第641話
旅人達の猛攻を受けて、増えた植物はどんどん数を減らしていく。増えた樹にも捕食能力が備わっている事を危惧して、俺は地上に降りて来ていた。
その予想は大当たりの様で、増えた樹々は俺に向かってその大口を叩き付けて来る。まぁボスの分身体なだけあってダメージは全く入らないけどな。
「どんどん攻めるのです!」
増えた樹を倒す事に、本体で在る樹が萎んでいく。それを好機と見たメガネが攻撃指示を出すが。俺は別の所に注目していた。
「なぁリダ。あの脳髄。段々下がって来てないか?」
「下がってるというより、樹に吸収されているように見えますね?」
幹の部分に大穴を開けたアードザス。その弱点と見られる脳髄の部分が、増えた樹を倒す事に徐々に樹の中に飲み込まれているように見える。樹が萎んでいるのは、何かをしているからじゃ無いのか?
「気になるなら報告した方が良いんじゃないですか?」
「そう思ってさっきからチャットを送ってるんだが、どうも未送信になってるんだよな。」
「あっ本当ですね。おかしいなぁ。」
メガネは後方で指揮を取っているからここからだと声が聞こえにくい。だからチャットを送ったんだが読まれていない様なんだよな。
「お、おい。お前大丈夫か?顔が真っ青だぞ?」
「あわわわわ、あああああああああ。」
「どうしたおい!しっかりしろ!」
チャットの不具合を確認して頭を捻っている所で、近くに居た旅人の1人の様子がおかしくなっていた。指を突き出した状態で中空を見つめながら震えている。何が在った?
「ろろろろ、ログアウト出来ねぇ!飯食いに帰ろうとしたら、それが出来ねぇ!!」
「はっ?嘘だろ?・・・・なんだ、出来るじゃねぇかよ。ビビらせやがって。」
「・・・・・・俺も出来ない。どうなってるんだコレ?」
「私もログアウト出来なくなってる!?なんで!?どうして!?」
騒ぎは瞬く間に広がって行く。不思議なのは、ログアウト出来る人と出来ない人がハッキリと解れている所だ。どうしてこうなった?
「ルドさんはログアウト出来ますか?私は一応出来ましたけど。」
「俺か?ちょっと待ってくれ。」
メニュー画面を開いてログアウトの項目を選ぶ。だが選んだ所でブーッ!とビープ音が鳴り操作が拒否されてしまった。
「まじか?ログアウト出来なくなってるぞ!?」
「それは本当なのルド君?」
「あぁ。操作が弾かれてログアウト出来なくなってる。」
「きゃっ!?」
ログアウトが不可能になった事に驚いていると、近くに居た旅人の女性が例の黒い植物に襲われた。幸い目視出来る距離に居た為に、ミルバの力でダメージを肩代わりする事は出来た。が、その後の変化に全員が驚く事になった。
「なんで!?さっきまでログアウト出来たのに!どうして出来なくなったの!!」
攻撃を受けた女性がログアウト不可能になっていたのだ。つまりこれはあの植物に攻撃されると、ログアウトが不可になるという事で間違いない。
「植物の攻撃を受けていない者は直ぐにログアウトしろ!外に出て異常を伝えてくれ!」
「ルドさん!植物たちが一斉に攻撃してきました!」
「結界を張れる奴は攻撃を受けてない奴を守ってやれ!逃げれる奴はその間に現実に逃げろ!」
俺の言葉にログアウト出来る人は即座にゲームから離脱して行く。ログアウト出来ない人達は、現実に帰って行く人を見て絶望の表情を浮かべていた。
「リダ達も逃げて良いぞ。」
「逃げません。ルドさんを置いて行けませんから。」
「私も残るわよ。ルド君だけじゃ何も出来ないだろうし。」
「僕も一緒に居ますよ。仲間が居れば、何とか出来ます。」
「クリンが残るなら私も残りますわよ!この状態がずっと続くとは思えませんわ!」
「そうやで!運営もこの異常は感知しとる筈や!だから絶対何とかなる!」
「お姉ちゃんは逃げても良いんだよ?私がログアウト出来ないからって残らなくても・・・。」
「アホいうな。妹を置いて逃げる姉はおらんで!」
「あわわわわ、これからどうしましょう私達!」
いつの間にか皆が傍に集まっていた。ルリの話を聞くに、ログアウト出来ない条件はあの黒い植物に触れているかどうかだな。
「そんでもってこの異常は進行している訳だ。メニュー画面が開けなくなったぞ。」
「本当ですね。砂嵐の画面しか見えません。」
「唯一オリジンスキルだけは見えますわね。なぜこれだけ見えるのかが不思議ですわ。」
「自分自身に紐づいているからとか?」
「そこまでは解りませんわね。」
「皆さんここに居ましたか!」
