第645話

必死になって目の前の巨人から繰り出される刀を防ぐ。だがその余波が、周囲の樹々と旅人達を両断してく。それはまるで、お前は何も守れていないのだと見せつけるような行為だった。


「この野郎。」

「駄目よルドきゅん。落ち着きなさい。彼らのダメージを引き受けてしまったら、あなたはまた両断される事になるわ。」

「何でそうなるんだよ!」

「あれは貴方と反対の力を持っているからよ。」


俺の近くに居るのは危険だと感じた皆は距離を取って離れている。だけど、師匠だけは俺の肩に乗りずっと俺に語り掛けてくれていた。


ガギンッ!ゴギンッ!


顔に笑みを浮かべながら何度も何度も刀を振るうアードザス。その度に、離れているハズの味方が切り裂かれる。


その後に、七色の光りが切り裂かれた味方に降り注いでいた。


「向こうは大丈夫。ルリちゃんが奇跡の薬を作り出してくれたわ。そのお陰でまだ誰も死んでいない。だからあなたは自分が生き残る事を考えなさい。」

「そうは言ったってなぁ!俺のアイデンティティ全否定のこいつを許せるかってんだよ!」

「許さなくても良い。反撃する機会は必ず来る。それまで耐えなさい。」

「師匠は何でそんな事解るんだよ!」

「こいつの一部を取り込んでるからよ。」


はっ?師匠は突然何を言いだしたんだ?こいつの一部を取り込んでる?そんな訳無いだろう?


「不思議そうな顔をしてるわね。」

「そりゃ。」ガキンッ!「そうだろ!」ガゴンッ!「突然そんな事言われたらなぁ!」


クッソ、詳しく話を聞きたいのに奴さんが邪魔して来やがる!一撃でもまともに喰らえば終わりだってのに、どうしてこう面倒臭い話が出て来るんだ!


「ふふふ、まぁそうよね。でもよく考えて?普通の人だった私が、不老不死に近い悪魔になるなんて、それこそ世界に仇なす何かを取り込まないと無理だと思わない?」

「嫌、それは色欲の大罪スキルを手に入れたからだろ?」


師匠は一体何を言ってるんだ?再開した時に自分からそう言ったじゃないか。それともあれは嘘だったって事か?


「それだけで本当に不老不死になれると思う?もしそうなら、シアちゃんも不老不死って事になるわよ?」


そう言えば、シアも暴食の大罪スキルを持ってる。だけどシアは普通に成長してるな。体も大きくなったし、翼も増えた。でもそれは精霊だからじゃ無いのか?


「不老不死って事は不変と同義なのよ。精神も、体も、何も変わらない。だからこそ、シアちゃんが成長しているのはおかしい事なのよ。」

「つまり師匠は大罪スキルを手に入れただけで不老不死になった訳じゃ無いのか。」

「そう。私は貴方を待つ為に世界中を回ったの。そして、この場所にももちろん来た事が在るわ。そして、成長する前のあの樹に出会った。あれはまだ言葉も発せなくて、何かをする力を持っていなかったの。だけど、その身に宿す力は私が求める物と同質だった。だから私はあいつの種を1つ盗み出す事にしたの。儀式によって私の都合の良い部分だけを抜き取り、他の部分は封印してるわ。だけど最近その種の力が強くなって来た。だから解るのよ。あいつは、あの巨人は私と沢山の人の想いを利用したんだって。精霊を暴走させ力を取り込むと同時に、その行いを邪魔する中で一番の脅威になる物の姿を取る。それがルドきゅん。貴方だったって訳。」


いやいや、そんな事言われても俺は何もしとらんぞ!ただ精霊達の気持ちを受け止めてやっただけで。


「それだけであなたを狙って居る訳じゃ無いのよ。あなたのとある力が狙われているの。」

「力?ふんぬっ!」ガキィ!ギリギリギリ!「力って何の事だよ!」

「神に至る為の器。あなたの力の根源。あなた自身に刻まれた、巨神の残滓。あれが狙っているのはソレ。あなたの脳よ。」


いやいやいや!意味が解らん!俺の脳に異常はない筈だ!病院でしこたま検査して貰ったけど問題無しのお墨付きを貰ってるんだぞ!


「異常じゃないのよ。だから調べても出て来なかった。あなたはこの世界で初めて、神に己を貸し与えて神自身を撃退したの。その際に貴方は特異体質になってしまっていたのよ。脳を生体コンピューターにする事で、神になってしまったあなたは管理者で在る特殊AIと同じ情報処理能力をその脳の中に獲得してしまったのよ。この世界全てをあなたの脳内に収めても普通に生活できる程に。」

「話が難しすぎて解らん!ぬあぁぁぁっ!」ガキンッ「簡単に説明してくれ!」

「あれは貴方の体を乗っ取って、生みの親の所に帰ろうとしているのよ。」


確かにあの方の為にとかなんとか言ってたが、それだと世界を滅亡させるって話を矛盾しないかい師匠?


