第635話
「ルドさんイルセアさんから連絡!尾の部分で敵のボスが準備している種子を確認!その種をばら撒いて世界を壊すつもりだって!」
「そうかよっと!んじゃこの地面から次々出て来る“黒い口”は何だ!」
最初に見つけたのは本当に偶然だった。なぁーんか足が動かし辛いなぁと思っていたら、いつの間にか足にびっしりとその植物がくっ付いて俺に噛み付いてたんだ。だからそこら辺で暇してそうな盾職の旅人に、生産部隊の所に持って行って分析を頼んだんだが・・・・。
その分析結果が返って来るよりも前に、植物の方に変化が在った。
大樹の方で爆発が起こった後、俺の脚にくっ付いていた植物は一斉に枯れ出したのだ!足からポロポロと剥がれ落ちて行く植物を見て一安心していたんだが、その後急に地面から先程よりも大きな直接口を生やした植物が生えて来た。食虫植物みたいな見た目じゃなく、人の口が直接生えている様な見た目でかなり気持ち悪い。
そんな気色悪い物体が、地面から生えて手当たり次第に周囲に居る人達を襲い始めた。もちろん味方への攻撃を防いだ俺は、今絶賛その植物にガジガジと齧られている真っ最中って訳だ。ダメージは無いし喰われる事も無いが本当に鬱陶しい。いっそ無敵化して攻撃してやろうか!!
「それは敵ボスの一部らしいよ!下手に捕食されたら復活しても体が欠損したままになるって!」
「俺現在進行形で滅茶苦茶齧られてるんだけど!?」
「食べられなかったら大丈夫なんじゃない?という訳ですので部隊の皆さん気を付けて攻撃して下さいねぇ。まぁ全部ルドさんが防いでくれると思いますけど。」
「「「「「はーい!」」」」」
「このまんまだと動けねぇんだから早く除去してくれぇ!段々体に巻き付き始めてるんだよ!」
執拗に俺の体に齧り付いている草を除去できたのは、イルセア達が海上から帰還してこちらの様子を見に来た時だった。その頃には全身真っ黒になる位植物に文字通り絡み付かれていて、草ごと魔法で焼かれる結果になったよ・・・・。地味に硬いんだよこの植物。おかげでリダや一部攻撃特化の人の攻撃以外では引き剥がせなかったんだ。はぁ、酷い目に遭った。
「助けて上げたんだから感謝してもいいと思うわよ?」
「へぇへぇ、助かりましたよっと。それで何でメガネ迄こっちに来てるんだ?草原拠点の方は?」
「あちらの拠点は壊滅しました。いやぁ、参りましたねぇ。」
はいっ!?草原拠点が壊滅!?保護した精霊達は!?ローズやルゼダ達はどうなった!!
「はいはい、大丈夫だから落ち着きなさいな。保護した精霊達はローズさん協力の元、ディアちゃん達航空部隊の力を借りてグルンジャ大陸に避難させたわよ。ルゼダちゃんとクリン君はその付き添いに行ったわ。」
「向こうには精霊の郷が残っていますからね。他の大陸に連れて行くよりも落ち着けるでしょう。それにかの国は精霊保護こそが国の使命だと対外的に周知している唯一の国。ですから傷付いた精霊達を手厚く保護する事を約束してくれましたよ。」
そうなのか。それならまぁ一安心かな。だけど肝心な事が一切聞けてないぞ?
「何で拠点が壊滅したんだ?」
「それはね。ザーラタンの口から大量にあの黒い植物が生えて来たからよ。」
「突然の海中からの攻撃でしたからねぇ。ですが事前に情報を得ていたおかげで誰も食べられずに対処出来ました。まぁ精霊を逃がす事を優先した為に、満足に防衛できなかったんですけどね。」
「そのお陰で保護対象を無傷で逃がせたんだから良いじゃない。という訳だから草原地帯はあの黒い植物で覆われてしまったわ。今やルド君が居る場所が一番の安全地帯になったのよ。」
安全って言ったって敵の勢力圏のど真ん中な訳だが?それにあの草原が使えないとなると補給が受けられなくなるんでは?
