第6話 お兄ちゃんのバカ!!

「何かあったのか? 瑠衣歌るいかが僕の部屋に来るなんて珍しいし」


 私じゃなくて、お兄ちゃんに何かあったんじゃないかと思って焦ったんだけど……

 

 さっきまで不機嫌だったのに、私の心配をしてくれるとか、ホントお兄ちゃんって優しい。

 

「ゆき姉が珍しく来てるなぁと思って」


 大学生の男女が部屋で二人きりとか、何が起こっても不思議じゃない。

 お兄ちゃんの様子を見る限りでは、何もなさそうだが。


「ああ、それで、急いで来たのか。瑠衣歌は癒貴音ゆきねに会うの久しぶりだもんな」


 ふふ、やっぱり、お兄ちゃんは何も分かっていないし、何もなかったようだ。


 少し安心する。


 じゃあ、ここはお兄ちゃんの話に合わせておこうかな。


「うん、ゆき姉、久しぶり」


「久しぶり、瑠衣歌ちゃん」


 ゆき姉は私を微笑ほほえましそうに見ている。

 

 ……さすがに、ゆき姉にはバレてるか。


 ゆき姉は私もお兄ちゃんのことが好きだと知っている。

 だから、私が焦って部屋に来た理由も分かっているに違いない。


「それで、どうしてゆき姉がお兄ちゃんの部屋にいるの?」


「癒貴音がVTuberをしてみたいらしくて、僕がそのキャラを描くことになったんだよ」


「ゆき姉がVTuber!?」


 驚いて、ゆき姉の方を見ると、手を合わせてごめんなさいのポーズをしている。


 それって、私がVTuber 小春日(こはるび)ルミナだってことが、ゆき姉にはバレちゃったってことだよね。

 それでVTuberになる相談をお兄ちゃんにして、今にいたると……


 私は瞬時に状況を理解した。 


 二次元オタクのお兄ちゃんとどうしたら近づけるか、二人で一緒に悩んでいたから、ゆき姉の気持ちは分かる。

 でも、ゆき姉までVTuberを始めたら、ルミナとしてはお兄ちゃんを独占できていたのに、その位置がおびやかされるのは間違いない。

 

「でも、ゆき姉はVTuberにあんまり向いてないんじゃないかな……」


「どうしたんだ瑠衣歌、突然。そんなことやってみないと分からないよな?」


 その反応を見る限り、お兄ちゃんはゆき姉がVTuberをすることに賛成のようだ。


「だって、VTuberにハマってる人は、お兄ちゃんみたいなオタクが多いよ。ゆき姉、そういうの詳しくないよね」


「確かにハマっている人は僕みたいなオタクが多いかもしれないけど、色々なコンテンツがあるから、それ以外の人だって見るだろ? それに向いてるとか向いてないとかは最終的には本人が決めることだし、それほど気にしなくてもいいんじゃないか?」


 やっぱり、お兄ちゃんはゆき姉にVTuberをして欲しいんだ……

 

 なんで、ゆき姉にVTuberをして欲しいの?

 ルミナだけじゃダメなの?


「お兄ちゃんは、ルミナだけのファンだったんじゃないの? やっぱり、他のVTuberにも興味があるんだ」


「ん、なんでそこでルミナの話が出てくるんだ? 関係なくない? 癒貴音がやりたいって言ってるんだから、幼馴染として応援したいっていう話で」


 どうして……

 どうして分かってくれないの?


 私はただ。


「もういい」


 ダメ!


「え?」


 言ったらダメ!!


「お兄ちゃんのバカ!!」


 私は心の声とは裏腹に、気がつくと大声でそう言い放っていた。


 バン!!


 私は勢いよくドアを閉めて、自分の部屋に戻った。

 そして、そのままベッドに倒れ込む。


「やってしまった、やってしまった、やってしまった」


 今更、後悔しても遅い。

 また、ムキになって暴走してしまった。


「なんでいつもこうなっちゃうんだろう」


 兄妹として仲良くするだけなら、きっとこうはならない。



 お兄ちゃんと恋人になりたいと願わなければ……

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