第1話 入籍は突然に
吉崎様との打ち合わせは、その後二回あったけれど、そのいずれも蒼空が顔を出すことはなかった。
特別会いたかったわけでもないし、何かを話したかったわけじゃない。
蒼空の名刺は貰っているのだから、いつでも自分から連絡することはできる。
けれどなんのアクションを起こすこともなく、なんで来ないのよ……というモヤモヤが募っていく。
パソコンで進行表を作成しながら、私は大きなため息をついた。
「どうした?珍しく大きな溜め息なんかついて」
声をかけられて顔を上げると、上司の有馬さんがデスクに手をかけて私の顔を覗き込んでいた。
「いえ、特に問題はないんですけど……」
私は自分の担当するお客様の問題点を人に話すのは好まない。
なかには自分の顧客のことをペラペラと面白おかしく話すスタッフもいるけれど、自分達の勝手な思い込みや感情で、カップルの幸せを図ることが嫌なのだ。
「だったらいいけど。何かあったら一番に相談してくれよ?俺はいつでも時間作るから」
そう言って微笑むと、有馬さんは自分のデスクに戻っていった。
有馬尊(ありまたける)は私の5年先輩で32歳。
最近昇格試験に合格し晴れて主任となった彼は、私の直属の上司になった。
爽やかで笑顔がよく聞き上手なので、お客様からは人気満足度が高い。
それは私自身も納得するところではあるのだが、私は最近この有馬さんとは距離を取りたいと思い始めていた。
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