俺達が話していると、メガネが多くの旅人を引き連れてこちらに来た。
「皆さんもログアウト出来ない状態ですか?」
「俺とルリが出来ない。他は出来るが帰らないみたいだな。」
「そうですか。命の保証が出来ない現状ではすぐにログアウトして頂いた方が良いと思うのですが・・・。」
「この異常の原因はやっぱりアードザスに在ると思うか?」
「十中八九、あの樹が原因ですよ。あの脳髄と樹の同化が進むごとに、こちらに不利益が発生しています。ログアウト不可に加えてメニュー画面の操作不能。それと、例の黒い植物に倒されたら意識不明のままになるそうです。」
「外部の情報から得たのか?」
「メニューが使えなくなる直前に、ですがね。兄弟プレイヤーの片方が倒され、現実に戻っても意識が戻らないそうです。」
こりゃ完全にゲームシステムが壊れ始めてるな。
「あの樹は世界の崩壊を目指しているんですわよね?」
「本人がそう言ってたな。」
「それは、ゲームを壊すという事と同義だと思いますわ。だけどゲームキャラにそんな力が在るとは思えないんですの。そこら辺の情報は無いんですの?」
「さっき報告に上がって来た情報が在ります。」
そう言ってメガネが語ったのは。今回の敵の正体に関する情報。イベントが始まってすぐ、薄暗い路地や人の来ないような場所に空神や巨神様の幻影が現れていたらしい。
彼等曰く。旅人の意識に乗って世界を取り込もうとする意志が働いている。その意思の所為で自分達が干渉する事が難しくなっていて、人の意識が少ない場所でしか顕現できなくなっていると。
そして、今回のボスに関して。今回のボスはALO時代に残された異物。父神を操っていた某国の残したウィルスが元になっていると。
そのウィルスはALOの時代からこの世界の地下に潜り、厄災の裏に隠れて活動し続けていたんだそうだ。そして、住人の一部を洗脳した上で、システムに干渉して自分の手足となる旅人を呼び寄せていた。
そのウィルスの目的は、父神を通してこの世界(ゲーム)を乗っ取れなかった場合に世界事破壊するという物。それが、今回問題を起こしているボスの正体らしい。
「この話を聞いた旅人も、唯のイベントだろうという事で報告していなかったそうです。ですが、ログアウトが不可能になった事で話を思い出してくれました。」
「世界を壊す為に俺達は巻き添えかい。」
「死者を出して評判を落とそうという事なんでしょうね。」
「全く迷惑な話だわ。」
「それで?この異常はあいつを倒せば納まるのか?」
「はい。クエストを受けた私達自身があの樹に対するワクチンとなる予定だったそうです。そのプログラムは現在も動いて居ます。」
「どうしてそれが解るんですの?」
「オリジン。それがワクチンの名前だからですよ。」
確かに俺達のオリジンスキルはまだ動いて居る。俺達の中で言えば、ベニとイルセアだけが持って無いけどな。
「オリジンを持っている人はあの樹に対抗出来ます。ですが、ここから先は本当に命の保証は在りません。逃げられる人は、逃げた方が賢明かと。」
「逃げられない奴はどうなる?」
「・・・・。この世界で死ねば。現実で意識が戻らず遠からず死亡するかと。」
その言葉に残された旅人達の絶望は深くなった。うんうん、最悪の未来はしっかりと見据えておかないとな。じゃないと対策出来ない。
「そうか。さて、じゃああの樹をぶっ飛ばすか。」
「えっ?話を聞いて居ましたか?命の保証が無いんですよ?」
「大丈夫だろ。俺が居れば。ダメージなら全部肩代わりしてやる。」
「では思いっきり私の力をぶつけましょう!」
「オリジンを持ってないのが悔やまれるわね。今すぐ生えてこないかしら?」
「うちもオリジン欲しいわぁ。まぁでも、除草剤の効果は在るみたいやしそっちで頑張るで!」
「私は一生懸命走ります!そして、あの樹を倒してお姉ちゃんと帰ります!」
「モッフル動物園全職員出動です!」
「皆さん・・・・・。」
「戦わないと生き残れない。そうだろ?だったらやる事やろうぜ。大丈夫、皆守ってやるからよ。」
「はいっ!」
こちらの人数は大幅に減ったが、それでもまだ戦えるくらいの人数は居る。さっさとあの樹ぶっ飛ばして、ゆっくりと現実に帰るぞ!
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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