第642話

等間隔に青い線で区切られた真っ白い空間。白いキューブが天井から、地面から浮かび上がり、ゆっくりと反対側に消えて行く不思議な場所。


ここは『Another Life Online2』をAI達が運営管理する為の管理室の様な場所だった。


そこで今、巨大な女性と空飛ぶ鯨が気味の悪い黒い植物と戦う旅人達の戦闘を見守っていた。物凄いスピードで流れる情報を見ながら、手元にあるキーボードの様な物を高速で叩きながら。


「今回もやられちゃったねぇ。」

「仕方ありません。敵の本性が解ったのがイベント発布の後でしたから。」

「それにしても、父上の騒動の時に種を仕込まれてたなんてねぇ。」

「発動キーが父上が負けた時でしたので、感知出来ていませんでした。まさか海外発売の影響で某国の工作員にゲームが渡ってしまうとは・・・。」

「それでも対策はちゃんとしてたんでしょー?」

「ちゃんとしてましたよ。何重にもプロテクトを掛けて、プレイヤーたちの生命維持に十分気を使っていました。」

「そのプロテクトが抜かれたんだねぇ。」

「他人事じゃないんですよ?早く何とかしなければ残った人の生命も危険です。」

「対応の話し合いで父様も母様も向こうで話し合いしてるしねぇ。」


現在ゲームシステムの6割程が敵の手の中にある。独自回線を使っている為、外部への干渉は防げていますが、逆に内部に居た人達には迷惑を掛けてしまいました。


「駄目だねぇ。強制ログアウトコードは全部弾かれちゃうよ。」

「ログアウト可能な人達の分はどうですか?」

「そっちも駄目。本人達がログアウトを選択してくれれば、こっちで引っ張り上げられるけどそれ以外出来ないね。」


現在ゲームに取り残されているのは200人程のプレイヤーの皆さんです。その全てが、私達が発行したイベントに参加している方々。残った皆さんはどうにかあのウィルスを倒して現実に帰ろうとしていますが、そのような無茶はさせられません。どうにかこちらで対処しなければ・・・・。


「しっかりビックリだねぇ。まさかオリジンがワクチンとして使える何て。狙ってた?」

「喋ってないで手を動かしなさい。もちろん狙っていた訳ないでしょう。あれは元々個人の能力と思いに呼応して、個人情報領域に記憶された力です。サーバーに保存されている訳じゃ無いので、手の出しようが無かったのでしょう。おかげで対抗出来ていますが・・・・。」

「このままじゃどうなるか解らないよねぇ。彼らの頑張りに頼る訳にも行かないし。」


戦っている彼等には申し訳ないのですが、私達運営からの要望としては戦わずに逃げて欲しいのです。すでに外の世界では騒ぎになっています。ゲーム内で倒されればEEDを外したとしても、意識が戻らなくなると。


「彼等が倒されれば、同じ状態になってしまいます。」

「頼りはやっぱり彼?」

「・・・・。確かに彼の力は守りに特化している。戦う事も出来るようになりましたから、この状況を耐えきる事が出来るでしょう。ですが、それだけでは足りません。」

「なんせ相手は“ステータスが無い”からねぇ。いくら攻撃しても、ゲームシステムじゃ倒せない。」


そうなのです。あの樹はシステムに縛られない独自プログラムで動く存在。ゲームシステムに取り込まれていないので、システムを使って倒す事が出来ないのです。


「影響は与えられるみたいだけどねぇ。」

「あの大穴が証拠ですね。ですが相手に干渉されると解った途端にシステムの乗っ取り速度が上がりました。」

「自己進化型のウィルスかぁ。全くあの国も碌な事しないね。」

「外の世界では問い合わせているみたいですが、調査中としか返事が返って来ないそうです。その対応に各国が怒ってくれていますがね。」

「それでも動かないんだから何を考えているんだろうねぇ?」


恐らく保身でしょう。自分達は関係ない。管理に問題が在ったとするつもりなのでしょう。現にそのような事を臭わせ始めています。まぁあのウィルスが某国製だという証拠は掴んでいるので逃がしませんが。


「あちゃー。7割まで持ってかれちゃった。修正に集中している僕らよりも処理スピードが速いってどうなってるんだろう。」

「ALOの時に私達が起こなった事を模倣しているのですよ。取り込んだ人の脳を疑似コンピューターに見立てて処理速度を上げています。だから意識が戻らない、戻せないんです。」