「その通りよ。私達は増援も補給も受けられない。まさに孤立無援ね。」
「この状態で残りの精霊の保護は難しいと言わなければなりません。ですので、これからはボスの討伐を主体として動こうと思います。」
「はいっ!」
「はいリダさん。どうしたんですか?」
「船で人員や補給物資を運べないんですか!」
確かに、飛行船が降りる場所が無くなっただけだからな。船であればまだこの場所に近づけるんじゃないか?途中まで人や物資を飛行船で運んで、そこからここまで船で移動するとかさ。
「さっきも言ったでしょ?海中から植物が生えて来たって。」
「近づく船はその植物に沈められてしまうんですよ。先ほどの変化でここから逃げ出そうとした赤ネーム達の船が沈められる所を目撃しています。唯一ボンさんだけが攻撃を掻い潜れますが、必要量の物資や人の補給考えると、とても一隻だけで賄える量では在りません。という訳でボンさんには別の事を頼んでいるのですよ。」
「そうなのか。ん?そう言えば転移でここに直接来れた筈だよな?やられちまった人に連絡を入れて物資を持って来て貰うのはどうだ?」
「その転移陣が置かれていたのがあの拠点ですが?」
あぁ、転移して来たら即座に植物に喰われる訳か。それで旅人が復活出来てもこちらに来られなくなっていると。
「あの黒い植物に体の一部が食べられれば、復活しても元に戻らないというのは連絡した通りです。外部のSNS何かではすでに全身を喰われてログイン不可になってしまった人の書き込みが在りますよ。」
「まじか。ってかゲームの中からそう言うの見えるんだな。」
「ちょっとした課金要素ですけどね。どうやら大樹の上で精霊の保護活動をしていたチームが丸ごと食べられたみたいです。その後は一切のログインは不可になっていると。この情報の所為でこのイベントに参加しようという人が減ってしまっています。」
「それって仕様何だよな?バグとかじゃないんだよな?」
ログインできなくなる何てゲーム会社からしたら罰以外でやりたくない事だろうし、もしかしたらバグなんじゃないかと思ったんだが・・・。
「どうやら仕様みたいですね。キャラクターの情報に捕食中と表示されているみたいですので。」
「そう言えばタンケの奴も手足が喰われたんだよな?」
「タンケさんもグルンジャに退避して貰ったわ。厄災武器を取られて申し訳ないって言ってたわよ。」
自爆してリスポーンする直前に喰われたんだから仕方ないと思うけどな。そういえば厄災武器には譲渡不可のルールが在った筈だ。だというのに敵に利用されているって言うのも変な話だな。もしかして魔物だったらルールの適用外なのか?
「そこら辺に関しては私共の仲間が鑑定をして情報を得ています。どうも腕と一緒に食べられた事で、実質的にはタンケさんが使用しているという状態になっているみたいですね。」
「そういや、吸収って属性が在るんだったか。」
「そうです。タンケさんのキャラクター情報すらも吸収して厄災武器を使っているというのが私達の見解ですね。あと敵の弱点に祝福とありましたが、旅人にもたらされている祝福はもう効果が無いとも考えています。」
旅人にもたらされている祝福?そんなの在ったか?
「死しても復活する事と、どんなに体が損傷しても復活すれば元に戻る事ですよ。」
「あぁ!成程!」
「最初に植物が枯れたのはタンケさん他多くの旅人を捕食してその祝福を取り込んだからダメージを受けた影響だと見ています。その後の急激なパワーアップは、弱点である祝福の力を取り込んで克服したからですね。つまり、これから旅人が捕食されればそれは単に相手をパワーアップさせるだけになってしまうでしょう。」
「だから齧られても食べられないルド君の傍が一番安全って訳。」
成程なぁ。そう言う事なら確かに俺の近くは安全だろう。なんせずっと齧られても相手の歯は俺の肉を抉れなかったからな。とはいえだ。
「そんな状態でこれからどう動くんだ?敵の居場所は解ってるが、地上の敵を倒したら海中の種が広がるんだろ?詰んでねぇか?」
「そうなんですよねぇ・・・・。樹人達もまだまだ数が居ますし、こちらが苦戦している事を知って赤ネーム達に勢いが戻って来ています。このままですとクエストクリアも不可能に近い・・・・。」
「本当に困った物よねぇ・・・・。」
『ふははははは!ならば我々に任せるが良い!』
『私達が来たからもう安心だ!進化したウィンドラの力ここで見せてくれる!』
ゴォッ!
俺達がこれからの攻略をどうしようか悩んでいる所で、上空から野太い男の声と女性の声が響いて来た。直後、樹々を揺らしながら巨大な影が飛来し俺達の上に濃い闇を落とした。
その影の先端がこちらをのぞき込んでいて、その顔はとても見覚えのある物だった。その頭に乗って仁王立ちしている人にも良―く見覚えがある。というかさっき自分達で言ってたしな。
『対処は簡単。この亀事持ち上げれば良いのだ!今の我ならそれが出来る!』
『という訳だ!遅れたが私達も参加するぞ!人も物資も大量に持って来たからな!』
ポカーンと上空を見上げる俺達の前で、ウィンドラとアインは楽しそうに笑顔を浮かべていた。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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