第632話

「モサちゃん戻って!タンケさんが!」

『駄目だ主よ!あそこにはもう戻れん!見ろ、道はもう塞がっている!』


モサちゃんに言われて後ろを振り返った私は愕然としました。なぜなら、さっきモサちゃんが通り過ぎた場所に次々と黒い棘が突き刺さり続けているからです。その棘は、崖を登って行く黒い水から生まれていました。


「そんな、タンケさん・・・・。」

「うっほほ、うほー!!」(呆然としている暇は無いぞ主!)

「ホーッ!」(早く上に知らせなければ!)

『2人の言う通りだぞ主!このままでは上に居る仲間も精霊も危険だ!そうなればあのタンケという男の捨て身も無駄となる!』


そうです!タンケさんは自分を犠牲に情報を持ち帰れと言ってくれたんです。こんな所でボーっとしている訳には行きません!


「それにタンケさんも旅人です。死んでもリスポーンしますもんね!」

『そうだ!我々はまず上に出て仲間に危険を知らせねば!』

「うっほー!」(この精霊達の保護も必要だぞ!)

「そうです。私達がやられてしまえば彼女達も食べられてしまう。そんな事させられません!」


檻の中に入っている樹精霊達は、先程の光景を見て自分達の未来がどうなっていたかを悟ったのでしょう。遠くを見つめている人や、膝を抱えて泣く人、自分はあいつ等に付いて行きたく無かったとぼやく人と様々です。とくに、樹人と主だってやり取りをしていた樹精霊は真っ青な顔で必死に体の震えを抑えているように見えます。


「大丈夫ですよ。私達が助けますからね。モサちゃん全速力でお願いします!」

『心得た!』


モサちゃんが一層体を縮めたかと思えば、先程よりも速度を出して階段を昇って行きます。その速度に合わせたのか、黒い水からの攻撃も早さを増しましたが全く追いつけていません。


「光が見えました!」

『このまま上空に逃げる!主は別に動いた仲間に連絡を!』


ビュオッ!ドドォーーーン!


黒い水の溢れる穴からモサちゃんが飛び出したすぐ後に、その穴から無数の黒い棘が爆発するように生えました。その衝撃で黒い水があちこちに飛び散って広がって行きます。


上空に逃げた私達は何とかその水からも逃げ、少し落ち着く事が出来ました。私はその間に別動隊とルドさんに地下で見たことをチャットで送ります。ですが、両方共に返事が在りません。何か在ったのでしょうか?


「ホーッ!」(別動隊が襲われている!)

「本当ですかホーさん!どっちですか!」

「ホーッ!」(あっちだ!)


ホーさんが指し示した先では、怯える精霊達を連れた仲間がこの大樹の淵に追い立てられている所でした。


対面しているのは樹人達と、地面に生えていた黒い手。手にはいつの間にか口が生えていて、精霊達を護衛している旅人達に噛み付こうとしている様に見えます。


「モサちゃん!」

『到着と同時に牽制攻撃を仕掛ける!』


空から急降下して現場に急ぐモサちゃん。そして、丁度旅人達の上空に差し掛かった所で口から水のブレスを吐き出しました!」


「ガアアアアアアアアアッ!」

「なっなんで御座る!?一体どうしたで御座るか?」

「隊長!上に何か居ます!」

「あれはモッフルさん!タンケさんはどうしたで御座るか!」


突然の事に驚く別動隊。その中の1人が私達に気が付いてくれたおかげで、この部隊を取り纏めていた忍者の人が気付いてくれました。


「タンケさんは地下の化け物を止める為に足止めしてくれています!それよりも全員ここから退避して下さい!」

「退避しようにも逃げ道が塞がれたで御座る!精霊達も全員確保出来て無いで御座るよ!」

「モッフルさん!俺達はここで他の場所に捕まっていた精霊を助けた仲間と合流するのを待ってたんだ!そうしたらこいつらが突然襲って来た!その仲間にも連絡取れないんだよ!」


もし私達が倒されてもリスポーンして連絡は取れる筈。それが出来ていないという事は逃げている途中か。不測の事態が起こったという事ですね。


「残念ですが今保護できている精霊達の安全を最優先します!グーちゃんエーちゃんワーちゃんお願い!」チリーンッ♪

「ケーンッ!」(任された!)

