第638話

防衛線が始まって1時間くらいでしょうか?攻めて来る敵に見慣れて来て、また同じ人が攻めて来たと考えていた時にその違和感に気が付きました。


「メンバーが、減っている?」

「調べさせますか?」

「お願いします。ただ単にログアウトしているだけなら良いんですが・・・。」


戦況はこちらが一方的に押しています。右腕前も左腕前も拠点が完成し、生産班の一部の人達が前線に出て来て防壁を作ったりもしてくれています。そのお陰でかなり楽に戦えているです。


「普通に勝てないと解って逃げたんじゃねぇか?」

「あの黒い樹が体に生えている見た目もコケ脅しだったからなぁ。」

「特に強化されてる感じがしないもんな。」

「だねぇ~。普通に対人戦してる感じだもん。」


襲って来る旅人の体には、どこかに黒い植物が生えています。最初は何かの強化を受けていると思っていたのですが、戦闘を開始してすぐにそれが間違いだと気が付きました。


相手の攻撃は盾職の人手抑えられますし、こちらの攻撃が普通に通るのです。倒された旅人は悔しそうにしながら消えて、その後には何も残りません。罠の様な何かを警戒していたのですが、本当に何も無いのです。


「意味もないのにあんなものを生やしているとは思えないのですが・・・。」

「諜報班から報告!敵に生えている樹は、生えている旅人が倒された場合にその能力を奪う力を持っていると判明!奪われた力は地下に居るボスの元に送られています!姿の見えない樹人達はボスの傍で儀式を行っている模様!」

「という事は倒したら不味かったのか!?」

「他に情報は在りませんか?」

「先ほどの情報を最後に、深奥まで潜入していた諜報班からの連絡は途絶しました・・・。」


非情にまずいですね。敵を倒せばボスが強化される。でも倒さなければ私達が負けてしまう。物語では敵を説得して戦いを止めたりも出来ますが、現状その策は取れません。なぜならば相手は話をせずにこちらに襲い掛かって来るからです。


「このっ!いい加減に負けを認めろよ!勝てないって解ってるだろうが!」

「・・・・・・・・。」

「くそっ!まただんまりかよ!」

「何でそんなに戦うの?そんなに私達を倒したいの!!」

「・・・・・・・。」

「お前等自分達がやってる事解ってんのかよ!このままだと世界が滅びるんだぞ!ゲームが終っちまうんだぞ!」

「・・・。」


この様にこちらの問いかけには一切反応を示しません。ですが、先程の報告を聞いた今であれば別の答えが浮かび上がって来ます。


「なぁこれって敵はあの樹に操られてないか?」

「俺もそう思う。向こうのボスがどちらに転んでも言い様にこいつ等に種を植え付けて操ってんだよきっと。」

「ふむ、試しに樹だけを除去できますか?」

「魔法班!光魔法で樹を焼いて見ろ!」

「了解です!<サンシャワー>!!」


魔法使いの人が光りの魔法で敵に生えている樹だけを狙撃します。攻撃を受けた樹木は炭になって崩れ去り、旅人の体はその場で崩れ落ちる様に倒れました。


「倒れた奴を確保!回復出来そうでしたら回復して上げて下さい!」

「近接班回収に行くぞ!」

「盾班フォローに回れ!」

「その間私達は敵を足止めするよ!」


何人かの赤ネームの旅人が回収されてきます。回復スキルを受けて、そのうちの1人が目を覚ましました。


「おい、おいっ!大丈夫か!」

「あ、あぁ。助かった。マジで助かった!ありがとう!ありがとう!!」

「お前等どうなってるんだよ。まるでゾンビみたいに何度も何度も攻撃して来やがって。一体どうなってるんだ?」

「ゾンビみたいじゃねぇんだよ。ゾンビにされてんだよ!あの糞忌々しい樹の所為でな!お前等の声も聞こえてた・・・。でも反応できなくされてたんだよ・・・。」

「詳しく聞かせて貰えますか?」


助け出せた人達からの話を統合すると。赤ネームの旅人達は大樹が爆発した後に樹人達に呼び出されたんだそうです。そして、あのボスの樹の元に向かう事になりました。


彼等が見たボスの樹はボコボコと体が膨張と縮小を繰り返しながら蠢いて居たそうで。その姿を見て逃げ出そうとしたそうなのですが、樹人達の力で動けなくされて種を植え付けられたんだそうです。


その種は体を徐々に蝕み今まで育てて来ていたスキルを奪っていくような代物。もちろん赤ネーム達もそんな事を許せるはずも無く戦おうとしましたが、種の効果なのか声を出す事も体を動かす事も出来ない状態になっていたそうです。そして、樹人達に命令されて私達の“足止め”をしていたと。


