第639話

「やっとここまで来れたわね。」

「そうねぇ。ザーラタンが浮上する影響で、渦潮が発生するとは思わなかったわ。」

「普通に考えたら解る事じゃねぇか?それより準備は良いのかよ。」

「えぇ、準備はバッチリよ!」

『では最接近しますぞ!』

「ゴーゴーゴー!」


ルド君達との話し合いを終えた後、私達は直ぐにボンさんに乗って海に出たわ。蛇の元へと移動を開始していたのだけれど、ザーラタンが持ち上げられた影響で海流が生まれて一度海底まで飲み込まれてしまったの。


でもまぁ、元々海中を移動できるボンさんの力で乗員は全員無事。しばらく海底で様子を見ていたら、海流も何とか動けるくらいに落ち着いてきたからやっと目的地に向かって動く事が出来るようになったって訳。


「あんまり悠長にしている時間も無いみたいだし、全員攻撃準備をしておいて頂戴。」

「他からの連絡を聞いてビックリしたわ。狙った訳では無いのでしょうけど、敵があの事件を再現している何てねぇ。ちょっと因果を感じるわね。」

「あの時私達は何も出来なかった。今度は、そうじゃない。」

「おぉ!気合入ってんな魔女の姉ちゃん!」


気合も入るって物よ。あの時は私も居たんだから。あの事件の解決にルド君が犠牲になる所だったって事も聞いてる。でも、今度はそうさせない。


「ふふふ、種を撒いた甲斐は在ったかしらね?」

「さぁもうすぐ尻尾が全部出るぞ!攻撃準備をしておけよ!」

「バフを掛けておくわね。<歓喜の黄>」


船上の上で旅人達のバフスキル発動の光りが煌めいたわ。その光景はとても綺麗で、これから戦うのでなければルド君と見て居たい光景だったわ。


「出るぞ!」

『ギイイイイイイイエエエエエエエエエエエエッ!!』


発声器官なんてもう動かない筈なのに、その蛇は大きく鳴いたわ。口の奥に最初見た時よりも大きくなった黒い袋の様な物も見える。


「今にもはち切れそうねアレ。」

「大丈夫よ。今から根絶やしにするんだもの。<憤怒の赤>」

「<火炎槍>!」

「<ライトニングレイ>!」

「<シャインサンダー>!!」

「<光輪剣>!」


現れた蛇に向かって色とりどりの魔法が飛んでいくわ。私の魔法も確実に目標に着弾するコースを取ったのだけど。


「ギュっ。」バクンッ

「まっ当然よね。」


ドドドドドドドドドガゴォォォォォォォン!!


種子袋に命中するかに思えた魔法は、蛇が口を閉じた事で命中する事なく弾け飛んだ。蛇の防御力はかなり固いみたいね。ほとんどの攻撃が無力化されてしまったわ。だけど、一部効果の在った攻撃が在る。


「鑑定スキルの結果通りだけどね。」

「光系統の魔法とスキル。それとあなたの情色魔法は効果が在るわね。私の爪は残念ながら弾かれたけど。」

「そもそも悪魔の貴方の属性は闇じゃない。攻撃の威力が殆ど吸収されるのは解り切った事でしょう?」


さて、これで念の為の情報収集が出来たわ。ザーラタン自体の弱点もあの種子袋の主、アードザスと同じと言う事も解ったわね。


「後は相手に耐性獲得能力が在るかどうかだけど。」

「試している時間は無いわね。一気に壊さないと種が飛び発つ方が早いわ。」

「となるとどうにかしてあの蛇の口を開けないといけないわね。」


蛇を貫通させて中の種子を狙っても良いのだけれど、先程の攻撃の結果を見るとここに居る人だけでは火力が足りないわ。さて、どうしようかしら?


「まぁまずはデバフよね。<悲観の青>」

『ぎゃっふ。』


私の魔法に合わせて船のあちこちからデバフスキルが飛んでいくわ。だけどその効果を受けた蛇がくしゃみをしたわ。それだけでデバフの効果は全て消えてしまっていたの。


「駄目ね。弾かれたわ。」

「くしゃみで消されるのは地味にショックよねぇ。じゃあ直接倒すのはどうかしら?<絶望の黒>」

『ガフッ。』ごくんっ。


即死効果の在る絶望の黒の発動。それに合わせて似たようなスキルが飛んでいくわ。だけどその魔法やスキルは、蛇が一口で飲み込んでしまったわ。


「食べられちゃったわね。」

「流石にこれで中の種子が死んでるとかは・・・。」

「無いわねぇ。」


うーん。他に方法は・・・・。うん?即死効果の在る物を食べた?それじゃあ、同じ魔法やスキルを食べる瞬間に口の中に光魔法を叩き込んだら?


