第644話
意味が解らなかった。ベニと一緒に斬られた?いや、衝撃波や体に攻撃を受けた感覚は無かった。だけど斬られた。生命愛護の効果は?ベニを庇ったんだからダメージは全て回復に転嫁される筈では?本当に意味が解らない。
それよりなにより、もっと意味が解らない事は。ベニの体が真っ二つになり、地上に落ちて行く事だ。俺は守った筈だ。身代わりになった筈だ。なのに、どうして、何で、ベニは斬られてるんだ?
べしゃっ
斬られたベニの体が地上に落ちる。地面に粘土か何かが落ちる様にやけにあっさりと。その光景を俺は信じられなかった。
「あ、あ、あああああああああ!」
声を上げながら落ちたベニに駆け寄る黒い鎧。あれはルリが作ったアーロンだったか。という事は乗っているのはルリか。
「嘘や!嘘や嘘や嘘や!しっかりしぃベニ!悪い冗談はやめぇ!はよ起きぃな!はよ、はよぉ!」
アーロンから降りて二つに分かれた体に縋りつくルリ。その間に、俺の体はくっ付き戻って行く。金剛巨人体の特殊効果が発動したからだ。
「ルリ!」
「ルドきゅん盾!」
「っ!?」
ガギンッ!
いつの間にか黒い巨人が俺に向かって刀を振るって来ていた。盾で受け流す事によってダメージは受けなかったが、まともに受けていたらまた死んでいた。それ程の威力だった。
「くっそ!<巨神「駄目よ!それを使っては駄目!大勢の人が助けられなくなる!」ぐっ!このっ!離れろ!」ガァンッ!
刀を大きく弾き、相手の体をよろめかせる。その間に俺は距離を取った。だが黒い巨人は直ぐに俺に肉薄してくる。背中に攻撃を喰らおうがお構いなしだ。完全にロックオンされちまったみたいだな。
「このっ!仲間の復活くらいさせやがれ!」
その光景は嘘みたいな光景やった。いつもみたいに、ベニが槍を持って突撃して、相手に大ダメージを与えた倒して、皆で笑い合って終わるって思っとった。
やけど実際にはそうならんかった。目にも見えへん高速攻撃。気が付いた時には、巨人の刀は振りぬかれた後やった。
その後に、驚きの表情をしたまんまルリのアバターが真っ二つになって落ちて来た。うちは、気が付いたらその場所に走っとった。
目の前に在るのは虚ろな目をしたアバター。これはゲームやから、妹は絶対に大丈夫やから。そう自分に言い聞かせても、どうしても止まれんかった。だって、今ゲームの中で死んだら現実には戻れへんのやから。
「ベニ!紅!!はよ目ぇ覚まさんかい!お姉ちゃんが来たで!なぁっ!」
真っ二つになって、傷口から大量に黒いポリゴンを吐き出す体を揺する。やけど、反応は全く帰って来んくて。何度呼びかけても、強く体を揺すっても、紅は反応を返してくれんかった。
「そやっ!チャットやったら返事が来るかもしれん!紅は悪戯好きやから、リスポーンボタン押さんとそのままにしてうちの反応見とるんや。そうに決まっとる。」
そう思ってチャットを送るけれども、一向に返事は帰って来んくて。ポリゴンになって行く体が徐々に、徐々に消え始めて行って・・・・。
「あかん、あかんで!誰か復活出来へんのか!うちの妹を助けてくれへんか!」
「ベニちゃん。残念だけど・・・。」
「どうにかならんのんかイルセアはん!魔法で復活とかは!」
「復活の魔法も、アイテムも、無いのよ。無いの。」
「そんな・・・・。そんなぁ・・・・・・。」
うち等は楽しくゲームをしたかっただけやのに。明日も笑って、あれしようこれしようって話したかっただけやのに・・・・。どうしてこうなったんや何で、うちがこのゲームに誘ったのが悪かったんか?何とか出来るって、たかがイベントやって思ってたのがあかんかったんか?どうしてうちやなくて、紅がこんな目に遭わなあかんのや・・・。
『無ければ作ればよい。』
「・・・・?誰や?誰の声や?」
「どうしたのルリちゃん?」
ただただ、消えて行くベニを見て居るしか出来へんうちの頭にどこからか固いおっさんみたいな声が響いて来た。
『作ればよいと言ったのだ。我らが創造主よ。』
「だから誰や言うてんねん!創造主って何の事や!」
「どうしちゃったのルリちゃん。一旦落ち着いて、ねっ?」
傍に負ったイルセアはんに心配されてるけど、うちはそれ所やなかった。なんでか、この声はしっかり聞かなあかんってそう思ったんや。
『声の主は私だ。私だよ創造主殿。』
声が聞こえるのと同時に、うちの頭上に影が射した。その影の正体は、さっきうちが乗り捨てたアーロンやった。
「な、何でアーロンが喋ってんねん!?」
『我等は会話をしているのではない。ただ思念を伝えているのみ。これも創造主殿が付け加えてくれた能力の一部。お忘れか?』
アーロンには搭乗者の意思をリンクさせて動かすシステムを搭載してある。それがこの現象を引き起こしてるちゅうことか?