「死んだ連中が外部チャットでキャラデータ事喰われたって騒いでた。ログインしようにもキャラクターが存在しませんって出るんだとさ。新キャラを作ろうにもイベント終了まで作成機能が死んでるらしい。」

「おいおい、それってやり過ぎじゃないか?どうなってるんだこのゲーム?」

「遊びたいのに遊べないとか終わってない?普通に通報案件じゃないのコレ?」

「あっ駄目!今通報出来なくなってるよ!」

「本当だ。公式HPの意見投稿フォームも動いてない。」

「えっ?えっ?えっ?マジでどうなってんの?」


一旦ログアウトして直接電話を掛けた人も居たようですが、それも繋がらないそうです。この状況、あの時に似ていますね。


「皆さん落ち着いて下さい。誰かALOをやっていた人は居ませんか?」

「あっそれなら俺やってました。」

「私も!」

「でしたら何か思いつく事が在るのでは?」

「おいおい、前作をやっていたからなんだってんだよ。」

「そうですよ。何か関係在るんですか?」

「「ああああああああっ!!」」

「えっ!?何々?突然どうした?」

「「ALOのデスゲーム!!」」

「そう、その通りです。」


ツインズの片方である黒。この世界では父神が起こした突然のデスゲーム。あの時も一切外部との連絡が取れない様になっていました。GMコールも駄目。メールも駄目。電話も出来ないという状況は非常に似ています。今回はログアウト出来るのであの時よりも脅威度は低いですが、それでも同じような状況になっている事は間違いありません。


「えっ!?それじゃあ何か?俺達死んだら本当に死ぬの?」

「いやそれは無い。本当に死んでたら外部チャットで報告出来ないからな。」

「ほっ。それなら一安心・・・・。」

「いや、そうでも無いかもしれないぞ?」

「えっ!?」

「もしこのまま状況が悪化したら、ログアウト自体が出来なくなる可能性が在る。」

「それはそうだけど。現状出来るんだから大丈夫だろ?セカンドライフ社もそこら辺のセキュリティはかなり強化したって言ってるし。」

「だからだよ。強化されたからログアウト出来ているだけで、もしその機能が掌握されたら?」

「でもそんな事本当に在るの?だってゲームだよ?」

「このゲームには前科が在るんだ。2度目が無いとは言えない。」

「「「「・・・・・・・。」」」」


憶測が憶測を呼び、不安が大きくなり過ぎて皆さん静かになってしまいました。確かにいわれた通りの状況になれば怖いでしょう。あの時も突然現れた神を名乗る人が世界の理を変え、死がつき纏うゲームにしてしまったんですから。


ですが、今回は状況が違います。


「その神が味方で、私達がこの場に居ます。」

「リダ隊長?」

「敵がこのまま成長したら、確かに言われた通りの事が起こるかもしれない。ですが、今私達はここに居ます。止める事が出来ます。そこの貴方。樹人達は何か言ってませんでしたか?樹の成長に関する事や、世界の崩壊の事について。」

「あっ、えっと・・・。確か旅人をあまり喰わせたくないとか言ってた筈だ。だから力だけを抜き取れるように種を植えたとか。後、あの巨人の兄ちゃんをかなり警戒した。点滴になる?とか言って。でも点滴だったら健康になるよな?」

「それって点滴じゃなくて天敵。つまり弱点になるって事じゃない?」

「期限については何か言ってませんでしたか?」

「えっと、えっと・・・。そうだ!あいつ等今日の夜には儀式が完了して世界が終るって言ってた!種子がばら撒かれて世界が終るって!」

「そうですか。でしたら大丈夫ですね。」

「大丈夫?それはどうしてですかリダ隊長?」

「私達がどうして作戦行動をしているか忘れましたか?」

「あーっ!そうだよ!俺達は尻尾の蛇に在る種を消し去る為に行動してたんだよ!」

「確かに!それにもうそろそろ尻尾攻撃部隊が攻撃を開始する時間だわ!」

「これで勝つる!俺達は助かるぞ!」

「何でお前等もう尻尾の事を知ってるんだよ!?俺達の秘密だったのに!」


どうやら今回は運よく先手を取れている様ですね。ならば私達はこれ以上ボスが強化されない様に赤ネーム達を救出するのみです!


「向こうにも連絡して光り系統の魔法で樹を消去する様に伝達を!これまでの話の経緯は私の方で報告を上げておきます。防衛も続けますよ!」

「「「「「はいっ!!」」」」」」


鍵は尻尾に在る種子ですね。頼みますよイルセアさん!



毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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