第3話 夢

「では、次、大沢君。将来の夢について発表をお願いします。」

「はい」

 教壇に立つ先生の声に、伸一のうわずった声が反応する。席を立ち、手元の作文用紙に目を落とす。

「僕の将来の夢は…」

 そこから伸一の耳には、自分の声を自身の耳で感じることが出来なかった。心臓が大きく跳ねるのを抑えることが出来ず、その振動音によって鼓膜が圧迫して、自分が息をしているのかも分からなかった。作文の文字を追っている眼は周囲のクラスメイトの顔を捉えたが、一人として熱心に聞き入っている様子は見られなかった。伸一の発表が終わるとまばらな拍手が起こった。

 視界が暗転する。

 気が付くと、伸一の四方八方をクラスメイトが囲んでいた。

「夢ってなに?」

「笑える」

「空っぽなのに」

 伸一は周りから浴びせられる声に耐え兼ね、目をふさぎ、耳を手で覆う。

 見るな見るな見るな。

「泣かないで、伸一」

 優しい女性の声。

 伸一は救いを求めるような表情で声の主の顔を目の当たりにする。

 女性の顔は空っぽだった。

 

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