間話 花、閃景


──瞬花という、花がある。



それは、ずっと昔に亡くなった異国の花だった。


花の寿命はとても長く、短くとも百年、長ければ数百年の時を超える。しかし開花の時間は数秒、一度咲くと種を残して二度と再び咲くことは無い。


特筆すべきはその花の美しさと希少価値だった。咲いた瞬間、水色をさらに薄めたような透き通る白縹色の花弁が、キラキラと、鉱石のような輝きを示す。花弁は濃紺にその色を変化させたのち、星のような斑紋が玉虫色に陽光を反射して照り映える。そして最後に花は、色素を真っ白に失って花弁から四散する。あたかも、宝石が砕けるかのように。


自然な開花のタイミングは予想できるものではなく、それは言い伝えの類だった。だが、今から二十と数年前に、ひとりの子供がその花が咲くのを見た。



──そのとき彼は、決めたのだ。もう一度、たとえ一生をかけてでも、もう一度、その花を咲かせようと。


誰に願われずとも、彼自身にそう、誓ったのだ。

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