第5話 まさか、お兄ちゃんの部屋に二人でいるの!?

「じゃあ、これから家で話し合おっか」


「え、洞夜とうやの家に行っていいの?!」


 癒貴音ゆきねが何故か驚いた表情をしている。


「ん、昔からよく来てたよね? そばにいてほしいんだけど……」


「そ、そばにいてほしい?!」


 更に、驚かれてしまった。


 まあ、僕のオタク部屋に来たくないんだろうけど、キャラクターを描く時に癒貴音の意見も聞きたいしなぁ。


「ダメかな?」


 そんなに嫌なら諦めるしかない。


「い、行かせていただきます……」


「ほんと! ありがとう!!」


 よし、これで癒貴音モデルのVTuberの完成度を上げることができるぞ!!


 僕はそう心の中で叫びながら、小さくガッツポーズをした。



「お、お邪魔します」


「なに改まって? 昔はズカズカと入って来てたのに」


「昔と今では違うの!」


「そうなの?」


 よく分からないけど、まあいいや。

 そのまま、二階にある僕の部屋へと移動した。


 ガチャ!


「わあ、見事な(オタク)部屋だね!」


 部屋に入った癒貴音の第一声。


「そう、マイナーなキャラを好きになることが多くてさ、集めるのに苦労したよ。昔から好きだった宇秋うしゅうカガミのフィギュアなんて、なかなか手に入らなかったし」


 部屋中に飾ってあるポスターやフィギュアを、幼馴染に久しぶりに見せることが出来て、僕は思わず興奮して語ってしまった。


「へえー、そうなんだーー」


 癒貴音の声のトーンが、何故か棒読みなのは気になるが。

 

 まあ、それはそれとして。


瑠衣歌るいかからは妹系のキャラクターを描いて欲しいって頼まれたんだけど、癒貴音は何系のキャラクターを描いて欲しいの?」


「うーん、やっぱり、私は幼馴染系のVTuberがいいかな」


「幼馴染系ね、了解。あとは、癒貴音に似たキャラがいいか、全く別のキャラがいいかなんだけど、どっちがいい?」


「……じゃあ、私に似たキャラクターの方でお願いします」


 癒貴音は少し恥ずかしそうに答えた。


「うん、僕もその方が描きやすいかな」


 言質げんちいただきました!


 フフフ、それでは、遠慮なく癒貴音VTuberの封印を解かせていただきますぜ。


「……不気味な笑みが気になるんだけど、何かよからぬこととか考えてないよね」


「い、いや、そんなことは全く考えておりませぬぞ」


「怪しいなぁ、なんか口調もおかしくなってるし」


「えーと、あとは細かいことなんだけど……」

  

 ジト目で僕を見ている癒貴音の疑いの目を逸らすため、僕は更に細かいキャラ設定の打ち合わせを始めた。


 ◇


「あれ、この靴、女性用の靴だよね」


 もしかして、ゆき姉?


 ……まさか、お兄ちゃんの部屋に二人でいるの!?

 

 気がつくと私はお兄ちゃんの部屋に向かって駆け出していた。


 ドン!ドン!ドン!


 私は部屋のドアを力強くノックした。


 ガチャ!


「何だよ、もう少し静かにノックしてくれよ……」


 中からお兄ちゃんが出て来た。

 激しくノックしたので不機嫌そうな顔をしている。


 ゆき姉は部屋の床に、普通に座っていた。


 よかった。

 何か特別なことをしていたわけではなさそうだ。


 私は力が抜けて、へたへたとその場に崩れ落ちた。

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