第7話 ホント、一貫して二次元オタクだよね

「私のせいだよね……」


 二人が口論している様子を見ながら私は呟いた。


 私が割って入らずに、VTuber 小春日こはるびルミナとの仲を更に深めていったら、洞夜とうやはリアルでも瑠衣歌るいかちゃんと仲良くなって。

 

 それで、二人は幸せになって……

 

 そんな未来を私は壊した。

 

 私が我慢すれば、終わっていた話。


 でも、ゴメンね、瑠衣歌ちゃん。

 これが最後だから。


 VTuberをしてもダメだったら、諦めるから……


 私は罪悪感を感じながらも、そう突き進む決意をした。


「瑠衣歌、なんで急に怒り出したんだろうな?」


 ……そして、何も分かっていない人がここに。


 やっぱり、私が割って入らなくても同じだったかも。

 瑠衣歌ちゃんも私も、とんでもない人を好きになっちゃったみたいだね。


「自分の胸に手を当てて考えてみたら?」


 私がそう言うと、洞夜が素直に胸に手を当てているが、よく分からないと首をかしげている。


「まあ、考えても分からなさそうだから、また本人に聞いてみるよ。取り敢えず、今は癒貴音のVTuberキャラを作らないといけないしね」


「ホント、一貫して二次元オタクだよね。洞夜は……」


「褒めてくれてるの?」


「褒めてない!」


 思わず、私はそうツッコんだ。

 


 その後も、二時間くらいキャラクター設定について話し合ったが、それ以外には特に何の進展もなかった。


「あー、瑠衣歌ちゃんが怒る気持ち、分かるわーー」


 私は神代かみしろ家を後にしながら、そうぼやいた。 


 ◇


「あれから一ヶ月、チャンネル登録者数もだいぶ増えてきたみたいだね」


「お陰様で」


 私のVTuberのキャラは一週間ほどで完成した。 

 VTuber 千冬星ちとせユキとして活動を始めた私は、少しずつチャンネル登録者数を伸ばしていた。


「それにしても、苦労して作ったキャラが注目されるというのは、何回体験してもいいよね!」


「まだ、注目されてるというほどの人数ではない気はするけど……。でも、特定の人がファンになって、毎回見に来てくれるのは嬉しいかも」


「やっぱり、みんなそう思うんだね。僕もVTuberはしたことないけど、イラストをWebに投稿した時に、コメントを毎回くれる人とかいると嬉しいもんな」


 本当は洞夜が毎回見に来てくれてるのが嬉しいんだけど。


 ……瑠衣歌ちゃんも洞夜が見に来てくれて、嬉しかったんだろうなぁ。


 二人の関係はあの時の口論から改善されずに止まっている。


 恋のライバルとしては喜ぶべきなんだよね……


 もちろん、瑠衣歌ちゃんは恋のライバルだ。

 だけど、同時に一番腹を割って話せる昔からの親友でもある。

 

 なので、不仲が続いているという話を洞夜から聞くと、正直その度に私の心はモヤモヤした。


「私のこともいいんだけど、瑠衣歌ちゃんとは仲直りできたの?」

 

「うーん、配信では元気そうにしてるんだけど……」


「その様子だと、仲直りできてないみたいだね」


「まあ、癒貴音にはぶっちゃけるけど、そんな感じです。……どうしたらいいと思う?」


 その原因の一端は私だし、ここは二人のために、ひと肌脱いであげてもいいかな。


「そうだね、瑠衣歌ちゃんは寂しいんだと思うよ」


「寂しい? 瑠衣歌が?」


「洞夜がハマってるVTuberは小春日ルミナだけだったから、その気持ちが私のVTuberと分担されるのが嫌だったんだよ」


「なるほど、確かにマイナーな推しキャラが主人公といい感じになっている時に、ヒロインが出てくると嫌な気持ちになるもんな」


「……その例えはどうかと思うけど、その嫌な気持ちを私にはぶつけられなかったから、代わりに言いやすい洞夜にぶつけたんだと思う」


「そっか、ありがとう、何となく分かったよ。寂しいなら、寂しいって言ってくれればいいのにな」


 これ、たぶん分かってないよね……

 

 まあ、これ以上恋のライバルの後押しをするわけにはいかないし、私が伝えられるのはこれくらいかな。


 私は、そう思うことにした。

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