『ガアアアアアアアアアッ!!』

「おいおい何かするなら早くしてくれよ!このままじゃボンがもたん!」

『ひぃぃぃぃですぞ!逃げるのに必死なんですぞ!』

『ガウン!』バクンッ。

『ギャーーーーッ!マストが喰われましたぞ!』


私が考え事をしている間にも、蛇が攻撃を仕掛けて来ていた。蛇の噛み付き攻撃で船の一部が食べられてしまったわ。幸いマストに登っていた人は喰われる直前に飛び降りたから無事だったけど。このままだと私達も船ごと喰われて終わるわね。


『ギャアアアアアアア!!』

「魔法迄使い始めたぞ!?」

「ボン全速回避!」

『すでにやってますぞ!!』

「スタコラサッサー!!」


蛇の周辺に黒い球体が浮かび上がって、そこから矢の様な魔法が次々に発射され始めたわ。さっき思いついた事を実行に移したいけど、これだけ激しく船が動いて居たら魔法の狙いが定まらない。どうにかこちらに向かって口を開けさせたいのだけど・・・・。


「ちょっとで良いわ。制止する時間を稼げないかしら?」

『この状況で止まったらこちらがやられますぞ!?』

「障壁もしくは防御のスキルを持っている人は?」

「すでに展開して貰っているが、あの蛇の攻撃ですぐに割られちまう!1秒も持たんぞ!」

「一度潜航して攻撃をやり過ごしましょう。相手は空中に居るから潜れば少しは狙いが反れるわ。」

「すぐに潜るのよボン!」

『言われなくても潜りますぞ!』

『ギィィィィィィィヤァァァァァァァァァ!!』


急速潜航して海に潜った船。蛇の方はしばらく攻撃して来ていたけども、私達の居場所を見失ったのか攻撃を辞めて必死に海面に向かって首を伸ばし始めたわ。私達の事を警戒してなのか、口はずっと閉じたままね。


「被害状況は?」

「盾職と防御スキルを使っていた何人かがダウンした。今ヒーラーが回復してくれてる。」

「攻撃スキルは軒並みリキャストタイムだ。種子を何とかしようと闇雲に攻撃してた奴等につられて全部使っちまってる。」

「魔法はまだ行けます。ですがMPを回復する時間を下さい。」


少ししか戦闘していないのにボロボロにされてしまったわね。攻撃力の高い人達を集めて貰ったのに勿体無い事をしたわ。


「この後はどうするの?あれをどうにかしないとルドきゅん達が動けないわよ?」

「口を開けさせる方法は解ったのよ。だけどその後の攻撃が」ピロン「あら?誰からかしら?」


種子の始末に悩んでいるとチャットが届いたわ。私はその内容を読んで、少し打ち合わせした後に海上に出る様にカーラさんに頼んだの。


「一瞬出るだけで良いんだな?」

「えぇ、後は彼がやってくれるわ。そこで撃ち漏らしたら私達の出番だけど。」

「・・・・。解った。ボン!全速力で海上に飛び出せ!やるなら派手にやっちまおう!!」

『ひぃぃぃぃぃ!!確かに飛べますが無謀ですぞー!?』

「言われた事はさっさとやるのよボン!発進なのよー!」

「少しでも魔力が回復した人は手伝って頂戴。私の魔法に合わせて即死系統の魔法をお願い。」

「さぁ飛び出すぞ!」

『こうなったらやけくそですぞ~!』


ザッパァァァァァン!!


「<絶望の黒>」

『ギャアアアアアアアアアアッ!!』


海面をジッと見て居た蛇が目の前に突然飛び出して来た私達に反応して首を持ち上げる。その瞬間に私達は魔法を“空に向かって”撃ち出した。


蛇は私達を追いかける事を辞め、空に打ち上げられた魔法に向かって大口を開けて飛びつく。即死系の魔法は闇属性、あいつに取っちゃ種子を飛ばす為に最も欲しいエネルギーって所ね。


だけど私達の魔法を無料で上げる訳には行かないわ。代償は、払って貰うから。


「バフを掛けますわよクリン!<救済の祈り>!」

『お気をつけてクリン様。』

「やっちゃえクリン!」

「(* ̄0 ̄)/ 」

『やっちまえ坊主!』

「ありがとうルゼダ!喰らえ<旭日の剣>!!」


私達が打ち上げた魔法を追いかけていた蛇のさらに上空で太陽の様な光が発生する。その光は剣の形を取り、さらに青白い光りがそこに加わった。


その剣を振り上げたクリン君が、ものすごい速度で蛇の口の中に特攻して行く。蛇の方も突然の事に口を閉じようとしたのだけれど、ディアちゃんの加速力が乗ったクリン君はそれよりも早く口の中に飛び込んだ。


ピカーーーッ!ボンッ!


蛇の体のあちこちから光があふれ始め、最後には爆発と共に砕け散った。海上に戻っていた私達は、飛び散る破片に種子が混じっている事を懸念して迎撃しようとしていたのだけど、その必要は無かったみたい。蛇の破片は海に到着する前にポリゴンになって消えて行った。


「アードザスの種子袋、討ち取りました!」


そんな私達の頭上を、ディアちゃんに回収されたクリン君達が通り過ぎて行ったわ。さぁ、これで厄介な種子はどうにかなった。後は本体だけね。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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