日記を書いていたら、突然異世界へと転生して、歴代のヒロイン達に呼び出されました

さばりん

日記を書いていたら、突然ヒロイン達に呼び出されました

「うしっ、こんなものかな」


 俺、さばりんはいつものように日記を書き終え、日記帳を閉じて一息ついた。

 寝る支度も整えたし、後はベッドに寝転がって睡眠をとるだけ。


「寝るか」


 特にやる事もないし、さっさと眠ってしまおう。

 そう思った矢先の事だった。

 突如、俺の頭に激しい頭痛が襲いかかる。


「う”っ、痛っ⁉」


 咄嗟に頭を抑え、その場にしゃがみ込む。

 そのまましばらく唸り声を上げていると、呼吸まだ段々と荒くなってきた。


「はぁっ……誰か……誰か助けを……呼ば……な……い……とっ……」


 その言葉を最後に、俺は目の前の視界が真っ暗になった。



 ◇



 ――ねぇ、ねぇってば!

 ――ダメですね。起きないようです

 ――起きろぉぉぉ!!!!


 ガンッという衝撃が脳天に突き刺さり、俺は目を覚ました。


「イテテテテ……ん?」


 辺りを見渡すと、一面真っ白の空間がそこには広がっていた。

 そして、倒れ込んでいた俺を囲むようにして、美少女達が俺を見下ろすように見つめている。


「えっと……君たちは?」

「やっと起きましたね。さばりん先生」


 名前を呼ばれて、俺は驚きと共に、どこかで見たことがあるなという既視感を覚えていた。


「えっと、確か……」

「中村愛梨、君が書いた処女作。『日替わり寝泊りフレンド』のヒロインよ」


 そうだ……この雰囲気といい、白地のワンピースで透明感あふれる装いに、ふくらみのある胸元、抜群のスタイル。

 俺が書いている小説のヒロイン、中村愛梨そのものだ。

 さらに周りを見渡せば、俺を囲むようにして立っていたのは、今まで書いてきた作品のヒロイン達であった。

 そんな中、愛梨さんが俺の目の前に立ってヒロイン達の言葉を代表するように尋ねてくる。


「さばりん先生、私達はいつになったら主人公君とイチャイチャできるのかしら? もうかれこれ一年以上もいちゃつけていなのだけれど? これ以上我慢の限界よ?」

「えっと……それはですね……その……」

「私達には我慢させておいて、他の女にばかり手を出して。ほんと、どこかの大地にそっくりね」

「す、すみません……」


 愛梨さんの言葉に、ぐうの音も出ない。


「いいから早くラブラブさせて頂戴」

「愛梨の言う通りよ。私だって、早く恭平と夜の続きをしたいのに」

「あなたは……果林さん⁉」

「そうよ。何かしら、第七回カクヨムコンが終わって、燃え尽き症候群気味になってから、スランプに陥ったさばりん先生」

「うぅっ……そ、その節は大変申し訳ありませんでした」

「どう落とし前つけてくれるのかしら?」

「えぇっと……もう少々お待ちください」

「もう待てないわ! 勝手に暴走して、カクヨムに乗せれないようなR-18作品にするわよ?」

「そ、それだけは、ノ〇ターン行きだけは勘弁してください!!」


 俺が土下座をかますと、愛梨さんと果林さんは腕を組みながら見下ろしてくる。


「じゃあどうして、続きを書いてくれないのかしら?」

「えぇっと……実はその……書き直しをしようと思ってまして……」

「か、書き直しですって⁉」

「それってつまり、私たちの人格を否定するつもりなのかしら?」

「ち、違います! そういうわけじゃなくて、愛梨さんや果林さんをもっと引き立てるための物語が自分自身で書けてないというか、もっとみんなに可愛い、尊い、エロイと思って貰えるように書きたくて……」

「なるほどね。なら、もっと大地と過激なことをしてくれるのよね?」

「えと……それは保証しかねますといいますか……」

「どうしてよ⁉」

「別にエロが全てではないですし」

「正論パンチ止めて頂戴!」

「なら私は、恭平と事を済ませるぐらいの事をしてくれくれるわよね? ベッドで擦り合った仲なのだから」

「果林さんは、もう少し自重させるつもりです」

「酷いわ⁉」


 ガックシと地べたに崩れ込む果林さん。


「と、とにかくですね! 魅力ある展開でなければ、読者は付いてきてくれないんです! それを考えられない、つまらないと読者に想わせてしまっている自分が悪いんです!」

「そんなの……別にいいじゃない」

「……えっ?」


 俺が顔を上げると、愛梨さんがスっと目を逸らしながら言ってくる。


「あなたが思う通りに書けばいい。たとえそれが読者が減ってるとか、そんなの関係ないでしょ。あなたはあなたらしく、自分が面白いと思うような物語を書けばいいじゃない」

「愛梨さん……」

「ってことで、いいからとっとと書きなさい」

「いえっ……実はその……最近自分で小説を書いても、面白いと感じれなくなってしまいまっているんです。どこかで『なんか納得いかないな』とか『微妙だな』とか考えてしまっている自分がいて……」

「なるほど、つまりスランプというわけね」

「はい……」


 俺が申し訳なく頷くと、愛梨さんはぴっと人差し指を立てた。


「なら一度、原点に返ってみたらどうかしら?」

「原点と言いますと?」

「物語の展開とか、カクヨムの注目の作品に載って作品フォローを増やしたいとか、週間ランキングランカーになりたいとか、リワードが貰いたいとか、そんなの関係なく、ただ自分が面白いと思うことだけを表現してみればいいじゃない」

「……そう、ですね。愛梨さんの言う通りです。もしかしたら、俺は少し考えすぎていたのかもしれません」

「まあでも、『理想欲望丸出しのオ〇ニー小説。キャラの魅力皆無、読む価値一切無し』って言うコメント付きレビューを書かれた時は、流石に私もそのレビューした人のキン〇マを踏みつぶしてやろうかと思ったわ」

「ヤバイ。ヒロインが俺より過激なこと言ってる。怖いよぉ……」

「とにかく、あなたが昔みたいに本当に面白い小説が書けるまで、私たちは待っているわ。その代わり、面白い小説が書けるようになったら、絶対に私と大地をイチャつかせなさいよ。分かったわね」

「はい、分かりました」

「それじゃ、また会いましょ」


 そうすると、再び世界が暗転し、俺は意識を失った。



 ◇



 目を開けると、俺はベッドの上に寝転がっていた。

 カーテンの隙間から朝日が漏れてきていて、小鳥のさえずりが聞こえている。

 俺はそのままベッドから出て、机に置きっぱなしになっている日記へと手を伸ばした。

 するとそこには――


『私たちはずっと、待っているわよ』


 と、俺とは違う筆跡で書かれた文字が書いてあった。

 俺はふぅっと息を吐き、虚空を見上げた。


「書くか……」


 ヒロインが俺の心の中で生きている限り、ずっと続きを待ち望んでいるのだから。

 まあでもその前に、面白い小説とは何ぞやというスランプから抜け出すのが最優先だけどね。

 そんなことを思いつつ、今日もカクヨムのワークスペースを開いて、文字を入力するのであった。




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