第4話 10年以上好きだった気持ちは、そう簡単には消えないらしい

瑠衣歌るいかちゃんがVTuberになってたなんてね」


 洞夜とうやとの会話を思い出しながら、私はベッドの上で物思いにふけっていた。


 VTuberになって洞夜に近づこうとするなんて、私では一生思いつかなかった方法だ。


 なんだか瑠衣歌ちゃんに負けたような気持ちになってしまった。

 

 私が高校の卒業式で告白する前までは、洞夜をどうやったら二次元の世界から連れ戻せるんだろうかという話を、瑠衣歌ちゃんとよくしていた。


「高校の卒業式で気持ちが高ぶって、思わず洞夜に先に告白してしまってからは、ばつが悪くてあまり会ってはいなかったけど……」


 会っていなかった間も、瑠衣歌ちゃんは変わらずに洞夜のことを想い続けていたんだね。



 洞夜と初めて会ったのは、小学生一年生の頃。

 私の家族は小学生になるタイミングで団地に引っ越して来たんだけど、隣に住んでいたのが洞夜の家族だった。


 当時の私は引っ込み思案じあんな性格で、小学校で友達が上手く作れなかった。

 時にはその性格がわざわいして、クラスの子からいじめられそうになったこともあった。


 でも、そんな時は必ず幼馴染の洞夜が私のことを助けてくれて……


 それが本当に嬉しかったから、気づいた時には洞夜のことを、私は大好きになってしまっていた。


 それなのに、まさかマンガやアニメの主人公の台詞セリフを使うことにハマっていただけだったなんてね。


 ただの二次元オタクだったとは知らずに、私は洞夜に心底惚れてしまった。

 洞夜に見合う女の子になろうと一生懸命に努力して、男子から頻繁に告白されるようにもなったから、ようやく自信を持てるようになったのに。


 洞夜が望む女の子に私はなれなかった。

 というより、努力の方向性が最初から完全に間違っていた。


 でも、結果的に、洞夜のお陰で自分に自信が持てるようになったんだよね。

 

 あんな二次元オタクのことなんか忘れて、次の恋に行けばいいとは思う。

 もう昔の私ではなく、男性からもモテてるようになったのだから。


 でも、十年以上好きだった気持ちは、そう簡単には消えないらしい。


「よし、決めた! 最後にVTuberをしてみて、それでダメだったら、きっぱりと諦める!」


 私はそう決意した。


 ◇


「え、癒貴音もVTuberをしてみたいの?」


 急にどうしたんだろう?


 大学の講義が終わって一緒に帰っていると、突然、癒貴音からVTuberをしてみたいと相談をされた。


「うん、でも、VTuberのことよく分からないから、洞夜も手伝ってくれないかな。VTuber用のキャラクターも描いて欲しいし……」


「別にいいけど、キャラは僕が描いていいの? ネットでVTuberを描いてくれる人に依頼すれば、もっと上手く描いてくれる人もいるけど?」


 僕なら無料で描けるけど、お金さえ出せば、もっと上手く描いてくれる人はたくさんいる。


「ううん、洞夜に描いて欲しい」


「そ、そっか、まあ癒貴音がそう言うなら」


 実は癒貴音のVTuber用のキャラは練習で何度か描いたことがある。


 癒貴音に軽蔑けいべつされそうな気がしたから、表には出していなかったんだけど。

 お蔵入りさせるしかないと思っていた癒貴音モデルのVTuberを、まさか表舞台に出せる日が来るなんて。


 平静を装いながら、僕は心の中で歓喜していた。

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