第2話 夜

「ただいま」

 伸一は、方正が玄関の扉を開けながらいうのが聞こえた。

「おかえり」

 伸一は、リビングで寛いでいる美月の声に続けていった。

 伸一は冷蔵庫から牛乳を取り出し、玄関に向かった。方正と彼の足元の3匹の野良猫達の目が伸一を捉えた。伸一は、持っている牛乳を方正に渡した。

「しん、ありがと」

 方正が足元の猫用の餌入れに牛乳を注ぐと、その野良猫達は急いで舌を出し入れしながら飲んでいた。伸一は、その様子を玄関に座り込んでしばらく眺めた。

 伸一は、3匹の野良猫が時折こちらに目を向ける度、その場で立ったり座ったりした。すると猫たちはその動きを警戒しているのか、距離を取りながらも注意深く観察していた。そして、危険がないのがわかると再び、牛乳を飲み始めた。

 伸一は、猫たちの中の一匹の目に、大きな目ヤニが付いているのを見た。伸一は、その猫の顔をじっくりと見た後、他の二匹の猫の何もついていない顔を見ると、大きな目ヤニの猫がひどく可哀そうに思えた。

 目ヤニのついた猫に近づき、その背中を優しくなでた。

 目ヤニの猫は、最初こそ警戒したものの、その内に気持ちよさそうな唸り声を発した。伸一がぱっと撫でるのをやめると、その猫は甘えたそうな声を発しながら、伸一の足に頭や体を擦り付けてきた。伸一は自身の下腹部が、熱くなるのを感じた。

 

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