔に近づければ分かると思った。


「…え…まさか…はるくんなの…?」


ようやく気づいたらしい。

え、俺ってそんな顔変わったのか?

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