第1話 入籍は突然に

もっというなれば月島蒼空とは小学校時代はかなり仲が良かった。


家は少し離れていたものの、方向は同じであったため、登下校も一緒になることが多く、私達はよく噂になっていたように記憶している。


中学校に上がってからはお互い部活などですれ違いが多くなり、ちょっとずつ疎遠になり、高校に入ってからは全く顔を合わせることもなくなってしまった。


その蒼空が今になってまさか私の目の前に現れようとは。


しかもこんな形での再会など、いったい誰が想像できたであろうか。


「本当に由華ちゃん……?」


久しぶりに私をそう呼んだ蒼空の声は、あの頃と違って低く優しく、男らしく変化していた。


「蒼空……だよね?」


いまだに確信が持てず曖昧に見せた笑顔に、蒼空はまるで花が咲いたかのように弾ける満面の笑みを見せてくれた。


「そうだよ、由華ちゃん。久しぶりだね」


「十年以上ぶりだもの。蒼空だったなんて全然気が付かなかった……です」


一瞬、プランナーとお客様であることを忘れそうになってしまった。


私は、慌てて口調を戻してみたけれど、吉崎様は眉を寄せて蒼空を訝しげに見つめた。


自分の婚約者とプランナーがいきなり馴れ馴れしく会話を始めたら、気に障るのも無理はない。


下手な誤解を招く前に、ここはきっちりと説明しなくては。


そう思い蒼空に再び視線を送ったけれど、どういうわけか蒼空は拗ねた子供のような表情で私を恨めしそうに見つめているではないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る