『そうだ創造主殿。』
「んなあほな・・・。」
『事実なのだから仕方ない。そして問おう。なぜ蘇生出来るアイテムを作らない。』
「なんでと言われてもうちは作り方を知らんし、材料も無いやないか。」
ここに来るまでにインベントリの中の物資の殆どは使い切ってしまってる。今うちは回復アイテムも武器の一本も作れへん状態なんや。
『材料ならそこら辺に在るではないか。』
「どこにあるっちゅうんや?」
『空気。大地。水。光。あらゆる物が材料になる。そうであろう?』
「いや、そんなの出来る訳ないやん。」
『出来る筈だ。我等を作った創造主ならば。“精霊を新たに生み出した”あなた様ならば。絶対に出来る。』
うちが精霊を作り出した?何言うてんねんこいつは。そんなもん何処に・・・・。はっ?
「えっ?はっ?アーロン達は精霊なんか?」
『そうだ。我等は機精霊。司る属性は【生産】。創造主がこの世に生み出した、新たな精霊である。そんなあなた様が、たかが蘇生薬を作れないとでも?』
「でも何をどうしたらええか・・・・。」
『ただ願えばよい。何が必要なのか、何を作りたいのか。その願いを受けて、我らが生み出そう。作り出そう。創造しよう。我々は、貴方の子供なのだから。』
気が付いたらうちの周りにアーロン達が集まっとった。本来の持ち主が突然勝手に動き出した事で驚いとるのが見える。集まったアーロン全部から、自分達なら出来ると思念が伝わって来た。
「うちは蘇生薬が欲しい。ううん、それだけやない。あのベニを傷付けよったボケカスをぶっ飛ばす力も欲しい。」
『もっと、もっと強く願うのだ。』
「ベニを取り戻して。あいつをぶっ飛ばしたい。」
『もっとだ!』
「薬と力を寄越せ!」
『『『『『『『『『『心得た!!』』』』』』』』』』
ピコンッ♪ルリはオリジン<万物創造>を獲得。それに合わせ、万能戦闘移動工房アーロンは機精霊アーロンに種族進化しました。
機精霊アーロンの補助を受け、蘇生薬の製造を開始。
空中に在る魔素と太陽の光を材料に制作。成功。
ルリは蘇生薬を手に入れた。
『さぁ、早速使われよ。』
「ほんまおーきに!さぁベニ。起きるんやで。」
虹色に輝くポーション。それが出来上がった蘇生薬の姿やった。瓶の中からキラキラと七色に輝く光りがこぼれて、ベニの体を包み込んでいく。瓶の中身が全部出た所で強く体が輝いた次の瞬間。ベニの体は元通りに戻っとった。
「ベニ。起きや紅。遅刻すんで?」
「うーん。お姉ちゃん後5分・・・。」
「良かった。ほんまに良かった・・・。紅。」
若干寝ぼけとる妹の頭を撫でて、無事に戻って来た事に安堵した。やけど、この子だけが助かっても意味が無い。薬も力も手に入った。やから、自分の出来る事をやる。
「傷付いた人には蘇生薬配るで!回復薬も魔力薬も何でも作る!必要な分は取りに来るんや!武器や防具に必要な素材も出すさかい。生産職の皆は手伝ってんか!」
体が残っとらへん人に対して蘇生薬が使えるのか、うち等が作業しとる事に気が付いて巨人が攻めて来るのか。それは今は解らへんけど、何でも作れるこの力は今、この時に全部使うで!あのルド兄の偽物をぶっ飛ばす為に!待っとれ糞ゲロ巨人が!
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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