第4話 花

 伸一はその日、学校の敷地のランニングコースを走っていた。アスファルトの上をシューズで踏む度、足の筋肉から頭のてっぺんにかけて振動が走る。伸一はその振動に生きている心地を得ていた。

 校舎の裏側の坂道コースは住宅街に面しており、そこを上り終えると景色は一変し、木々に囲まれた下り道に差し掛かる。時間帯はちょうど夕方。道中の景色を覆う木々に囲まれると、不思議と学校という空間にいることを忘れる。

 木々がざわめき、一定のリズムを刻んでいた伸一の脚が不意に止まった。

 一瞬、世界の音が消えたような気がしたからだ。

 しかし、周囲の木々のざわめきは止まらない。

 どくん。

 伸一は自身の心臓が大きく波打つのを感じた。

 どくんどくん。

 今、動かないとまずいことになる。

「もう手遅れだ」

 自分の声がどこかで聞こえた。

 後ろ、前、右、左をみても、何もいない。

 ふと、足元に目を見やる。

 影。真っ黒な影が蠢いていた。

 伸一は上の方を確認したが、夕空の光は木々に隠れてしまっている。

「お前、誰だ。」

「ウツカゲ」

 

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