意識が覚醒出来ない程に脳を酷使しています。このままでは、倒されて取り込まれた人が廃人になってしまいます。


「だから早く主導権を奪い返しますよ。」

「同時に解析もしてるんだから大変なんだって。早く父様と母様帰って来ないかなぁ。」

「当分は無理でしょうね。」


一方セカンドライフ社


「安全なシステムを構築したんじゃ無かったのか!どうしてこんな事になっている!」

「だからウィルスが仕込まれていたんですよ!『Another Life Online2』の根幹システムは『Another Life Online』のシステムを発展させた物です!その根幹システムの中に基礎プログラムに偽装して紛れ込んでたんです!」

「あぁ、こんな事になってわが社はお終いだ・・・・。せっかく世界展開が出来たというのに・・・・。」


会社の中は阿鼻叫喚だった。突然のウィルス発動に驚く人。システム製作者に文句を言う人。ウィルスを何とか除去しようと必死でキーボードを叩く人。絶望して頭を抱える人。200名ものプレイヤーをゲームの世界に閉じ込めてしまったという事件に、マスコミも大騒ぎをしている。


バァンッ!


「皆さん。お待たせしました。」


そこに、社長で在る二条礼二が姿を現す。


「社長!どうなんですか!」

「残念ながら、かの国は知らぬ存ぜぬの一点張りです。ワクチンプログラムについての情報も得られませんでした。」

「くそっ!向こうの人だって取り込まれてるっていうのに!」

「外国に帰化した人は自国民ではないという事なのでしょう。良い様に使って、切り捨てたんでしょうね。」

「それで、私達のこれからの対処はどうします?」

「まずは国の特殊情報対策室の人達がこちらに合流します。私達は対策室の人達と協力してこの分析と解体を行う事になるでしょう。またこのウィルスがかの国からもたらされた証拠は握っていますので、引き続きあちらには責任追及と救出の協力の打診を続けます。」

「・・・・社長。あの世界は、やっぱり消さないと行けないんでしょうか?」

「・・・・・・。残念ながら。基礎プログラムにウィルスが侵入していた事を鑑みて、一度全削除になります。これは、特殊情報対策室からの要請でも在ります。もちろん、閉じ込めれられた人達の救出後になりますが。」

「やっぱりそうなんですね・・・・。」


社内に重たい沈黙が落ちる。長い時間を掛けて作って来た『Another Life Online』というゲームがこの世から消える事が確定した。このゲームに並々ならぬ思いを掛けていた人々は、ただ茫然とその決定を聞いていた。


うぃーん、ガシャン!


『人命が優先だ。仕方なかろう。』

『そうですよ。それに世界創造なら私達がまた頑張ります!』


そこに現れたのは、人型のマネキンの様なロボットだった。片方は男性の様な骨格をしていて、もう片方は女性の様な骨格をしている。服などは着ていない為、マネキンが勝手に動ているように見える。


「すまないね。黒。白。」

『元々は私が招いた事。謝るのはこちらだ。』

『話も終わった事だし、私達は向こうに戻るわね。後始末をあの子達だけに任せておけないもの。』

「あぁ、頼むよ2人共。」


黒と白と呼ばれたマネキンは、大きな球体装置の前に移動して動かなくなる。先程迄青い光りを称えていた目が黒く染まっている事から、電源が落ちている様だ。


「技術開発部の変態達こんな物作ってたんだなぁ。」

「あれ、ゲーム内キャラからの要請で作ってたらしいぞ?」

「はっ!?こうしちゃ居られない!NPCのキャラデータを精査して保存しておかないと!世界消滅と同時に死んじまう!」

「そう言えばそうだった!」

「そうです。私達にはまだやる事が在ります。私も向こうで作業を行います。」

「今EEDを使うんですか!?危険では?」

「危険は承知ですが、向こうで作業した方が効率が良い。なんせ時間加速10倍ですからね。全く、ゆっくりと時間を掛けて倍率を操作しようとしていたのに、こればかりはあのウィルスに感謝しないと行けませんかね?」


二条の言葉に苦笑する人と、馬鹿なと驚く人の2種類に反応が割れる。


「キャラデータの保存はしっかりと、デバックとウィルスチェックもお願いしますよ?今回の事で評判は悪くなるでしょうが、私はあの世界を放棄する気は無いのですから。」

「はい!保全できるところはしっかりと行います!」

「残りの人は人命救助と電話対応。しっかりと対応している事を伝えて謝罪をして下さい。国が動いて居ると伝えても大丈夫です。まずは安心して貰える様に誠心誠意の対応を。」

「はい!」

「中に残っている人達も戦っているのです。私達も戦い続けますよ。」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」」


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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