第3話 幼馴染のVTuberとか見てみたいに決まっている

「――ということが判明したんだ」


 同じ大学に向かっている通学中、ハマってるVTuber小春日こはるびルミナの前世(中の人)が、瑠衣歌るいかだったということを癒貴音ゆきねと共有した。


「で、一年半前に幼馴染を振った洞夜とうやは、私からどんな答えを聞きたいわけ?」


 高校の卒業式の後、僕は癒貴音から告白された。


 幼馴染の鬼城きじょう癒貴音は、穏和おんわな性格で、リアルでもモテる可愛い顔をしているらしい(自分は毎日見ていたので気がつかなかったが友人が教えてくれた)。


 そんな癒貴音が、僕のことを好きだったなんて、今でも信じられないのだが――


「ま、まだ根に持ってるのか」


「ご、ごめん、今は二次元の恋愛にしか興味がないんだ。だったかな?」


 告白を断った時の台詞セリフを真似された。

 

「うっ、あれは、癒貴音に魅力がないとかじゃなくて、あの時は本当にそう思ってたから」


 必死に弁明する。


「洞夜らしいといえば洞夜らしい返事だったけどね。最近は、VTuberにハマってたから、昔よりは少し前進したのかなぁって思ってたんだけど……。まさか、ルミナの正体が瑠衣歌ちゃんだったなんてね」


「そうなんだよ、僕もビックリしてさ。これは癒貴音に相談するしかないと思ったんだよね」


「まあ、相談くらいは乗るけど。……そんな手があったなんてね」


「え、何か言った?」


「ううん、独り言」


 小声で聞き取れなかったので、確認をしようとしたが、軽くあしらわれた。


「癒貴音さん、ちょっと怒ってます?」


「そう見える?」


 まあ、告白を断られた話なんて思い出したくはないよな……


「それで、癒貴音なら、瑠衣歌がVTuberになった理由が分かるんじゃないかと思ったんだけど――」


「そうね、私にはその理由がすぐに分かったわ」


「え、ホント? さすが、癒貴音さん、ぜひ、そのお答えご教示きょうじくださいませんか?」


「……どうして、急に敬語。でも、私がその答えを教えるわけにはいかないわ」


「そうなの?」


「って、敬語から戻すの早くない? まあいいけど。そう、それは、洞夜自身が気づくか、瑠衣歌ちゃんから直接聞かないといけないことだと、私は思うから……」


「そっか、癒貴音がそう言うなら、聞かない方がいいんだよな、きっと」


 長い付き合いだからか、時に癒貴音は僕以上に僕のことを分かっていることがある。


「少なくとも私はそう思ってる。……ところで、もし私がVTuberになったら、洞夜が私に惚れ直す可能性ってあるの?」


 ……もしかして、あんな酷い告白の返事をしたのに、まだ僕のことを好きでいてくれてるの?


「惚れるかどうかは別にしても、癒貴音のVTuberは見てみたいかな」


 というか、僕のことを好きだと言ってくれた幼馴染のVTuberとか見てみたいに決まっている。


「ふーん、そうなんだね。そっか、そっか。……だったら、私もやってみようかなぁ」


 癒貴音はそう言って何度かうなずいた後、しばらくの間、独り言を呟いていた。

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