第一章 三人のVTuber

第2話 チャットコメントが恥ずかし過ぎて聞けないな

「あれ? お兄ちゃん、今日はここでルミナの配信を見てたの?」


 リビングで放心状態になっている僕に瑠衣歌るいかが声をかけてきた。


「ああ、たまには、広々としたリビングで見たいと思ったんだけど――」


「な、なに、じっと私の顔を見て……。何かついてる?」


 小春日こはるびルミナの前世(中の人)が瑠衣歌だと思うと不思議な感覚になった。


「あ、別についてないよ。ちょっと考えごとしてて」


「そうなの? それより、どこか調子悪そうだけど大丈夫?」


 身体はどこも悪くないけど、心はひどく動揺している。


「あのさ……」


 瑠衣歌にVTuberを始めた理由を聞きたいと思ったのだが――


トウヤ『ルミナ、今日も最高に可愛いです!!』


トウヤ『ルミナのお陰で人生がんばれてます!!』


トウヤ『ルミナみたいな妹が欲しいです!!』


 ふと、チャットコメントを本名でしていたことを思い出した。

 

 今までのルミナとのやり取りを考えると、恥ずかし過ぎて聞けないな……


「ん、私に何か聞きたいことでもあるの?」


「いや、やっぱ、何でもないや」


「……やっぱり、お兄ちゃん、疲れてるんだよ。部屋で休んだ方がいいんじゃない?」


「ありがとう、そうするよ」


 これ以上、瑠衣歌に心配させても悪いと思い、僕はパソコンを持って部屋に戻った。



 ドサッ!


 僕は倒れ込むようにベッドにうつ伏せになった。


「瑠衣歌の言動を思い返すと、確かに違和感はあったんだよな……」


 漫画やアニメのキャラにハマっていた時は、相変わらずキモイねって言われたのに、ルミナの配信を見ていることを知られた時は――


「……ふーん、そのVTuber好きなの?」


 と聞いてきたので、少し不思議に思っていた。


「ルミナのゲーム実況も、昔一緒にやってたゲームが多かったしなぁ」


 僕がサブカルチャーにハマっているのを嫌ってると思ってたんだけど、いつの間に瑠衣歌も好きになってたんだ?


「まあ、一人で考えていても答えが出るわけじゃないし、明日、癒貴音ゆきねにでも聞いてみるか」


 幼馴染の癒貴音に聞いた方が、答えにたどり着くのが早そうだ。

 そう結論づけた。


 そして、色々あって疲れた脳を休めるため、僕はそのまま眠りについた。


 ◇


「ああ、お兄ちゃん、好き、大好き!! もう、ずっと好き!!」


 最近、お兄ちゃんとあまり話ができていなかったけど、今日は、久しぶりにお兄ちゃんとたくさん話をすることができた。


 話したことを思い出しながら、ベッドの上でお兄ちゃんからもらった抱き枕を強く抱きしめて、何度もゴロゴロする。

 

「それにしても、お兄ちゃんの今日のあの反応は、どういうことだったんだろう?」


 もしかして、小春日ルミナの前世(中の人)が私だって、お兄ちゃんにバレた?


「わ、私は、別にそれでも構わないけど……」


 ゆき姉からお兄ちゃんにフラれた理由を聞いた時、正直、私が告白しても同じ結果になると思った。

 それから考え続けてたどり着いたのが、私から二次元に近づくということだった。


 そこで、私はVTuberになる決意した。

 でも、VTuberの動画の作り方や配信の仕方なんて何も知らなかった。


 だから、一生懸命調べて、動画も苦労したけど何とか頑張って作って投稿して。


「まさか、あそこまでお兄ちゃんがルミナのファンになってくれるとは思わなかったなぁ」


 その甲斐もあってか、お兄ちゃんはルミナの一番のファンになってくれた。

 なるべく、表には出さないようにしていたけど、お兄ちゃんから、チャットコメントをもらう度に、実はテンションが爆上がりしていた。

 

 最初の目標から考えると、予想以上の前進。


「でも、小春日ルミナの中の人が私だと分かったら、お兄ちゃんは、きっとショックを受けるよね」


 正直、お兄ちゃんにバレたとしても、私は構わない。

 だけど、ハマっているルミナの前世(中の人)が、義妹の私だと知ってしまうことは、お兄ちゃんにとっては酷なことだろう。


「やっぱり、バレないようにしないと……」


 それに、VTuber小春日ルミナとしてだけど――



 ……ようやくお兄ちゃんにとって特別な人になれたんだから……

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