第8話 今までずっと秘めてきた想いをこんなタイミングで言っちゃうなんて

 コンコンコン!


 僕は瑠衣歌るいかの部屋のドアをノックした。


「瑠衣歌、いるのか?」


「いるよ……」


 瑠衣歌は元気のない声で返事をした。


「こないだは、ゴメンな。瑠衣歌の気持ちが分かってなかったよ」


 僕は敢えて入らずに、ドア越しで話を始めた。


「私の気持ち?」


「(小春日こはるびルミナの中の人が瑠衣歌だと知っているという)理由は言えないけど、僕が癒貴音ゆきねのVTuberにもハマるんじゃないかってことが、寂しかったんだろ?」


「……うん、そうかも」


 やっぱりそうだったのか。

 

「僕は二次元オタクで、人の気持ちがなかなか分からない人間だけど。瑠衣歌のことを家族として大切に思っている気持ちは本物だから。それだけは伝えておきたいと思って」


「そっか……。わざわざ伝えに来てくれて、ありがとう。お兄ちゃん」


「ああ、こっちこそ話を聞いてくれて、ありがとな」


 これで、少しでも元気になってくれるといいんだけど……


 そう胸中で呟きながら、僕は瑠衣歌の部屋の前をあとにした。


 ◇


「え、なになに!? どうしちゃったの、お兄ちゃん?! 今朝まで会話もできない雰囲気だったのに、やっぱり、私のこと好きなの!!」


 お兄ちゃんとの会話を終えた後、私はベッドの上で悶絶もんぜつしていた。


「あ、でも、家族として大切に想ってるってことだよね。それは、それで微妙なのか……」


 まあ、それでも、お兄ちゃんとまた話ができるのであれば、まずはそれでいいよね。

 

 私は久しぶりにルンルンとした気持ちで、小春日ルミナのゲーム実況の配信を始めた。


「みんな集まってくれてありがとう!! 今日も前回の続きで、ゲーム実況をしていきたいと思います!」


赤鬼『ん? ルミナちゃん、今日は元気だね。最近、調子悪そうだったのに』

ムカキン『何かいいことあった?』


 配信を始めると、さっそくチャットコメントへの書き込みが始まった。


「あ、赤鬼さん、ムカキンさん、分かっちゃいました? 今日はプライベートでちょっといいことがあって」


 声のトーンで気分がいいことが分かってしまったようだ。


トウヤ『え、いいことって何?』

 

サラ『なになに? ルミナたん何があったの? 凄く気になるんだけど』


「トウヤ兄ちゃん、サラさん、今日も来てくれたんですね。ありがとうございます」


 そのいいことは、お兄ちゃんとのことなんだけどね。


タガリ『彼氏といいことでもあったの?』


「え? 彼氏はまだいないけど……」


タガリ『まだってことは、もしかして、好きな人はいるの?』


「……好きな人はいます」


トウヤ『そうなの?! 好きな人がいるとか初耳なんだけど……』


 あれ、お兄ちゃん、小春日ルミナに好きな人がいて、ショック受けてるっぽくない?


 このままだと、いつか小春日ルミナの前世(中の人)が私だとお兄ちゃんに伝えた時に、違う人が好きだと誤解されてしまうよね。

 

 私の好きな人は、お兄ちゃんなのに……


赤鬼『ファン一号のトウヤ君が知らないってことは、もしかしてルミナちゃんの初告白!!』


「あ、あ、ごめんなさい、つい口が滑ってしまいました……」


 なんか今日はおかしい。


 お兄ちゃんと仲直りできたからなのか、テンションが上がってしまっていて、いつものようなトークができない。


トウヤ『まあ、言いたくないなら、無理に言わなくてもいいよ』


タガリ『え、俺は気になるんだけど、好きな人って誰なの?』

赤鬼『私もちょっと気になるかも』

貞夫『気にならないと言えば嘘になるな』


 今まで見たことがない早さで、チャットコメントが書き込まれていく。

 

 どうしよう、どうしよう。

 何か答えないといけないよね。


「……トウヤ兄ちゃんです」


 あーーーーーー!!


 何言ってるんだろう、私、今までずっと秘めてきた想いをこんなタイミングで言っちゃうなんて……


 でも、ここまできたら、後には引けない、全力で伝えるしかない。


「私が好きな人は、トウヤ兄ちゃんです!!」

 

 私は本気の告白をした。

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