「何も矛盾しないわ。この世界を壊し、住んでいる人達を全て取り込み。あいつは存在進化を果たして人格を得る。そのうえであなたに成りすまそうとしている。」

「そうしたら俺はどうなる!」

「表面上は貴方のままよ。でもそれは貴方じゃない。別の何かよ。」

「だったら貸してやる訳には行かないなぁ!」


ニヤニヤと笑いながら刀を振るう巨人を弾き飛ばす。少しだけ時間が取れたが、このままではさっきまでの攻防と同じことが繰り返されるだけだ。だけど巨神鎧も、ミルバも使うなと師匠は言う。一体全体どうしたら良いんだよ!


「貴方には仲間が居るじゃないの。彼女達に少しは活躍させて上げなさい。」

「そうです!こういう時の為に私は強くなったんです!おりゃぁーっ!!」

「グゲッ!?」


師匠の言葉が耳に入って来ると同時に、俺の足元から1つの影が飛び上がって来た。その影は、高く高く飛び上がったかと思うと巨人のにやけ顔を派手にぶっ飛ばす。自分よりもはるかに小さな存在に殴られるとは思っても居なかったのか、アードザスは情けない声を出しながら後ろによろめいた。


「全く。ルドさんは色んな事に巻き込まれ過ぎです!後生体コンピューターになったらAIと同等の処理能力が在るって何ですか!人間の脳は元々凄い情報処理能力を持ってるって言われてるんですよ!ルドさんだけが特別じゃないんです!」

「そう言う話では無いと思いますわよ?」

「だね。多分あのAI達も取り込めるくらいに凄いって事なんじゃない?国家防衛用のAIを全て内包出来るってかなりおかしい事だもの。」

「ひ、人を化け物みたいに言うのは良く無いですよ?」

「それくらいええんとちゃう?実際問題こんなヘンテコウィルスに狙われる人間なんて普通の人やないやろ。まぁ人じゃなくて巨人やけど。」

「もう!そんな事言ったちゃ駄目だよお姉ちゃん!ルド兄様の事ちゃんと助けないと!」

「ベニちゃんの言う通りだよ!私達でパパを守ろう!」

「( `,_・・´)フンッ」

『前みたいには成らへんで!今度こそ父ちゃんの力になるんや!って言うてるわ。』

「さて、私の武器を返して貰いましょうか。その手に持つ刀。ミラージュウェポンで作りだしているでしょう?」


俺の目の前にクランメンバーが並び立つ。リダが、ルゼダが、クリンが、モッフルが、ルリが、ベニが、シアが、アイギスが、タンケが、それぞれ武器を構えて立ち塞がる。ってタンケは怪我どうしたんだよ!相手に取り込まれた部分は無くなるんだろう?後どうやってここまで来た!?


「ふふふ、ここまで来た方法は秘密です。あっ、怪我の方はルリさんの薬で回復しましたよ。他の負傷者の人達も続々復帰して来ています。」

「うちは望んだ物を何でも作れるようになったからな!もう誰も死なせへんで!」

「があああああああああっ!」

「あぶねぇっ!」


アードザスが刀を振りかぶり、目の前に立つ皆を切り伏せようと攻撃を繰り出す。俺は咄嗟にその攻撃を防御しようとしたが、その必要は全く無かった。


バンッ!「肩なの握りが甘いですよ?」

ドシューッ!「( ・_<)┏━ バキューン」『それじゃ狙ってくれって言うてるようなもんや。』

「ぐおおおおっ!?」


タンケのライフルとアイギスのレーザーが刀を握っている巨人の親指を撃ち抜く。痛みで親指が跳ね上がり、刀の握りが不安定になった。


「さぁその武器はタンケさんの物です!返して貰いますよ!」

「うっほほーーーーい!」ドゴンッ!

「援護しますよ<森羅万象>!」

「ぬあっ!?」


握りが甘くなった所で、柄頭をモッフルの友魔で在るゴリさんが力一杯殴る。それと同時に巨人の手が凍り、持っていた刀がすっぽ抜けた。


「行くでベニ!」

「良いよおねぇちゃん!」

「そいやっ!!」


飛んで行った刀が形を崩し、中からキラキラとした鏡の様な物を付けた手が飛び出し来た。アーロンに乗ったルリが、その手に乗せたベニを放り投げ。投げられたベニがその手を回収した。


「返せ!」

「あれは元々あなたの物では無いですわよ?」

「だから返して貰うよ。」

「ぐおおおおおおおおっ!!」


ミラージュウェポンを取り返そうと手を伸ばした巨人。その手に光りの矢と輝く太陽の様な剣が突き刺さる。痛みに腕を引っ込めるアードザス。その間に、鏡は持ち主の元に帰っていた。


「さぁここから反撃の時間ですよ!」ドゴンッ!

「がふぅっ!?」ズズーンッ!


痛む腕を抱えていたアードザスの顎をリダが下から殴り飛ばす。顎をカチ上げられた奴は、そのまま後ろに倒れて行った。


「なぁ、これ俺いらなく無いか?」

「そんな事ないわよ。これでやっと五分五分よ。だからあなたも頑張りなさい。」


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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