第1話 入籍は突然に

「吉崎様はもちろんのこと、月城様にもご満足いただけるお式にするのが私の仕事ですから、どうかお気になさらず……」


「由華ちゃん」


言葉を遮るように、蒼空は私の名前を呼ぶ。


「こんな形で再会したわけだから、俺に対してこういう対応をするのは仕方のないことだとは思う。だけど、その畏まった敬語はやめてもらえないかな」


「そういうわけには……」


ただの同級生として再会していたならば、私はすぐにでも『蒼空』と呼び掛けているに違いない。


けれど今の私の立場では『月城様』と畏まって呼ぶしかないのだ。


「じゃ、せめて二人の時だけでも」


「二人になることなんてないんですけど」


この仕事をしていて、プランナーが新郎と二人きりで何かをすることなどありえない。


常に新婦様か他のスタッフが付いているのだから。


「じゃあ……これ」


蒼空はジャケットの胸ポケットから一枚の名刺を取り出すと、私の手を取って握らせた。


「俺の連絡先だから。いつでも連絡くれると嬉しい」


突き返すのもなんだし、とりあえずは受け取るのがマナーだけれど、きっと連絡することはないだろうな、と思いながら私は手を振って去っていく蒼空に軽く一礼した。


急いで吉崎様の元へ戻ると、当然というか予想通りというか、ご機嫌斜めになってしまっている彼女を宥めながらも、結婚式プランはほぼほぼ決まってしまったのだった。

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