「ぼえ~。」(どれ、運んでやろうかの。)

「ギャーッ!」(乗れる人はエーちゃんに乗って!私達は牽制するよ!)


大樹の淵に固まってくれていて良かった。おかげで即座にエーちゃんに乗って離脱する事が出来ます。グーちゃんとワーちゃんには私達と協力して敵の足止めを頼みました。


「順番に乗るでござる!精霊が優先で御座るよ!」

「敵の航空部隊からの攻撃には十分注意しろ。」

「まだ攻撃出来る人は敵の迎撃に力を貸すで御座るよ!」


別動隊の人達も足止めに協力してくれています。敵からの攻撃も飛んできますが、そこは各自で防御をして何とかしのいでいます。


「あっ危ない!」

「ホーッ!」(逃げろエーちゃん!)

「ぼえっ!?」(急には動けんわい!)


その時、撃ち漏らした敵の攻撃がエーちゃんの背中に向かって飛んでいきます。それに気が付いたホーさんが慌ててエーちゃんに逃げるように言いますが、エーちゃんは胸鰭を使って人を乗せている最中。急に動けば、鰭に乗っている人達が地上に落下してしまいます。


「田辺さんシールド!」チリーンッ♪

「ガメッ!!」(そらよ!)


バチュンッ!


私は即座にエーちゃんの背中に田辺さんを呼び寄せ、シールドを張って貰いました。敵の攻撃は田辺さんのシールドに当たり霧散。誰も傷付く事は在りませんでした。


「田辺さんそのままエーちゃん達を守って下さい!」

「ガメッ!」(おうよ!)

「モッフル殿にだけ任せてばかりは心苦しいで御座る!我等も頑張るで御座るよ!」

「精霊達は乗り込んだ!乗り込める奴から順次乗り込め!」


保護していた精霊達は何とかエーちゃんに乗り込む事が出来た様です。後は部隊の人達が乗り込めばここから離れられます!


「逃がすな!神からのお告げだ!あ奴等も贄とするのだ!」

「神の手も手伝って下さっているぞ!奮起せよ!」

「おぉっ!見よ!神が新たな力を発揮されたぞ!」


私達を攻撃して来ていた樹人達が歓喜の声を上げます。その声に呼応するように、私達を食べようとしていた黒い手の草が形を変えていきました。


「そんな、どうして!?」

「おぉっ!これは奴等が使っていた武器では無いか!さすが我らが神!」

「さぁその武器で不遜な異教徒に天罰を!」


グニャグニャと変形していた草が形どったのは、タンケさんが良く使っていたライフルでした。その銃口が、全てこちらを向いています。


「全員防御姿勢!銃撃が来ます!」

「何であいつ等が銃を使ってるで御座るかぁ!?」

「そんな事言ってる暇が在ったら身を低くしろ!」


バゴォーーン!


敵の銃が発射されそうなまさにその時、地面の下から響く衝撃と、吹き上がる炎が見えました。


「これは、地下で何かが爆発したで御座るな?」

「今の内に全員乗り込め!敵は混乱しているぞ!」


レンジャー部隊の様な格好をしている人の言う通り、敵は今の爆発音で混乱していました。関係なさそうな草花も、急激に萎れて行きます。


「そんなっ!神に何かあったのか!?」

「急いで確認しに行くぞ!」

「あいつ等はどうする!?」

「あそこ迄逃げられてはどうにも出来ん。それよりも神の無事を確認するのが優先だ!」


樹人達が周りの変化に狼狽えている間に、私達は大樹を離れていました。敵の攻撃を警戒していましたが、彼等はこちらに見向きもせずに炎が上がった場所。恐らくあの黒い水が流れ出していた穴でしょう、その場所を確認しに移動していきました。


「このままルドさん達の所を目指します!全員しっかりと掴まって居て下さい!」

「ふむ、空飛ぶ鯨で御座るか。忍術が上達すれば某も口寄せ出来るで御座るか?」

「そんなの知る訳無いでしょう!それよりも帰還できなかった隊員の確認が先です!」

「そうで御座るな。」


この作戦で戻って来なかった旅人は5人。暴走直前まで追い詰めた精霊達を収監している場所に向かったのが最後だったそうです。そして今だにその人達とも連絡が取れていません。一体どうなっているんでしょうか?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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